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復讐の果てに

こっそりと抜け出し、向かった先は全てが始まった王国。

誰も僕達を追ってこないのは些か不思議だった。過去が見える受付さんも未来が見えるヒトもいるのだから。

目前に聳える巨大な城壁。魔物から身を守るために造られたそれは異様に頑丈なことで知られている。

あの壁の向こうに、あいつらがいる。

ふふ。光輝……

抑えきれない憎悪が殺気に。


「黄金色の翼を持つ刃金」


集う黄金。生まれる刃。右手にあるそれを振り抜く。

放たれる力の波動。黄金色の衝撃は軽々と城壁を破壊し、城下町を混乱の只中に突き落とす。

まだパニックは破壊した周囲にしか広まっていない。現に何事かと顔を覗かせる人間もいる。

さてと。始めよう。

近場にいた人間を斬り捨てた。飛び散る赤。響く悲鳴。断末魔。

逃げ惑う人間たちを僕は殺していく。

男も女も関係なく。

子供も老人も関係なく。

目に映る命全てを消していく。

血に塗れ、心は染まり、理性は壊れ、憎悪が加速する。

僕はどんどん堕ちていく。


いつの間にか人間たちの気配がどんどん離れていく。どうやら異変を察知した人間たちが避難し始めたのだろう。

それと同時に近付いてくる無数の気配も。これはおそらく軍だ。

強烈に強い気配もあるし、それに……

突然、足元の影が盛り上がり、まるで生き物の咢のようになる。

僕は喰われる前に、後退し避ける。


「ちっ……避けるなよ」


現れたのはゼクス。無数の影が蠢く左腕からは複数の獣じみた殺気が投射される。


「ああ、思い出したよ。その左腕……」

「行けッ!」


奴の左腕から飛び出してきたのは無数の狼たち。狼と言ってもまるで影が実体化したかのようなカタチだが。

襲い掛かってきた一匹を殴る。だが殴られたところに穴が開くだけで、狼はひるむことなく僕に噛み付いた。


「やっぱり……」


だが、人外の防御力は伊達じゃない。たかだか獣程度の牙など無駄だった。

僕は一度チカラを解除。そしてもう一度……


「光裂く闇色の剣よ」


暗黒の剣が漆黒の狼を斬り裂いた。


「僕が殺し損ねた邪神じゃないか。どうしてお前が使っている?」


まだ未熟だった僕が殺せなかった堕ちた古の神だ。魔女に協力してもらい封印したはずなんだが……

今は考えるのは止そう。殺すことだけに集中だ。

ゼクスが左腕を振るう。飛び出す無数の獣たち。

狼や鷹、蛇。挙句の果てには筋骨隆々の巨人まで。

僕は迫り来るそれらを斬り捨てる。

狼が迫るよりも速く斬り、鷹が飛ぶよりも速く斬る。

蛇が僕の足に巻きつく。巨人が拳を振り下ろす。

暗黒の剣を蛇に突き刺し殺し、解放された右足で拳を蹴り上げ、巨人がよろけた隙に斬り捨てた。

それでも獣たちは無数に生み出されていく。

さらに平行してゼクスは魔法を撃ってくる。


「招くは雷霊・放つは雷槍》》》光鳴」

「招くは風霊・奔るは迅刃》》》疾風」


夥しい魔法の絨毯爆撃。避ける余地すらない。

だが僕の目は、メアに貰ったこの瞳は、全てを見抜く。

魔法が発生するまでに生まれるタイムラグ。結果、僅かな隙間が生まれる。

僕は駆け、自分に当たる魔法のみ斬り捨て、肉薄する。

だがどこか余裕そうなゼクス。僕がもう攻撃範囲内にいるというのに。


「知ってるぞ。そのチカラは魔法しか切れない」


そんなの承知だ。だから僕がわざわざ隠していたミスリルの剣を使うんだ。

外套により隠されていた堕ちたミスリルの剣を抜く。

左腕による斬撃。些か不慣れだが殺すに足る一撃だろう。


「だから知ってるっていっただろ」


結果、僕は吹き飛ばされていた。

そこにいたのは影の化け物。大きさは人間程度、形もどこか人間に似ている。


「チカラに取り込まれたのか?」

『くっはははあ。俺が取り込まれただと? 笑わせるな。この程度のことで?』


本当に飲まれていないのならこいつは化け物だ。あれは人間が扱えるような生易しいものじゃない。

だけど……

本体が出てきてくれてよかった。わざわざ左腕を切り落として引きずり出す必要性がなくなったからな。


『これでお前の負けだ。百年前、どうすることもできなかったお前が勝てるはずがない。さあ姫様を殺したことを後悔するがいい。足元からじわじわと斬り潰し、むごたらしく死ね』


