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N-046 ユング・フラウ

 「……本来ならば地下2階の魔物だ。良く無事に帰ってきてくれた。」


 アイネさんから状況を聞いたエクレムさんはそう言うと感心したように俺達を眺めた。

 

 「問題は、何故本来地下階にいる筈の魔物が1階にいるのかということです。迷宮の1階は白レベルの狩場です。魔石は品位の低い物ばかりですが、それなりの収入を得ることができます。そしてそれを繰り返せばレベルも上がり地下階を目指せます。

 前回はサベナス、そして今回はグラミス。どちらも白レベルではかなりキツイ魔物です。俺達が倒せたのも正直運が良かっただけでしょう。

 ですが、運は何時までも続くことはありません。原因を探り、対策を取らないと集落が無くなることも考えねばなりません」


 「お前もそう思うか……。俺もだ。たぶん長老も同じだろう。これから帰って長老に具申する。長老達が何らかの結論を出すまでは、此処にいるのだ。いいな!」


 俺達が黙って頷いたのを見てエクレムさんは部屋を出て行った。


 「もうすぐ雪が融けるにゃ。森で狩りをするにゃ」


 アイネさんは前向きだな。

 それはそれで楽しそうだが、その前に確認したいことがある。


 「アイネさん。今回の迷宮では品位の少し上の魔石を手に入れましたよね。これを市場に出すと、どれ位俺達に戻ってきますか?」

 「品位の低い魔石の単価は4色が12Lで白と黒が120Lにゃ。中品位はそれが10倍になるにゃ。高品位は低品位の100倍以上にもなるにゃ」


 サーフッドやケルバスで出てくる魔石は低品位、そしてサベナスやグラミスは中品位の魔石となるのか……。

 今の手持ちの魔石は、低品位の4色の魔石が54個、白黒の魔石が3個。中品位の4色が5個と白黒が2個だ。

 単純計算なら4,008L。3割を税としても2,805Lが残る。

 確か銀貨数枚でパレトが買えるとルミナスが言っていたな。特注の銃を作ってもらうことが出来るかもしれない。


 「たぶん銀貨28枚位になるんじゃないかと思うんです。そこで相談なんですが、アイネさん達の銃を特注しませんか? もちろん一度に全員分はできませんから、とりあえず1丁、できれば2丁欲しいところです。」

 「どんな銃にゃ。私等はロアルを使っているし、満足しているにゃ」


 「散弾を撃つ銃です。ケルバスでは重宝しますし、ロアルよりも大きな弾丸も撃てますよ。」

 「てっちゃんのような銃かにゃ?」


 「いえ、ちょっと違います。あれは命中率を上げるために特化して作ってもらいました。……そうですね、こんな形のものです」


 エルちゃんからメモ帳を借りて簡単な絵を描いた。

 ストックを切り落としたような水平2連銃、形は火縄銃みたいだな。

 両側に発火機構を組み込んでトリガーは1つ。バレルは50cm程で少し太いが、これは強装弾の使用を前提にしている為だ。


 「こんな形ですね。強装弾でロアル弾を5発同時に発射します。それが2つですから、短時間に10発を撃つことができます。2丁あればケルバス狩りでは相当威力を発揮できますよ」

 「地下階にはケルバスみたいなのが多いにゃ。でも、私等にこれが撃てるかにゃ?」

 「俺のライフルよりは重くなるでしょう。でも、重い方が撃った時に跳ねませんよ」


 アイネさんの心配は、銃の反動だ。確かに通常ロアルを使っているアイネさん達には重い銃には違いない。だが、重くしないとアイネさん達はその反動を両手で抑えきれないだろう。

 そして、どう考えても迷宮の地下はロアルでは心許ない。パレトの強装弾を使えるならばサベナス級を相手にするのも十分可能だろう。

 

 「強装弾は魅力にゃ……。持てなければ籠に固定するにゃ」

 「籠は便利にゃ。もう1つ探してくるにゃ!」


 確かに、荷物は余り入れないからな。今回も薪を余計に持って行けたから、最後の砦を作ることもできた。

 

 「できれば杖を数本欲しいところですね。そうすれば籠を連結できます」

 俺の言葉に皆が頷いた。

 

