N-018 バイキングがやってきた
森の木々の若葉が茂り、下草も少しずつ伸び始めた。
森での薬草採取から荒地で俺達は薬草の採取に勤しんでいる。
薬草採取はあまり報酬は得られないけど、毎日出来るから衣食住の心配があまり無い俺達には格好の仕事ではある。
そして、俺達に近付いてきた野犬を銃撃で倒す。全滅させることはできないがそれでも2、3匹は倒せる。上手い具合に、野犬の報酬は現在3割り増しになっている。
そんなある日の夕暮れ。
皆で外で焚火を作って食事をしようとしていた時に、ガサガサと藪に中から誰かが姿をあらわした。
その姿を見たリスティナさんは席を立つと、タタタ……と走って行き、その男の人に抱きついた。
そして俺とエルちゃんはあまりの驚きに声も出ない。
なんと、その男の格好と言ったら、絵本に出てくるバイキングそのものだ。
身長は160cmにも未たない低い背格好だが筋肉質だ。細く編んだ鎖帷子を革の上下に纏っている。顔の半分はヒゲで覆われ頭のヘルメットの両側にはキチンと角が出ていたぞ。そして、背中には丸い盾、腰の幅広いベルトには両刃の斧が挟んである。
「遅かったわね。去年小屋を作って皆で住んでるのよ」
「あぁ、レムナスから状況は聞いとる。まぁ、無事で良かったわい。ルミナスも元気じゃったか? そしてこっちが、例の兄妹だな。ワシがマイデルじゃ。よろしくな」
「こちらこそ」
そういうのが精一杯だった。エルちゃんなんか俺の影に隠れてるぞ。
リスティナさんが焚火の傍に連れてくる。
そしてマイデルさんが丸太を組み合わせた椅子に座ると、背中の装備を外して傍に置く。ガチャガチャと言う音が聞こえる程、背中に色々背負ってきたようだ。
「先ずはエールじゃ。サンディ、カップを持て」
いそいでサンディが木製のカップを、持ってくると魔法の袋から大きな樽を取り出した。
そしてカップに注がれた物は泡立ったビールみたいな物だった。
全員分のカップにエールを次ぎ終えると、皆に配っていく。
「さて、これは故郷のエールじゃ。この辺ではあまり飲めないから良く味わうんじゃぞ」
マイデルさんの挨拶の後、俺達は早速エールを一口飲んでみる。
これってビールだよな。苦いけど意外にさっぱりしてるな。エルちゃんを見ると沢山飲んでしまったようだ。ウエーってやってる。まぁ、味が味だからね。
「ホイ、ルミナス。土産だぞ」
魔法の袋から出された物は、パレトのようだ。ただし少しバレルが長くて太い。
「これって、特注ですか?」
「そうよ。炸薬は5割り増し。散弾を10発入れられるぞ。そしてサンディにはこれだ」
今度はハントなんだろうが、バレルが長い。ハントの2倍はあるんじゃないか?
「使うのは通常弾だが、バレルが長いから良く当る筈だ。リスティナにはこれだ」
今度のは小さいぞ。
「護身用だな。使うのはロアル用の弾だが、持って無いだろう。此処に数発用意してきたぞ」
「う~ん、どうしようかな。やはり2丁は使えないぞ。こっちのは今度村で売ってこよう」
「それなら、そっちの2人にやったらどうだ。どう見ても赤だ。まだ銃は持てないだろうが」
「そうでもないの。てっちゃん……男の子の方だけど、ロアルととんでもない魔道具の銃を持ってるわ。そして女の子の方もロアルを持ってるの」
「銃の魔道具じゃと、ちょっと見せてみろ」
マイデルさんが俺に手を伸ばす。
仕方なく、腰からM29を取り出してその手に乗せた。
「これは……、まるでアキト様が使っていたという武器そっくりじゃな。数百年前に東の大陸の王国6つを統合させるのに尽力したという伝説のハンターじゃが、その武器はグライザムさえも1発で倒したと聞いた事がある。好事家がその武器そっくりに作ったという模型を見たが、これと全く同じ物だ」
そう言って返してくれた。伝説のハンター、アキトか……。何となく日本人のような名前だけど、まさかね。
「そして、ロアルと言ったな。それも見せてみろ」
同じように、エルちゃんに貰った姉さんの形見みたいな銃を渡す。
「確かにロアルじゃな。この布を外してもいいかな」
そう断ってはいるけど、包帯のようにグリップとバレルに巻かれた布を外しているぞ。
「これは……。リスティナ、どえらい連中を仲間に入れていたな」
リスティナさんが慌てて、マイデルさんがジッと見詰めているグリップを覗き込んだ。
「えぇ! まさか?」
グリップを見て慌てて俺達を見ている。
「ホントなの?」
改めて確かめるように、問い掛けた相手はエルちゃんだった。
エルちゃんが小さく頷くと、リスティナさんは、はぁ~っと大きな溜息を漏らす。
どういうこと?