化け物の足元から吹き出し、荒れ狂う影の亡者ども。


「はぁ……さっさと終わらせよう。光輝に逃げられたらそれこそ無駄足になる」


光裂く闇色の剣が霧散する。

右手に奇跡が集う。

右手に奇跡が集う。


「闇祓う白き聖指」


白き刃の短剣。指の長さ程の刀身は純白で穢れを知らず、周囲を絶えず浄化していく。


「消えろ、闇の亡者。闇は闇らしく無に帰れ」


投擲。化け物が回避することすら許さず、刃がその胸に突き刺さる。

断末魔の絶叫。身も凍るような怨嗟を叫びながら、白に浸食されていく。

そして、全て呑み込まれた時、化け物は崩れ落ち、残ったのは左腕を失くしたゼクスだった。

痛みに呻きながらもその眼光は衰えず、鋭い眼差しで僕を睨みつける。


「君に恨みはないけれど、死んでくれ」


いつもの光剣を出し、斬り捨てた。


そのあと、どういうわけか迫り来るはずの軍団が足止めを食らっている。

……ん?

この気配はアリサたちか。やっぱり気付かれないわけないか。

どうやら手におえなさそうなゼクスがこちらに来るまで待って、奇襲でもしたのだろう。

さて、僕は光輝を殺しに行くか。城にいるみたいだし、何故か水姉はいないけど。

僕は思いっきり地面を蹴り跳躍し、大気を蹴り飛ばし、加速していく。

目前に城。右手にチカラを展開。目についた窓へ飛び込んだ。

砕け散るガラスの音と悲鳴の音。偶然にも近くにメイドがいた。

怯えて震えるメイド。だけど僕は戸惑うことなく殺した。

悲鳴を聞き、駆け付けた衛兵たち。血濡れの廊下と屍を見て、彼らは武器を抜いた。


「敵襲だッ!!」

「殺せッ! 殺すんだ。今度こそ我らの威信にかけて!」


一度捉え損ねたことがどうやらそうとう彼らのプライドを傷つけた様だ。

迫り来る彼ら。

僕も駆け出し……

光剣を振り抜いた。

襲い掛かる兵士たちを殺戮しながら目的の部屋へ辿り着いた。

ドアを蹴破り、中に入る。


そこにいるのは部屋の片隅で膝を抱いて震え、泣いている光輝。

洗脳は解けていた。


「やあ光輝」

「こ、紅月。お前、その顔」

「ああこれね。君が殺したメアがくれたんだ」

「あ、ああ……」


頭を掻き毟り、泣き続ける。勇者としての洗脳が解けた今、そこにいるのはただ犯した罪の重さに潰された男だ。


「俺は、俺は沢山の人を、人を殺したんだ。紅月の大切な人も」


いくら正当化しようとも正当化などできない。殺してきた者たちの中にはまだ年端もいかない魔族の子供や親友の愛する人も含まれているのだから。


「何が勇者だ。何が英雄だ。俺はただの、殺人鬼だ」

「そうだね」

「紅月、俺はどうしたら、どうしたら償えるんだ? どうしたらお前に許してもらえるんだ?」


こいつはこの後に及んでもそんなこと、ほざくのか。

心底愚かで、救いようのない愚鈍で、怒りすら通り越して呆れる。

だから僕は笑顔でこう言った。


「死ぬよりも辛い責め苦を味わいながら死ね」

「……え?」


信じられない、そんな顔で僕を見る。


「僕が許すわけないだろ。洗脳されていようが全てお前に責任がある」

「そんな、俺たち親友だろ? もう一度、分かり合えないのか?」


ほんと、全て自分の思い通りにいくと思っているのかな。でも向こうではそうだったから仕方ないか。


「僕は君を親友だと思ったこと、ないよ」


絶望した表情で、言葉が出てこない。


「だって君はさ。水姉が好きだったんだよね。水姉に近付くために僕なんかと友達ごっこしてたんでしょ?」

「違うっ! 俺はお前と友達になりたかったから」

「まあどうでもいいんだけどね。光輝、一つ言っておくよ。罪は決して拭えないから」


一度背負った罪は決して降ろせない。死ぬまで背負わなければならない。

だってそうだろ。赦そうが赦さまいが、罪を犯したという事象は消えない。ただ忘れることはできるけど。


「さて、もう終わらせようか」


僕は光輝の頭を掴み、持ち上げ……


「君のチカラ全て奪う。これから一生、君は無力なままで生な。それが君への罰。死んで楽にさせないから」


左目の銀十字が回転していく。

そして、光輝の身体から光の粒子が漏れ出し、左目に吸収された。


「あ……力が、抜け……」

「これがメアの分。次は僕の分だ」


そっと、光輝の左目に指を添え、静かに沈み込ませた。


「ぐあああああ」


いっきに引き抜く。ぶちんという音とともに眼球が手のひらで転がった。

目玉を潰し、今度は右目へ。

