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N-019 ライフル銃?

 

 マルチプライヤーと、ホールディングナイフにヤスリ……。

 それだけでライフル銃の台座を作ろうと言うのは、少し無謀だったかもしれない。

 それでも、手間を掛けるだけ良い形に仕上がると自分に言い聞かせて、少しずつ掘り進んでいく。

 四角い穴はまぁまぁの出来だ。そして問題はバレルを置く溝だ。

 本来ならば覆いも付けたい位だが、今の道具ではちょっと出来そうもない。最後は、マイデルさんが用意したバレルに炭を塗って台座に取り付ける。すると出張ったところだけに炭が付くから、そこをナイフで薄く削る。

 そんな事を繰り返すと一様に台座に当るようになった。


 「よくもそんな手段を考えたものじゃ。と言うより手馴れてるから、一度やった事があるな。そのやり方はドワーフの工房の奥で密かに行なわれる方法じゃぞ。全く底が見えん技能をもっておるな」

 「これは昔からあった方法だと聞いてます。ぴったりあわせる方法としては簡単で確実です」

 「確かにそうじゃな。どれ、今度はワシの番じゃな」


 俺の作り上げた台座を手に持ってしばらく眺めていたが、早速バレルを台座に乗せて発火装置を台座の穴に差し込んでいる。

 少しきつい位に仕上げてあるから、差し込んではヤスリで台座を整形しているようだ。

 それが終ると、魔法の袋から大きな革袋を取り出した。1枚の風呂敷のような革を広げて、そこに道具を革袋から取り出す。

 ネジで金具を固定し、輪のような金具を何個か取り出すと、それをカナヅチとプライヤーのような物を使って楕円形に変形させると、バレルと台座をその金具を使って固定する。

 最後にコックと発火装置に赤い魔石を填め込んでネジで固定した。


 「ほれ、望みの品じゃ」

 

 職人の流れるような作業を感心してみていた俺に、マイデルさんが銃を差し出した。


 「ありがとうございます。これで、200D(60m)先の野犬を倒せます」

 「何だと! 確か、それってロアルのカートリッジを使うんだろ? 精々が100D(30m)じゃないのか」

 

 「いや、最低でも200Dだ。上手くいけば300D(90m)も可能だと思う。後は、この照準の補正次第だな。明日やってみるつもりだ」


 ハントよりも射程が長いと聞いて、サンディも興味を持ったようだ。

 ちょっと貸してって俺から銃を持っていく。


 「これをどうやって撃つの? 両手で持っても上手く持てないわ」

 「構えが違うんだ。貸して……、こうやって構えるんだ」


 ストックを肩に当てて、利き手で銃把を握る。そしてもう1つの腕で台座の先の方を支えるようにして持つ。


 「こうすれば、安定して構えられる」


 サンディに銃を渡すと、早速教えたとおりに構えて照準をあわせてる。

 

 「照準がブレないわ。後は飛距離と威力ね」

 「ワシも貸してみろ」


 マイデルさん……作ってはくれたけど,どうやって構えるかは分らなかったみたいだな。


 「成る程な。俺達の銃は精々両手で構える位じゃが、これは肩を使って構えるから安定するんじゃな。支える場所が1つ増えるとこうも楽に狙いを付けられるのか」

 「だけど、幾ら構え易くてもロアルのカートリッジを使うんだろ。本当に200D(60m)も飛ぶのか?」


 それはやってみなけりゃ分らないけど、十分に届くと思う。火縄銃だって飛距離は100mはあったと聞くし、それにこの世界の銃にはライフルリングは付いていない。弾丸が回転しないのだ。それだと急速に弾速が低下するから飛距離はあまり無いんだと思っている。

 狙いにしても回転しないで飛ぶよりは回転していたほうが当たる事は確実だ。

 

 次の日。

 早々と朝食を終えると、小屋の前でライフル銃の試射を行なう事になった。

 距離を200D(60m)にして丸太を半分に切った的を置く。的には墨で2重円を描いておいた。


 「距離が200D(60m)となればハントの最大飛距離ってとこね。先ずは私が撃ってみる」


 そう言ってサンディがハントを持って的を狙う。

 ハントは日本の火縄銃のようにストックが無い。銃把を頬に付けて慎重に狙いを定め、サンディは銃を撃った。

 

 バン!っという音がして的に近い場所の土が跳ね上がる。的にかなり近いから、有効って判断されるんじゃないかな。


 「外れちゃった!」

 

 残念そうな顔をして場所を俺に譲ってくれた。

 

 「お兄ちゃん、頑張れ!」

 

 エルちゃんの声援に片手を上げて応えると、バレルにロアルのカートリッジを詰て棒で押し込んだ。トントンと軽く叩き込んでおく。

 ライフル銃を構えると、コックを引いて慎重に狙いを定める。まだ照準の調整はしていないけれど、照準器の谷に銃口の山形を合わせる。

 確か、闇夜に霜が下りるようにだったな……。ゆっくりとトリガーを引く。


 タァン! 軽い音が辺りに響くと同時にかすかな音が的から聞こえてきた。

 

