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N-009 小屋暮らしの始まり

 

 初日に依頼の薬草を採取して日暮を向かえた。

 何時ものように夜半からの焚火の番は俺とルミナスだ。

 今夜は焚火の番をしながら簡単な梯子を作る。梯子と言っても高い所に上る梯子ではなく、いわゆる背負子と言う奴だ。適当な太さの棒を井形に組んで背負い紐を付ければ出来上がり。これでも荷を運ぶには役に立つ。大量の茅を運ぶからこんな道具でも役に立つと思っているんだけどね。


 「てっちゃんは器用だな。どこで覚えたんだ?」

 「昔、こんな野外活動の指導を小さな子供達にしてたのさ。大きくなってからは銃をもって戦争ごっこで遊んでた。まさかこんな所で役に立つとは思わなかったけどね」


 俺にも頼むと言う言葉に、ルミナスの梯子も作ってあげた。彼も茅の運搬をどうしようかと悩んでいたようだ。


 「そうだ。ルミナス、これを研いでくれるか?」

 

 そう言って、バッグから半分に折れた片刃の片手剣を取り出した。柄を取外して刀身の身を渡す。


 「だいぶ錆びてるな。こんな半分になった奴をどうするんだ?」

 「竹を割るのに使うんだ。斧よりは切れるだろ。竹細工は俺には出来ないけど家作りに必要な道具には変わりない」

 「確かに細身の鉈にはなりそうだな。良いぞ。夜は長いし、俺も暇だ」


 炉を作るのに運んだ石から適当な物を選んで早速研ぎ始めた。

 最初から購入した砥石を使わないみたいだな。確かに赤サビが酷い品ではあるんだが……。


 そして、次の日。朝食を終えた俺達は早速櫓作りを始める事にした。

 先ずは、居住区となる場所をもう一度確かめて、30cm程掘り下げる。道具はスコップが2個だ。交替しながら1日掛かりで掘る事になった。

 

 3日目は居住区の中に作る囲炉裏を中心にして4箇所に穴を掘る。これが櫓の支柱を入れる穴になるのだ。

 リスティナさん達に穴掘りを任せて俺とルミナスは支柱に横梁を取付けるための切り込みを作る。

 支柱と横梁それぞれを柱の太さの三分の一程度の切込みを入れて両者をそこで接続するのだ。きつく蔦で縛り上げれば頑丈な櫓になるだろう。

 鋸で慎重に切込みを入れて斧で削っていく。

 

 「ただ単に柱を縛る訳ではないんだな」

 「あぁ、簡単な構造だけど、しっかりと作るにはこんな方法にならざる得ない。蔦で縛るのはルミナス頼みだ。俺だと緩んでしまうからな」

 

 その夜の焚火の番の時に、支柱となる4本の柱の根元をしっかりと焚火で炙り上げる。

 表面が炭化する位に炙っておけば地面に埋めても腐る事はないだろう。

               ◇

               ◇

               ◇


 「こういう風に取付けるのね」


 俺とルミナスが支柱に横梁を合わせてカスガイを斧の背で打っているのを見て、リスティナさんが呟いた。

 

 「仮付けですよ。柱を立ててから蔦でしっかりと結びます」

 「あっちは終ったぞ」


 反対側の取付けを終えたルミナスが俺に告げた。

 

 「それじゃぁ、立ち上げだ。穴の深さは同じだよな」 

 「それは大丈夫。ちゃんと杖を差し込んで確かめてあるし、底は石を敷き詰めてあるわ」

 

 俺にサンディが教えてくれた。

 エルちゃんは重労働には加わらず、焚火でポットの番をしている。一息入れる時には直ぐにお茶が飲めるな。


 「俺とリスティナさんがこっちの柱で、そっちはルミナスとサンディだ。良いか、ゆっくりと穴に入れるんだぞ」


 よいしょ、よいしょ……と少しずつ穴に運び、最後にがくんと穴に入った柱は少し傾いて立っている。

 

 「お兄ちゃん。傾いてるよ」

 「あぁ、まだ片方だからね。さて、もう一方を入れるぞ」


 エルちゃんの厳しい指摘にそう応えると、今度は反対側を穴に入れた。

 そして2つの門形の柱を左右1本ずつの横梁で連結する。


 切取った面を合わせカスガイで仮止めしたところで垂直を出す。

 小石を糸で吊るした簡単な物だが、これで十分に垂直を出す事が出来る。

 4本の柱を垂直にしたところで、穴に小石をしっかりと詰め込んで動かないようにした。

 櫓の大きさは1辺が3mの正方形だ。高さも3m近い。

 

