N-099 版図
あれから2回程村の迷宮に出かけて魔物を狩った。
少しでも俺達のレベルを上げたいとアイネさんが言ってたけど、アイネさん達の退屈凌ぎにしか俺には思えないぞ。
それでも、バリアントとケルバスを群れで倒しているから、次のレベルの確認が楽しみだな。
そして今年初めての雪が降り、迷宮の途中にあるテラスに積もっていた。
俺達のリビングにもコタツを作ったから、早速アイネさん達が寝転んでいる。この姿を見る限りではしばらくは嫁に行く事も無いだろうと確信しながらテーブルの上に地図を広げて眺めている。
そんな所にやってきたのは、アルトスさんとエクレムさんだった。
とりあえず、寝ていたアイネさん達を起こして、お茶の準備をして貰う。
「確かに、これに座っていると眠くなるのは確かだ。レイミーも良く寝てるぞ」
「寝るならベッドでとお願いしてるんですが……」
「そうも行くまい。俺も作戦室に作ってもらったのだが、何時でも寝られるからありがたいと思うぞ。副官は文句を言ってるがな」
アルトスさんの副官が気の毒になってきた。コタツで寝てる人を起こすと何故か不機嫌になるんだよな。
「で、今日はどのような?」
「うむ。どうにか北の石塀が形になった。南と北の守りはあれで良いだろう。問題は西だが、ラクトー山が聳えている。狩りや採取目的で出かけるハンターを期待してはいるのだが、やはり数箇所に拠点を設けるべきではないかとお前の意見を聞きに来たのだ」
地図をテーブルに広げて再度確認する。
確かに100km程の広がりで山の斜面があるのだが、この辺りは荒地で小さな林が点在しているだけだ。
敵がこの地を通るとなれば早期に見つけることは可能だが、それはそこに監視する者を置いて初めて可能になる。
「俺は賛成です。ですが、場所とその連絡手段。さらには敵発見を受けてどのように部隊展開を図るかまで考えておく必要があるでしょう」
「そうだ。長老とも相談の上此処に来たのは、レムルならば俺達の見過ごす事柄を指摘してくれるだろうと言わたからでもある」
要するに丸投げってことか。
まぁ、危惧を持っただけでもよしとするかな。
「それで、お二方もある程度は候補地を見つけてあるんですよね」
「あぁ、此処と此処だ。小さな林があることと、他と比べて斜面がなだらかだ。この辺りで雪崩が起ったことなど聞いた事もない。やはり、安全を重視せねばなるまい」
それは納得できる。
冬場の見張りは危険だからな。
特に、豊かな森の少ないラクトー山の東斜面は小規模な雪崩が頻発するらしい。
そして2人の選んだ場所は村から南西と北西にそれぞれ20km程の距離にある。それだと、南の森にある岩山の上に作った見張り所との連絡は取れそうだが、北の石塀を守る兵舎との連絡が少し辛いな。
もう1つ、北西に設ける拠点の北にも作れば、連絡網が充実するぞ。
「この2箇所に問題はないでしょう。出来ればこの北、この辺りにもう1つ拠点をつくればラクトー山を越えてくる軍隊を早期に発見できるでしょう。
もっとも、軍隊を山越えさせるのは愚策も良いところですから、精々小隊規模の陽動部隊になると思います」
「ここか……。なるほど。アルトスはどう思う?」
「確かに、少し北が開き過ぎるとは思っていたのだが」
「たぶん、連合王国からやってくる入植者を当てにしていたんだろうと思います。確か小隊規模と聞きました。それに村からの希望者もいるでしょうから、その開拓団をどこに住まわせるかを考えても、この配置は変ってきます。
石塀の南側とするなら、この辺りですね。そうすると、この拠点で異常を確認した時に素早く数十人の民兵を展開できることになります。
石塀ではなく、空掘りと低い柵をあらかじめ作っておけば、石塀を守る部隊の横を敵に突かれることもないでしょう」
多重防護にも繋がるから、開拓団分も安心して農業が出来るだろう。
村の真西はそれ程防護を必要としない。直ぐ近くに軍の駐屯地があるから、展開するのは比較的容易な筈だ。
あくまで不意を突かれないように荒地を見張るだけで十分だろう。
「発見した場合の部隊の展開は、このようにしたい」
アルトスさんが地図の上に指を滑らせて考えを伝えてくれた。
近くに展開する軍隊からの派遣だから、特に問題はないだろう。ただ、1つ俺が付け足したのは、村の東に駐屯する軍への連絡だ。
「この南西と北西の拠点に万が一大規模な陽動部隊が現れた時も考えておく必要があります」
「殆どないが、可能性は残るということか? 分った。それだと、発光式通信機の連絡網が更に増えそうだな。
あの通信機の使い方を覚えるのは軍の連中には辛そうだぞ。かろうじて使える数人は南の森の岩山に展開させている。
子供達もいるのだが安全な場所での任務に限定している」
「ハンターの子弟に使える者達がいます。彼等を雇う事も考えてはどうでしょうか? 傭兵という形でチーム毎に拠点を任せることできると考えますが……」
「ふむ、一考の価値はあるか」
「特に、望遠鏡を供与すると言えば、結構な数が集まると思います」
「確かに、あれは見張りで役に立つ。それ程の値段でもないだろう。要するに特典を与えるということだな」
「ならば、1年を通して契約してくれるチームには散弾銃を供与しよう。パレトクラスでは心許ないからな。拠点に2チームを当てれば散弾銃が4丁になる。少しは防御が楽になる筈だ」
それだと、あの時の講習会に参加したちびっ子ハンターをチームに持つ連中がかなりの数で名乗りを上げそうだな。
「拠点の監視は兵士にやらせようと思っていたが、ハンターでも良いのだな……」
「そうなる。どのように兵を配分するかを悩んでいたが、これで少しは先が見えるぞ。だが、拠点作りは軍を使うしかない。分隊が駐留できるような小屋を作れば何とかなるだろう」
「ところで、町の方はどうなりましたか?」
「あれは、駐屯部隊で何とかするつもりだ。連合王国の戦闘工兵がまた来てくれるそうだ。ギルドと宿屋に武器屋と雑貨屋、酒場兼食堂それに役場を作ってもらう段取りだ。建物では無いが、水道に下水道も作るらしい。それは、メイヒムに任せてある」
「問題は町を作る材料です」
「来春に届くらしい。粗く整えた材料を船が運んでくるそうだ」
かなりの散財だな。予算的に大丈夫なんだろうか?
