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N-022 謎の物体X


 ガンガンと歩くたびに頭に響く。

 完全な二日酔いだ。

 あっちにフラフラ、こっちにヨタヨタとなるのを見かねたエルちゃんが、俺の腕を引いてくれる。良くできた妹だと思う。

 そんな感じだから、俺とルミナスそれにマイデルさんをギルドのテーブルに置き去りにしてエルちゃん達は買い物に出掛けてしまった。

 俺達は、苦いお茶を飲みながらテーブルに頭を乗せている。


 「全く、仕方のない人達ね。ルミナスもてっちゃんもマイデルさんのようにはならないでね」

 

 そう言って、木製のカップになにやら怪しげな液体を入れてきた。

 

 「俺は至ってドワーフ族の誇りを忘れん男だぞ。模範となっても、その反対にはならん」

 「それが問題よ。出された酒は飲み干すのがしきたりなんてナンセンスだわ」

 

 そんなしきたりがあるのか? 確かに問題だぞ。

 とは言うものの、俺とルミナスはカップの中の液体の方が気になっている。

 緑や黄色は確かに野菜にはある。だが紫色ってどんな野菜だ?


 「さぁ、さっさと飲んですっきりしなさい!」


 チェリーさんがそう言っているところをみると、これって二日酔いの薬になるのかな?

 言われるままに、俺達はカップを手に取ると互いの顔を見る。やはりマイデルさんもこの中身は怪しいと思ったようだ。

 とは言うものの、俺達が飲まないとチェリーさんは帰らないみたいだ。

 意を決して、互いに頷く。

 そして、カップの中身をグイって一息に飲み込んだ。


 ゴホン、ゴホン……、うぇ~……。

 全員が急いでお茶を飲む。

 うぇ……。こっちは苦すぎる。


 「どう? すっきりしたでしょ。我が家秘伝の二日酔いの薬よ」

 

 そう言って、満足そうに帰っていく。


 「うぇー、酷い目にあった。いったい何なんだあの液体は?」

 「俺にはさっぱりわからん。でも1つだけ、もう二度と飲みたくないぞ」

 「全く、チェリーの奴め、俺に何の恨みがあるんだ」


 あの味を言葉で表現するのは難しい。舌が、喉がそして胃が液体を拒むんだ。

 それでいて、吐き出すことが困難になる何かの成分が混じっているらしい。

 とにかく、俺達3人はチェリーさんの前では二度と二日酔いの症状を出さないことに決めた。


 「魔物相手の方がまだマシじゃ」


 マイデルさんの呟きに、魔物を見たことがない俺達でさえ頷いてしまう。

 そんな愚痴をこぼしていたが、何時の間にかあのズキズキする頭の痛みが取れていた。

 あの薬のおかげなのかな? としたら、とんでもない効き目だぞ。


 「でも、何とか治ってきたよ。やはり薬だったのかな?」

 「あんな薬があって堪るか……。とはいえ楽になったのは確かだな」


 俺達は関心したことは確かだが、感謝する気にはちょっとなれなかった。

 でも、治ったことは確かだ。此処は礼を言っておこうと、カウンターのチェリーさんに全員で頭を下げる。


 そして、素早くギルドを引き上げることにした。何時までもいると、またあの謎の物体Xを飲まされそうな気がしてならなかったんだ。

 

 「ルミナス、早くサンディ達の場所を確認して来い。何時までも村にいるより小屋の方が気が楽じゃ」

 

 マイデルさんの指示でルミナスが雑貨屋を目指す。そして俺達はのんびりと南門の広場へと向かった。


 「あっ! ちょっと武器屋に寄って貰えませんか?」

 「構わんぞ。お前の武器を買うのか?」

 「いや、エルちゃん用です。短剣しか持ってませんからね」


 そう言って、途中の武器屋へと足を運ぶ。

 扉を開けて奥のカウンターに行くと、早速短めの片手剣を見せて貰った。


 「ネコ族の人にはこれが人気ですね」


 そう言って取り出してくれたのは、片刃の剣だった。刀身は40cm位だが、俺には丁度良くてもエルちゃんには重そうだな。


 「もうちょっと軽目の片刃はありませんか?」

 「それだと、これですね。かなりの薄刃ですよ」


 取り出された剣は、確かに薄刃だ。というよりも、これは通常の両刃の片手剣を縦に半分にしたような横幅しかないぞ。

 