 「意外と大きいのね」

 「これからが大変なんだ。先ずは骨組みを作ってそれに屋根を作っていく」


 「でも、その前に昼食にしない?」

 「そうだな。丁度お日様も真上だぞ」


 早速、大鍋にポットのお湯を入れて昼食を作り始める。

 お湯が沸いているから素早く昼食を作れるな。

 ポットは2ℓは入る大きな物だ。少し水を足して焚火の傍に置いておく。食後のお茶も直ぐに飲めるだろう。


 「次ぎはどうするの?」

 「ルミナスに接続部をしっかりと蔦で縛ってもらいます。こっちは俺達でやりますから、木を2,3本切ってきてください。腕位の太さで長さ20D(6m)は欲しいです」


 「近場でいいのね。エルちゃんもいらっしゃい。蔦があれば運んでもらえるでしょう」

 

 リスティナさんの言葉に、エルちゃんは嬉しそうだ。やはり、1人で焚火の番はイヤだったんだろうな。


 昼食が終ると、ルミナスは木箱を踏み台にして柱の接続部を幾重にも蔦できつく縛り上げる。

 梁4本の両端を8箇所縛り終えると、縛った蔦同士をもう一度縛り上げる。幾ら頑丈に縛っても縛り過ぎという事にはならない。頑丈ならそれだけ長く使えるのだ。


 それが終る頃にリスティナさん達が帰って来た。太さは10cmに満たない棒のような木だが長さは十分だ。

 エルちゃんが背負ってきた籠には半分程蔦が入っていた。


 「これでいいかしら?」

 「十分です。ただ、本数が数十本は欲しいところです。これが次の仕事になりますが、そろそろ村に戻らなくても大丈夫ですか?」


 「そうね。食料は前の時のが残っているから後2日分はあるわ。でも、一度戻る事にしましょう。依頼をこなさないとね」


 俺達も、ジギタ草とデルトン草の2つの依頼を受けている。

 何とか依頼分は手に入れているから、帰る途中で少し余分に採取しておけばそれだけ収入を得る事が出来るな。

               ◇

               ◇

               ◇


 村に戻ると、直ぐにギルドで依頼の品を引き渡して報酬を得る。そして次の依頼を受けて次の日には村を出る。

 今度も5日を予定している。段々と暑くなって今は夏真っ盛りだな。

 暑くはあるけど、今の内に小屋を形にしなければなるまい。


 前回と同じように最初の日に依頼を片付ける。

 そして2日目からは、いよいよ骨組みを作り始める。


 「前に切ったような木を沢山集めるのね」

 「はい。2日程掛けて集めて3日目に組み付けましょう」

 

 2日間で集めた数十本の材木を、3日目に組み付け始める。

 この組付けで小屋の大きさが決まるのだ。前回立てた櫓の梁に60度の角度で材木を取り付けて蔦で動かないようにしっかりと縛り付ける。

 左右交互に組み付けると、交差した部分をまた蔦で縛り付けた。


 「半分位ね。今回は此処までにしましょう」

 「あぁ、だけど後1回で基本となる骨組みは出来そうですよ」


 そんな感じで、次の回に小屋の骨組みは完成した。

 入口は櫓から3m程南に2m位の高さの門を作ってそれに柱を組み付けてある。

 後は、屋根だけど……これには茅が大量に必要だな。

 

 そして、いよいよ茅を刈る作業が始まる。

 俺とルミナスそれにサンディが梯子を背負い、リスティナさんとリムちゃんが籠を背負っている。

 森を抜けて荒地の近くに茅が大量に茂っていた。


 「これを刈るんだな」

 「あぁ、なるべく根元で切ってくれよ。俺とルミナスで刈るから皆はそれを蔦で束ねてくれ。」


 簡単な段取りを決めて俺達は茅を刈り取ってそれを束ねていった。

 小さな束を纏めて梯子に取付ける。籠にも茅の束を入れると俺達はその場を引き上げた。

 次の日も同じように茅を刈り取って運んでいく。

 そして、4日目に村へと引き上げる。


 そんな作業を数回行なうと小屋作りの現場には大量の茅が積み上げられた。

 

 「この位で屋根を作り始めないか? 足りなければまた運べば良いし、運良く雨は少なかったが秋になれば雨が多いぞ」

 「なら、始めるか。でもその前に竹林に行って、大量の竹を切ってくる必要があるな」

 「明日、竹林に行きましょう。前に数本運んでいるし、1日で2回は運べる筈よ」

 

 そして、次の日に竹を運び始めた。長さを5mにして数本を纏めて運ぶ。

 2日で20本近く運んだ竹を使っていよいよ屋根を作り始める事にした。


 屋根は前に構築した骨組みに竹を横に縛り付けることから始める。

 小屋の内側から30cm位の間隔でしっかりと竹を取り付けていった。

 