 「……で、どうでしょうか。銃を作ってみませんか?」

 「作るってことで話してたにゃ。問題は武器屋で作れるかどうかにゃ」


 「もうすぐ、次の市場が開かれる筈にゃ。その報酬で武器屋のドワーフに相談してみるにゃ。この絵は貰っていいかにゃ?」


 俺は黙って頷いた。

 すると、エルちゃんがバッグをごそごそと何かを探している。そして、取り出したのはロアルだった


 「これを売って足しにしてください。小屋で一緒に暮らしていた人に頂いたんですが、弱装弾を使うロアルですから、持っていてもあまり役に立ちません。それに別のロアルを持っていますから」


 アイネさんがエルちゃんからマイデルさんに貰ったロアルを受取った。

 

 「ありがとにゃ……。これはパレトのようなロアルにゃ」

 

 手に持ったロアルを見ながらアイネさんが呟いた。確かにロアル弾を必要とするためだけに作った銃だからな。作りはロアルから比べればだいぶ劣る物だ。

               ◇

               ◇

               ◇


 数日経って、アイネさんは魔石を長老のところに持って行った。

 どの位の値が付くのか楽しみだな。

 

 さらに数日が過ぎた昼下がり、エクレムさんが俺達を訪ねてきた。

 炉の傍に座ると早速用向きを話し始める。


 「迷宮の魔物狩りは青5つまでが迷宮1階の半分までだ。奥は青6つ以上とする通達がでた。更に白は迷宮内での野営を当分禁じる」

 「それですと、かなり迷宮が混み合いそうですね」

 「1日交替で迷宮に入れるように事務所で調整するそうだ」


 確かに奥は危険だからな。まぁ、それはいいとして、一体何時まで続くのだろうか?


 「稼げなくなるにゃ」

 マイネさんが、エクレムさんにお茶のカップを渡しながら言った。


 「しばらく我慢だ。長老は市場に来る連合の商人に手紙を託すと言っていた。

 連合王国の頂点にいるハンターに、迷宮の調査を依頼するらしい。

 おもしろいことに、そのハンターを雇う為の報酬は必要ないらしい。興味を引くかどうかが問題らしい」


 使い切れない程の金があるという事だろうか? 残りの人生は興味のままにってやつかな。そんな人でだいじょうぶなのだろうか?


 「見た目は老人ではないと聞いた。実際の年齢は誰も知らないらしいが、連合王国の建国にもその者達が係わったとも聞いている」

 「ざっと数百歳は過ぎてるにゃ。どんなハンターにゃ?」

 「分らん。山奥に隠遁しているとも聞いたが、長老もその辺はあまり知らないようだ」


 数百歳? エルフでもそんなに長生きできないぞ。ひょっとして世襲のレベルを持つハンターなのかな? 勇者3代目なんて肩書きだったりしてな。

 エルちゃんの入れてくれたお茶を飲みながら、エクレムさんとお姉さん達の会話を聞いているのもおもしろいな。


 「早ければ一月掛からずに来るだろう。その時は紹介してやろう」

 「そうして欲しいにゃ。数百歳の現役ハンターって一目見るだけでも価値があるにゃ」


 シイネさんの目が輝いてるぞ。ひょっとしてサインを強請ろうなんて考えてないよな。

 でも、その話が本当ならやはり一度会って話を聞いてみたいな。

 きっと色んな経験をした筈だ。どんな昔話を聞くよりもおもしろそうだし、これから遭う可能性がある獣や魔物の狩りの話を聞くことができるに違いない。


 迷宮での魔物狩りは再開されたようだが、俺達はまだ出発しない。

 もうすぐ、散弾銃が2丁できる。それを試射して具合を確かめてから俺達は出掛けるつもりだ。

 値段は2500L、銀貨25枚という代物だがエルちゃんのロアルを武器屋に渡したおかげで、それぞれに散弾20発とスラッグ弾を10発ずつ付けて貰える。

 残りの銀貨3枚で必要な物は購入できた。俺もタバコの袋を2個貰ったぞ。


 そして、とうとう散弾銃ができあがった。

 早速、風呂に行く途中にあるテラスの扉を開けて反動を試してみる。

 2つのバレルにそれぞれカートリッジを装填してアイネさんが立射姿勢を取る。

 左右のコックを起こして狙いを定めて、トリガーを引く。


 ドォン!……ドォン!

 テラスは谷間に突き出た岩場だ。

 重い銃声が谷間に木霊すと、アイネさんは俺の方に顔を向ける。


 「どうにか撃てるにゃ。狙いもそれほどブレないにゃ。でもこれはミイネやシイネにはちょっと無理にゃ。次ぎはマイネにゃ!」


 やはり反動がキツイという事だろうか?