 「ルミナス。的を取ってこい!」


 マイデルさんの指示でルミナスが駆けていく。その場で的を取り上げ驚いているようだ。

 そして、こっちに急いでやってきた。


 「当ってる。当たってるぞ!」

 「どれ、見せてみろ。……ふん、なるほどな。ロアル以上じゃ。やはりあのせいかの」

 

 「私のハントと何か違う所があるんですか?」

 「決定的に1つ違うんじゃ。どれ、今度は300D(90m)で試射するぞ」


 300D(90m)もやはり、1発で命中した。照準を調整しなければならないと思っていたがその心配は無用のようだ。


 「やはり命中してるし、200D(60m)の弾の深さと同じぐらいめり込んでるぞ」

 「ふむ、ここまで性能が上がるのか。だが、これはあまり知らせたくはないのう。同じ銃をサンディにも作ってやろう。それでサンディも満足しておけ。何故当るかは、てっちゃんとワシが知っていれば良いじゃろう」


 「風の魔石で弾丸の落込みを補正したんでしょう。それ位ならロアルで実績もあるわ。秘密じゃないわよ。」

 「いや、この銃にはそんな補正は一切付けておらん。たった1つ、付け加えておるだけじゃ。そして、たぶんその理由を知るものはてっちゃんだけじゃろう」


 「俺の銃にもそれを組み込めるのか?」

 「出来ぬ事は無いが、あまり意味が無いのう。遠距離を正確に狙う銃に有効なのじゃ。近距離を重い弾丸で撃つなら今のままで十分じゃろう。となれば、嬢ちゃんにも作ったほうが良さそうじゃな。リスティナには今のままで十分じゃろう。どれ、村に行って材料を仕入れてくる。今日は付き合えぬぞ」


 マイデルさんはそう言って小屋に戻って仕度を始めた。

 

 「でも、不思議ね。何で当るのか、そして通常ならロアルの射程を越える距離でもちゃんと当って木にめり込むなんて私には想像できないわ」

 「理由を考えても判らないから、魔道具として考えるしか無いな。でも、何でそんな事が起るのか俺にはさっぱりだぞ」


 「お兄ちゃん。誰にも言わないから教えて!」

 

 そんな目で見られたら教えない訳には行かないな。

 

 「教えてもいいけど、此処だけの秘密だよ。たぶんマイデルさんも後2つ同じ機能を持つ銃を作ってお終いにする筈だからね」

 

 「まぁ、教えられてもそれを形に出来るのは、今の所マイデルさんだけだからな。知っていても使えないってとこだろう。でも秘密は守るぞ」

 

 リスティナさんとサンディも頷いている。

 俺は、M29を取り出した。そしてその銃を皆に見せる。


 「これが秘密なんだ。この銃の弾丸は10M(1.5km)は飛ぶんだ。ただ飛ばすだけならね。だけど、この銃の本来の弾丸と炸薬を使ってルミナスの銃で無理やり撃っても1M(150m)まで飛ぶ事はできない。何故だと思う?」

 「同じだけの炸薬と弾丸で飛ぶ距離が違う筈がないだろ!」


 「いや、確実に違うんだ。よくバレルを見てごらん」

 

 4人が真剣に自分達の銃と俺のM29のバレルの違いを見比べる。


 「バレルの裏側に何か埋め込んでる訳じゃないのよね。そうすると違う点はただ1つ。この内側に掘られた溝だわ」

 リスティナさんの言葉に3人がうんうんと頷いている。


 「正解! この溝があるかどうかで飛距離が変わるんだ。そして、この溝を良く見て見るとただの溝じゃない事に気付く筈だ。」

 「溝が渦になってるわ」


 「その通り、これはライフルリングという溝なんだ。これを持つ銃をライフル銃って言うんだけど、その特徴は長く飛んで、狙いが正確になるってことだ」

 「でもこの溝の中を弾丸が通れば弾は回転してしまうぞ……って、それが秘密なのか?」


 「正解だ。マイデルさんに弾を回転させる方法があれば、それを組み込んでくれと頼んだ。回転する弾丸は急速に弾の速度が落ちない。そして真直ぐに飛ぶんだ」

 「世界に3丁しかない銃を俺達は持つ事になるのか。そんな事は誰も考えないよ。回転させれば変な方向に飛んで行くと俺は思うからな」


 「たぶん皆がそう思ってるわ。そして、そんな機能をあえて銃に組み込む人はいないと思う」

 「でも、これは秘密よ。自分の銃を他人の前で分解しない限り気付く人もいない筈。私達だけで狩りをするなら誰も知らないで終ってしまうわ」


 でも、何時かは気付く筈だ。それはバレルにたまたま付いた傷辺りで気が付くのかも知れないけどね。そして、更に高速で弾丸を飛ばせる技術が見つかればライフルリングが無用の長物だ。