 「段々とそれらしくなってきたね」

 「あぁ、これで内側の半分はできたな。次で内側が貼り終えるよ。そしたらいよいよ屋根を作っていく事になる。でも、やはり竹が足りないな」

 「次ぎは作業期間を2倍にしましょう」


 そんな会話も自然と弾む。

 そして秋風が吹く頃になって、いよいよ茅葺き(かやぶき)作業を開始する事ができた。


 屋根は茅の束を逆さにして下から葺き始める。茅の茎と葉を下に向けることで雨を自然に下に落とす事ができる。

 茅の束をそのまま内側に張った竹に結び付け、根元から三分の一の場所を竹で横に押さえる。その竹は小屋の骨組みにしっかりと結び付ければ、少々の風で捲れ上がる事はない。


 屋根を8割方葺いたところで雨が降り出した。

 秋の雨は2、3日続くらしいがしとしと降る雨では屋根を吹く作業は中断だ。

 それでも、小屋の中に作った炉に薪をくべて火を点けると暖かくなるし、冷たい雨もあまり入ってこない。


 「広いし、暖かいのね」

 「まだ、屋根が終ってませんよ。それに扉もまだです」


 「でも、結構広いわ。これならギルドの2階にいるよりも何倍も楽しい時を送れそう」

 「だが、冬の獣は恐ろしいって聞いてるぞ。この小屋で防げるかな?」


 確かに、暖かいし、広い空間は確保できそうだ。だが、ルミナスが言うように獣をこの小屋で防げるのだろうか?

 小屋を形作った木材は丈夫な物だ。しかし、入口は少し考えないと拙そうだな。

 太い横棒渡しておくか。それなら獣が突進して来ても少しは効果があるだろう。躊躇した所を銃で撃てば何とかなりそうだな。


 そして、俺達が小屋を作り上げた時は、村の畑が収穫時期を迎えていた。

 慣れ親しんだギルドの部屋を引き払って小屋で暮す事にする。今度は部屋代も取られないから少しは実入りが増えるかな。

 小さな籠に、野菜やライ麦の粉を沢山詰め込んでお弁当を4つも買い込んで南門の広場に行くと、リスティナさん達が既に俺達を待っていた。


 「遅くなりました」

 「私達もさっき来たばかりよ。さぁ、出かけましょう」


 「始めての冬だ。薪は多く集めておくんだぞ!」

 

 門番さんも俺達の小屋作りを知って励ましてくれる。

 そんな門番さんに手を振って俺達は我が家となる小屋に向かって歩き出した。


 小屋に着くと、炉に火を点ける。大きなポットを天井の井形から吊るした鎖のフックに掛ければ後はお湯が沸くのを待つばかりだ。

 その間に、俺達の居場所を整理しておく。

 

 床には竹のスノコを張ってあるから、その上に防水シートを掛けて炉の反対側を吊るし上げておく。こうすれば、屋根の隙間から来る冷気を防げるだろう。


 「お兄ちゃん。この毛布はどうするの?」

 「あぁ、この大きな奴でいいと思うよ。寒くなればもう一枚を掛けようね」


 俺の言葉に魔法の袋から大きな毛布を取り出した。途中から手伝ってあげたけど、その大きさに皆が吃驚してる。


 「大きいのを作ったものね」

 「あぁ、これは2つに折って使うんだ。こうやってボタンで留めると……ほら、袋になるだろ。俺は寝相が悪いからね。これでいいんだ」

 

 寝袋状に毛布を作ると皆が感心している。

 

 「なるほどな。俺も人の事は言えないんだ。サンディ、何とか真似できないか?」

 「そうね。後でよく見せてね」


 ルミナス達も興味があるようだな。

 

 「薬草を届けに村に向かう時に必要な物を手に入れられるわ。そして、この箱は私の方に置いておいていいの?」

 「いいですよ。食料入れに使ってください。」


 俺とルミナスの入口側に薪を束ねて立てて置く。ちょっとしたガードになる筈だ。底に俺とエルちゃんのロアルを置いておく。カートリッジはバレルに入っているから、コックを操作すれば後はトリガーを引くだけだ。

 

 荷物を整理して一段落した所で昼食を取る。ピザのような昼食だが、夕食もこれになるんだよな。


 「予想より早くに小屋ができたわね。本格的な冬は後2ヶ月も先だけど、その前に食料と銃のカートリッジを揃えておく必要があるわ」

 「食料はお任せします。お幾ら渡せばいいでしょうか? それとカートリッジは何本位揃えるんですか?」


 「食料は1人300Lと言うところね。雪が深くなったら、朝晩の2食で過ごす事になるわ。カートリッジは獣対策に必要よ。20本は用意して欲しいわ」


 中々物入りだな。

 それでも明日から薬草採取をすれば1日50Lにはなるだろう。20日もあれば俺とエルちゃんの分を何とかできそうだ。

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