 マイネさんも2発打つと俺をみて頷いている。


 「どうですか? 迷宮の通路でケルバス相手に撃つことができますか?」

 「だいじょうぶにゃ。マイネと2人で4発続けて撃てるにゃ。それも散弾なら効果が大きいにゃ。残った魔物をてっちゃん達が始末するなら簡単にゃ」


 かなり満足しているようだ。

 背中に散弾銃を背負ってロアルを腰のホルスターに入れて置くようだな。

 ミイネさんとシイネさんが羨ましそうに見ているけど、通常弾を使う単発の散弾銃を考えておこう。通常弾では散弾を3個しか入れられないようだが、それども2人には十分だろう。


 部屋に戻って迷宮に行く準備を始めていると、扉を叩く音がした。

 シイネさんが扉を開けるとエクレムさんと見知らぬ2人が部屋に入ってくる。

 修道士が着るような黒のローブを纏い、頭巾を深く被っているからどんな人かは分からない。

 

 「紹介しよう。連合王国の頂点に立つハンター6人の中の2人だそうだ。名前は……」

 「俺が、ユング。そして連れがフラウだ。」


 そう言って頭巾を取った2人の顔は俺と同じ年頃の女性だった。

 若い娘だけど、男言葉を使うのか……。気が強そうな感じだな。


 「ユング・フラウですか……。そうすると、残りの人達は、マッター・ホルンとか言うんじゃないでしょうね?」


 ちょっとした冗談だったが、俺の言葉を聞いたユングと名乗った女性は驚いたように口を開けた。


 「おまえ……日本人か?」

 「確かにそうですが、今は人とエルフのハーフです」

 「日本のどこに住んでいた? そして住んでいた時代は?」


 ひょっとして、彼女達もそうなのか? そんな考えが過ぎったが、とりあえず俺の記憶にある住所と時代を教える。


 「隣町か……。俺の名は知らなくても、俺の仲間の名は知っているだろう。明人と美月さんだ」

 「美月さんの道場には通ってました。教えて貰ってたんですよ」


 おれは思わず、持っていたカップを落とすところだった。

 まさか、こんな場所で憧れのお姉さんの名前を聞くとは思わなかったぞ。


 「奇遇だな。連合王国のハンターの頂点に立つのは美月さんと明人、それにアルトさんとディーだ。これも何かの縁だろう。明人達には俺から報告しておく。ところで名前は?」

 「てっちゃんと呼ばれていますが、本名は三浦哲郎です」

 

 「覚えておく。後で美月さんの方から連絡が来るだろう。そして、今回の件は心配するな。俺達が調査して原因を探る。俺達にできなければ、明人達が来るだろう。だが、それほど逼迫した感じでは無さそうだ。俺とフラウで何とかできるだろう。」


 そう言って、パイプを取り出してタバコを吸い始めた。

 フラウと紹介された女性は我関せずの表情で俺達を見ている。


 「ところで、レベルは黒位かにゃ?」

 「いいや、俺とフラウは連合王国からある功績で銀を貰っている。星はない。タダの銀だ。」

 

 そう言うとローブの下からロザリオのように下げたギルドカードを取り出した。正しく銀製だな。俺達は空いた口が塞がらない。


 「俺とフラウ共にギルドの水晶球が反応しない。幾ら魔物や獣を狩ってもレベルは上がることがない」

 「長老が2人ではきつかろうと黒レベルのハンターを何人か紹介しようとしたのだが、この2人は断わった」


 渋い表情でエクレムさんが呟いた。


 「俺達と行動を共にするのは無理だ。俺達は食事をしないし、眠る必要もない。そして暗闇でも行動ができるし、敵の接近はネコ族よりも早く知ることができる」

 「人間では無理にゃ!」


 「俺とフラウは正確には人ではない。もちろん魔物でもないぞ。生物ではないんだ」

 「まさか……ロボット?」


 俺の言葉にユングがニヤリとする。


 「ロボットのような単純な構造ではない。オートマタと俺は言っているがナノマシンの集合体だ。お前にはこれで分るな」


 俺は、ゆっくりと頷いた。

 この2人は極小のロボット機構が作り上げた群体なのだ。俺達が細胞でできているように彼らはナノマシンの組み合わせでできているのだ。


 「事が済んだら少し情報を伝えよう。それまでは近場で狩りをしていればいい」


 そう言って2人は席を立った。エクレムさんも2人に続いて立ち上がると部屋を出て行った。

 

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