 それにしても、技術レベルが変な世界だ。

 使用限度量を超える装薬を入れて撃てばバレルが破裂しそうな気もするが、魔石によってバレル強度を上げることができるらしい。

 思い付きで依頼した、弾丸に回転を掛ける事も可能だった。

 さらには弾丸速度を上げることや、狙いを向上させること、反動を吸収することまで魔石を組合わせることで可能になるらしい。

 

 上質な魔石程効果が高いことから、貴族達の持つロアルと呼ばれる銃には装飾を兼ねてこれでもかという程の魔石が使われているとのことだ。

 エルちゃんから貰ったロアルもぐるぐる巻きの布を取去ったら緻密な装飾に縁取られた魔石が随所に埋められていた。


 そして、これらの魔石の使い方を知るものはドワーフ族に限られているらしい。組み合わせと配置は厳格な位置合わせが必要になり、全てを知るドワーフは限られているとのことだ。

 マイデルさんがそんな技術を持っているのは、おやじさんが工房を持っていることから門前の小僧ということになるようだ。

 家を飛び出したのは70歳になってからと言っていたから、それまでは工房で手伝いをしていたんだろうな。

 

 この世界にある銃の種類は4つに区分されるらしい。

 パレト、ハントにロアルの3種類は火薬に類似した装薬の爆発力を使用して弾丸を発射する。そして魔道具に該当する銃もあり、俺が知るのは俺の持つM29だ。大きな違いは弾丸を自動的に作り出して発射することだが、この発射に必要なのは装薬ではなく魔力であるという事だ。


 魔力がある限り無限に弾丸を撃てることになるのだが現実は厳しく、6発までは1発ごとに魔力を1消費し、7発目を撃つためには【リロード】という魔法を使わねばならない。この魔法に魔力を10消費するため、赤レベルの俺には6発を撃つのがやっとだな。


 パレトは海賊が持ってるような短銃身のフリントロックに酷似している。バレル長は精々20cm程度だが若干外側に向かってバレル内が広がっているようだ。これは次弾装填を早める為の工夫なのだろうが、お蔭で命中率は低くなっている。


 ハントはバレル長が1D(30cm)を越えるパレトの俗称のようだ。パレトと異なる点はバレルの広がりがない。このため、パレトより命中率が高くなるが次弾装填が面倒だ。


 ロアルはちょっと変わった銃で、その製作が決闘用として造られた特注品だ。形はパレトより一周り小さくみえる。貴族趣味な装飾が全体を取巻いているから芸術的価値も高そうだ。

 貴族ならば大抵の者が所持している。とは言え普段持ち歩く者は殆どいない。家に大事に飾ってあるそうだ。そして、この銃は2丁が1セットとして製作される。まぁ、決闘用だからね。


 ハンターの中にはロアルを使用する者もいるようだが、使用する弾丸がパレトに比べて小さいことから、威力が落ちるのであまり一般的ではないようだ。

 命中率はハントを遥かに越えるのだが、弾丸に威力がなく、カートリッジが高価であることと、銃の値段が最低でも数万Lということが問題なのかな。

               ◇

               ◇

               ◇


 「行ってくるぞ。食料は俺の好みで買い込んでくるからな!」

 

 何か恐ろしい事を言ってるような気がするが、俺達にそう告げるとマイデルさんは村へ出掛けて行った。


 俺達も、日課の薬草を採りに出掛ける。

 まだまだレベルは赤のままだし、少しでも早く白になりたいからね。

 マイデルさんのレベルは青の6つという事だった。俺より遥か彼方のレベルだ。確かにそれなら野犬狩りはつまらないものなのかも知れないな。


 そして、その日の夕暮れ近くになってマイデルさんが帰って来た。マイデルさんの好みはハムのようだったので一安心。

 薄いパンにハムを挟んで食べるのは、ちょっとした贅沢だな。

 

 「バレルと発火装置を頼んでおいた。台座は村の木工職人に頼んでおいたからいい物が出来るぞ。てっちゃんの銃もその時に少し直してやる。」

 「何時頃できるの?」


 「そうだな。10日もあれば調整まで出来るじゃろう。その頃には獣の狩りの依頼も増えるじゃろうから具合を調べながら狩ができるぞ」


 高レベルのハンターがいれば狩りも心強い。狩りをしながら採取をすれば獲物にあぶれてもそれなりの収入を得る事ができるだろう。

 

 「ワシとしては少し山の方に出掛けて狩りをしてもいいと思っておる。お前等も、もうすぐ白だ。少しは狩りも覚えんとな」

 

 そんなマイデルさんの話でサンディ達の顔がほころぶ。エルちゃんは静かに聴いているけど、尻尾が踊ってるぞ。知らん顔をしてるけど、感情が尻尾で分るんだからね。


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