 「お気付きですか? それは刀工が片手間に遊びで作ったような剣なのです。若い時分におもしろそうだと思って買取ったのですがいまだに売れません。どうですか? 半値でお譲りしますが」


 5割引か、色物だがこれならエルちゃんでも使えそうだな。

 俺がバッグから小銭入れを出そうとすると、マイデルさんの手がそれを止めた。


 「色もんをハンターに押し付ける気か? ハン! 手っ取り早く買おうと思ったが、そんな物を買うくらいなら俺が鍛えた方が良さそうだわい」

 「いえいえ、そんな気は毛頭ありません。それは、確かに棚のコヤシにはなっていましたが……。分りました。銀貨1枚、100Lでお売りいたします。私の仕入れ価格ですからそれ以上はご勘弁下さい」


 元値は確か800Lだったんじゃないか? それが半値になって、今は100L。

 これは買っておくに限るな。


 「ありがとうございます」

 ちょっと力ない挨拶だったが、銀貨1枚で俺はちょっと変わった片手剣を手に入れた。

 

 「あそこまで値切るとちょっとかわいそうな気がしますね」

 「言い値で買うなど、もってのほかじゃ。先ずは値切る、そしてこれ以上下がらない事が分かってから、買うかどうか決めればいい」


 商人の天敵みたいな考え方だけど、武器みたいな物はそれでいいのかな。もっとも、マイデルさんのように武器の目利きができれば、そんな交渉を楽しむことも可能なんだろうけどね。


 南門の広場には、2台の荷馬車が停まっていた。

 俺の身長程の大きさがある木製の車輪には鉄の帯がまいてある。

 その荷馬車を曳くのは、馬ではなくて6本の脚がある牛のような家畜だ。牛より一回り大きいけど、牛が引いても馬車でいいのだろうか?


 「よう、マイデルさんじゃないか!」

 「フン、ハナタレ小僧が一丁前の格好をしておるのう」


 マイデルさんの返答に、男と一緒の連中の顔付が変わった。

 そんな仲間を片手で制して、俺達に近付いてくる。


 「俺も、もう24だぞ。小僧は卒業だ」

 「俺にとっては何時までも小僧に変りは無いが、ケイトスと呼んでやろう。それで、ケイトスはこれのお守りという訳じゃな」


 「そうさ、ケリムの町まで行ってくる。帰りは、向うで同じような依頼を受けるさ」

 「そんな依頼を受けるまでになったか……ワシも歳を取るのう」


 ケイトスさんの仲間も、マイデルさんに悪気がないことが分ると、俺達のところにやってきた。

 ケイトスさんを含めて男女6人のチームのようだ。


 「コイツは向こう見ずな所があるが、仲間を見捨てることはない。昔も小さな子供の失態を自ら被るような男だった。ケイトスがリーダーなら上手くやっていけるじゃろう」

 