とはいえ、村の版図にはまともな木材を切り出す森が無いからな。輸入する他に手は無いんだが……。
お茶の礼を言って2人が帰っていった。
アイネさんはそのままバタンと仰向けになって、コタツで寝てしまった。
「お兄ちゃん、さっきの話だと、またこの村を狙って攻めてくるの?」
「将来的には間違いなく来ると思うよ。だけど、冬はどうかな? いま、来るとすれば南の森からだけど、あそこはアルトスさん達が守ってるからね。抜くのは無理だ。そして、北からのルートは雪に閉ざされる。来るとしても春になってからだよ。それまでには此方も色々と準備が出来る」
「頑張ろうね!」
「あぁ、エルちゃんもな」
そう言って、エルちゃんの頭をガシガシっと撫でる。
目を細めて嫌がってるけど、兄と妹の信頼の証だぞ。
再度地図を睨むと、エルちゃんがお茶を入れてくれた。
エルちゃんもカップを持ちながら俺の広げた地図を眺めてる。
そして、不思議なことに気がついた。
何故、敵軍は旧パラム王都の北東にある迷宮への通路を侵攻しないんだろう?
確かに、あそこには2つの関所があるのだが、そこに攻め入ったと言う話は聞いた事も無い。
村の迷宮の広場から続く通路の途中にあるという関所を通ってちょっとした洞窟迷路に狩りに出る者も村にはいるという話だ。
だったら、通路を広げながらでも侵攻する手はあるんじゃないか?
出口を塞いでいると言うことは聞いた事が無い。洞窟の迷路に巣食う魔物は旧パラム王都から出て来た奴だろう。
魔物はある程度のレベルにあるハンターなら、狩るのもそれほど苦ではない筈だ。
ラクト村から旧パラムの王都に魔物を狩りに行く連中もいたな。
俺達が小屋掛けした場所を通っていったという事は、湖の岸辺伝いに廃都に向かったことになる。
それは……、この森が原因か?
確かに廃都の周辺は深い森だ。そこに巣食う魔物を避けて、最短距離で廃都に入るってことになるな。
廃都の魔物よりも森の魔物の方が手強いのだろうか?
だが、南の森は廃都を囲む森と繋がっている。此方には、カタツムリの大きいのがいると言っていたけど、それ位なら高レベルのハンターであれば狩るのに苦労はしないだろう。
それにボルテム王国が結界を作ったと言っていたから、それ程強力な魔物が逃げ出したとも思えない。
結界は魔物が強力であればあるほど強く作用すると長老も言っていた。俺達に手頃な魔物は結界を抜け出す事も出来るようだ。
だとしたら……。
何か余計分らなくなってきたぞ。
王都にボルテム王国が攻め入った時、ネコ族の人々は先を争ってこの洞窟に逃げ込んだ筈だ。
それを大勢のハンターや、兵士が手助けして亡くなったことはあちこちから聞かせれている。
当然、その逃げ道を断つか、追っ手を掛ける位の事はしている筈で、この入口をボルテム王国が知らない筈がない。
そして、時々はこの洞窟からレムナム王国等の迫害を逃れてやってくる人もいるのだ。
と言うことは、少人数なら問題ないが多人数なら、何らかの問題があるということになる。
誰かに聞いてみるか? それが一番早そうだな。
エルちゃんにちょっと出掛けてくると告げて長老の部屋へと向かった。
俺の来訪を喜んでいるようだけど、余り長くいるつもりはないぞ。
「ご苦労だったな。先程アルトス達が帰ったところだ。案としては問題ない。それ位の予算は組める。明日にでも、ハンターの募集をすると言っておったわ」
「それは、どうも……。実は1つ教えて頂きたいのですが? 村の迷宮前の広場から旧パラム王都に伸びる通路があります。通路の途中に関所があるとは言っていましたが、本格的な攻勢を掛けられた場合、いささか不安です。
とは言うものの、今まであの通路を使った侵攻はありませんでした。しかし、迫害を逃れてあの通路を利用してやってくる者達がいることも確かです。
いったい、あの通路の出口の森には何があるんですか?」
俺の問いに、長老達は顔を見合わせる。
やはり、原因を知っているみたいだな。