指を突き刺した。硬いゼラチンの感触。

指をかき回し、同じように眼球を引き抜いた。


「ふふ。これで許してあげるよ、光輝。君は一生目が見えないまま、一生才能が無いまま、無様に生きて孤独に死んで逝け」


あらかた殺し終えた。襲い掛かってくる兵士も命乞うメイドも殺した。

全ての元凶であるこの国の王様も殺してやった。惨たらしく、四肢を切り刻んでやった。

意識を集中させ、気配を探る

彼方に無数の気配。これは王国軍のものだろう。だが魔眼族たちの気配が見つからない。

もしかしたら敗走したのだろうか。でも未来が視えるものがいるんだ。勝てなくても負けるはずがない。

瞬間、冷気が駆け抜けた。

凍り付く世界。凍り付く僕。

だけど死なない。この程度で死ねない。僕は全身に力を込め、氷を砕いていく。


「……水姉」

「紅ちゃん」


そこにいたのは水姉。この国の人間も兵士も氷漬けにして殺した水姉。

どうしてそんなことができるんだろう。もう勇者の呪縛はなくなったはずなのに。


「紅ちゃん、その貌……」

「……」

「赦せないッ! あの女、よくも、よくも私の紅ちゃんをッ!」


敵意と憎悪を剥き出しに、水姉は睨みつけてくる。だが一変し……


「安心して、紅ちゃん。お姉ちゃんが全て元通りにしてあげる。あの女の面影すら微塵も残さずに、その眼も顔も壊してあげるね」


満面の笑み。それはどこか狂気すら感じさせる笑顔だった。

水姉が追い詰められたのも僕のせいだよね。この世界でたった一人の家族、心の寄る辺だった僕を失って、孤独だったんだ。

ごめんね、水姉。でも……


「水姉、メアは、メアだけは絶対に奪わせないッ!」

「どうしてッ!? どうして紅ちゃんッ!?」

「もう僕は決めたんだ。だから僕は水姉でも殺す」

「嘘だ。嘘だ嘘だッ! 紅ちゃんがそんなこと言うはずない」


もう無理だよ水姉。僕たちはもう分かり合えない。

全力の踏み込み。一気に距離を詰め、光剣を振り抜く。両断。

だが飛び散るはずの色は赤でなく、透明で。

どういうわけか水姉の身体に波紋が奔っていた。


「水霊化。私は水と同化したの。だから紅ちゃん、私には一切の物理攻撃は効かないし、魔法を斬る剣でも斬れない。だってこれ、魔法じゃなからね」


水姉は悲しそうに笑い、足元からどんどん水があふれていく。


「貫け、穿て、水氷の刃たちよ」


四方八方から水の鏃が飛び出す。瞬間、それらは凍て尽く。

くそっ、捌ききれない。


「痛いね」


とんでもない切れ味だ。まさか僕の身体が斬り裂かれるとは思わなかった。

全身血まみれの僕。


「紅ちゃん。殺さないから安心してお姉ちゃんに全て任せてよ」

「ごめんね、水姉」


チカラを解除。新しく集うチカラは光輝から奪ったチカラ。

僕の右手に白のロングソード。その能力は魔法の無力化と切断対象の選択。

だから僕の剣をすり抜けて、眼球だけを破壊できたんだ。

切断対象、水姉。

このチカラなら水と同化していようが関係なく斬れる。


「バイバイ、水姉」


そして、刃は水姉を貫いた。


「あ……う」


血に濡れた刃を引き抜く。崩れ落ちる水姉。

このまま死に行くだけの水姉に異変が起きた。

ガラスが砕けるような、澄んだ音。

世界が変革されていく。

彼女の黒かった髪は金色へ。

彼女の黒かった瞳は碧色へ。


「……え?」


意味がわからなかった。だけど感じていた面影の理由は分かった。

どういう理屈かわからないけど、水姉は本物のリーズだったんだ。


「ふふ、また会えたねコウ」

「何で、リーズ?」

「魔女さんが…………」


僕の質問に答えない。いや、答えれない。もう死ぬから。

震える手が僕の頬に触れる。


「やっと……言えるね。コウ、大好き」

「僕も、僕も……」


言葉ができない。なんでまた僕は好きなひとを死なせるんだろう。

リーズが何かを言っている。聞こえない。声が掠れて、聞こえない。

今まで頬を撫でていた手は地面に落ち、力無く瞼が閉じていく。


「あ……て……」


死んだ。リーズは光の粒子のようになって消えた。

そのとき、メアを感じた。

だけど考える暇もなく、僕の意識は黒く塗りつぶされた。


どこか暖かい温もりを感じながら。


復讐の果てに



…………僕は大好きな人をこの手で殺してしまった。


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