 そんな話をケイトスさんの仲間にしているから、ケイトスさんは苦笑いをしている。


 「ほう、ネコ族の若者か。ケイトスを頼むぞ」

 「人族にしては、驕る事がない。安心できるリーダーだ」


 「ワシのところにもネコ族の嬢ちゃんが加わったぞ。こいつの妹なんだが、もうすぐやってくるだろう」

 「ネコ族は先の戦でバラバラになってしまった。分散した仲間に合えるのは嬉しい限りだ。だが、その少年は人族に見えるぞ」


 「コイツは人族とエルフ族のハーフじゃ。妹の方もハーフなんじゃ」

 「良い仲間を手に入れたな。ネコ族のハーフは俺達純粋種を越える能力を持つ」


 荷馬車の陰に俺達は腰を下ろして、世間話を続けている。

 ケイトスさんが勧めてくれたカップの中身はお酒だった。これは流石に遠慮したけど、マイデルさんは美味しそうに飲んでいる。


 「まぁ、そいつにはちょっと酷かもしれんな。昨夜、食堂で飲み明かしたんでな。さっきまで二日酔いで苦しんでおったんじゃ」


 それは、マイデルさんも同じじゃないですか! と言えたら気持ちがいいんだけどね。

 水筒の水を飲んで、パイプに火を点ける。俺にはこっちの方がいいな。


 何時の間にか、俺の担いでいる銃に話が移っていた。

 マイデルさんは俺の肩からヒョイっと銃を取り上げると、彼らにそれを見せる。


 「昨日の狩りでピグザムを6匹し止めた。距離は200D(60m)を越えている。使う弾はロアルの強装弾じゃ」

 「小さい弾丸をハント以上のバレルを持った銃で撃つのか。なるほど当りそうだな。だが、どうやってこれを持つんだ?」


 俺は、ストックを肩に当てて両手の持ち方を教えてあげた。


 「安定するな。バレルが長くなってもブレることがない。これは俺達も真似をしたいが構わないか?」

 「どうぞ、ただし、全体が長くなるとカートリッジの装填が面倒になりますよ」


 ケイトスさんは、俺の言葉に再度銃を眺める。

 ネコ族の女性に銃を渡して意見を聞いているようだ。

 そして、しばらくすると俺に銃を返してくれた。


 「うちのハント使いの話では、真似をする価値があると言っていた。今年の冬に作ってみる」

 「冬は長いからな。だが性能を確認してから今の銃は手放すのじゃぞ」

 

 小屋篭りの冬に、銃の台座を削り出すのは良い暇潰しになるだろうな。

 そんな話をしているとエルちゃん達が広場にやってきた。

 

 リスティナさんやルミナス達は早速挨拶をしている。

 エルちゃんは俺のところにやってくると、クルリと体をまわした。


 「サンディお姉ちゃんに選んでもらったの」

 

 そう言って嬉しそうに俺を見上げる。

 薄手の綿の上下に、腰までの長さのワンピースは革製だ。確かに良く似合っている。

 

 「サンディ、ありがとう!」


 ルミナスの傍にいたサンディに礼を言う。

 

 「いいのよ。エルちゃんの好みでてっちゃんのも買い込んであるからね。代金はピグレムの報酬で十分間に合ってるから心配しないでね」


 まさか、俺もワンピースってことはないよな。

 

「この娘か……。俺達はネコ族の者だ。今は国も無い放浪の民だが、ネコ族は誇り高い種族だ。お前も、その誇りを忘れずに兄のいうことを良く聞くのだぞ」


 先ほどのネコ族の2人がエルちゃんの目線まで腰を屈めて話をしている。

 そして、最後にポンポンとエルちゃんの肩を叩くと仲間の元に戻っていった。

 俺とエルちゃんは顔を見合わせる。


 「仲間だと教えてくれたのよ。ネコ族の人達は仲間を大切にするって聞いたことがあるもの」


 俺達を見てサンディが教えてくれたんだけど、そうなんだろうか?

 俺にはさっきの言葉が、ネコ族の王国の再興を願っている言葉に聞こえたぞ。

 とはいえ、エルちゃんの素性を知らない筈だから、単なる挨拶ともとれる。意外と高度な言葉使いだな。

 

 「さて、俺達の方は全員揃ったな。……ケイトス、依頼をキチンとこなせよ。お前ならそれができる筈じゃ」

 「マイデルさんもお達者で」


 俺達はケイトスさんの一行に手を振りながら南門を出る。

 もうすぐ夏になる。結構日差しが強いから皆帽子を被りだした。エルちゃんは最初から被っていたが、俺はバッグから帽子を取り出して被る。

 汗をかかないように適当に休みを取って、水筒の水を口にする。昼にはまだ早い時間だから、このまま小屋に戻って昼食にするのかな。


 

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