「そうね、てっちゃんは記憶がハッキリしないのよね。ちゃんと教えておく必要があるわ。ルミナスとサンディも良く聞くのよ。でも此処での話しとして聞いてね。
エルちゃんは……エルちゃんの本当の名前は、エルミア・ドニエ・パラム。あのパラム王国の御姫様よ。」
今は無き亡国の御姫様ってことか。今までの話からたぶんそんなところだと思ってはいたけどね。一緒にいた魔道師のアルクテュールさんも普通じゃなかったし。
「そういうこった。今もボルテムの連中が捜索してると聞いたが、まさかハンターになってるとは思うまい。とはいえ、このロアルは仕舞っておけ。そして……そうだな、これを持っていれば、先ずは銃で足が付くことは無いだろう」
袋から出したのはロアルモドキだ。
「昔、手慰みに作ったものだ。減装弾しか使えんが、嬢ちゃんにはちょうど良いだろう」
「すみません。お手数をお掛けします」
「何の、構わんさ。これも何かの縁じゃろう。ほれ、まだあるぞ!」
そう言って俺達のカップを受取ると、エールを注いで渡してくれた。
「まぁ、元は御姫様でも今は初心者ハンターじゃ。お前等も、そのつもりでいればいい。……で、明日は何を狩るんじゃ?」
「それは、大丈夫です。今まで通り。俺達の仲間のエルちゃんに変わりはありません。そして明日も、薬草を採りながら近寄ってくる野犬を狩ります」
「野犬じゃと! ……詰まらんのう。まぁ、お主達のレベルが低すぎる。あれから少しは上がったろうが、本格的な狩りはまだ早すぎるか」
そう言って諦め顔にエールを飲んでいる。
そんなマイデルさんのレベルが気になった。後でルミナスに聞いてみよう。
俺達の夕食は樽のエールが無くなるまで続いたが、春の夜の冷え込みも焚火で相殺できる。かなり酔っ払った状態で小屋へと引き上げたが、小屋を襲うような輩は現れなかった。
ビールよりはアルコール度数が低い感じだったけど数杯飲んだからな、二日酔いにならないだけ良かったと思わざる得ないようだ。
寝床に入ったときは天井がぐるぐるしてたし、エルちゃんにはお酒臭いと言われてしまった。次ぎは勧められても適当に断わろう。
次に日、朝食を終えて薬草を採取にで掛けようとしてると、小屋の奥からマイデルさんが出て来た。
「小屋にいても詰まらん。お前等の見張りでもしてた方が退屈せずにすむじゃろう」
「マイデルさんが見張ってくれるなら、全員で採取が出来るな」
ルミナスがそう言って喜んでる。
ちょっと変人とは聞いてたけど、まぁ、心根は優しい人なんだな。
そんなマイデルさんのいでたちは革の上下に革のブーツ。そして頭には周囲に丸いツバの付いた革の帽子だ。背中には両刃の斧をベルトに挟みこんでいる。銃は? と見ると、右腰に着けたホルスターにゴツイパレトが収まっていた。
「マイデル1人じゃ大変よ。そうね……、ルミナスとてっちゃんで交替しながら見張りを頼むわ」
「ワシ1人で十分じゃと思うが、まぁ良いか」
そんな訳で、俺達は森の中で薬草採取を始める。
まだ、セリムが沢山採れる。エルちゃんとサンディが競うようにセリムを採取し始めた。そんな2人を微笑ましそうに見ながら丁寧にリスティナさんがセリムの回りをスコップナイフで刺した後で、掬い取るようにして球根を採っていた。
俺も、球根採取の要領が分ってきたので丁寧に1個ずつ採取していく。
「てっちゃん、交替しようぜ!」
「おぉ、良いぞ!」
ルミナスと声を掛け合って交替する。今度は俺が周囲の見張りだ。
少し離れた場所では、マイデルさんがパイプを咥えながら周囲を見張ってる。
そして、俺を見とがめると手招きをした。
急いで、マイデルさんのところへと歩いて行く。
「何でしょう?」
「確か、てっちゃんだったな。アルクテュールにエルミア姫を託されたと聞いたが?」
「はい、薬草採取の折に託されました。それ以後、妹として面倒を見ていますが。」
「アルクテュールは古い友人じゃ。アルクがお前に託したなら、ワシも何か見返りをせねばならん。何が欲しい?」
「ならば銃がいいです。M29はまだ俺には反動がきつすぎます。出来ればロアルのカートリッジが使えてバレル長が1.5D(45cm)位のが欲しいですね」
「変わった銃じゃのう……。強化はどうする?」
「確か、魔石の組み合わせで可能なんですよね。発射した弾丸に回転を掛ける事が出来ますか?飛ぶ方向に対して直角方向に回転を掛けられればいいんですが。」
「それも変わっとる要求じゃな。たぶん風の魔石と他の魔石を組み合わせれば可能性はあるが、そんな事は誰も考えもせん。だが、ドワーフ族の言葉は絶対じゃ。少し待て、必ず作ってやろう」
「もう1つ。バレルの台座は俺が作ります。その銃は撃つ構えが少し変わってますから」
「なら、トリガーの位置を決めるのは、台座が出来てからだ。今夜から台座を作れ。たぶんその台座が出来る頃には俺のほうも出来上がるだろう」
ロアルの通常弾があるからな。有効に使わなくちゃ。そして、これなら背中に背負っていられる。出来上がりはライフル銃になるからな。
◇
◇
◇
去年採ってきた薪の中から、使えそうな物を探す。広葉樹でなるべく木目がしっかりした物だ。
そして、先ずは4cm程の板に整形すると、炭で粗い輪郭を描く。
その輪郭に鋸で形を作り、手斧で手に馴染むような形に整える。
「何を作り始めたんだ?」
「銃の台座だよ。マイデルさんが銃を作ってくれると言うんで、その銃の台座を作ってるんだ」
「どんな銃を頼んだんだ? そんな形の銃の台座なんて俺は始めてみるぞ」
「ちょっと変わってるけど、俺の持ってる銃よりは命中するぞ。使うのはロアルの通常弾だから、あまり大物には使えないけどな」
「ロアル? パレトの方がいいと思うけどな」
「パレトじゃ弾丸が大きすぎるんだ」
段々と形が出来てくる。バレルを入れる溝は明日にでも掘ろうかな。
そんな俺の作業をマイデルさんがジッと見ている。
ある程度、出来たところで俺の台座を手にとって眺めはじめた。
「此処にバレルが載るんだな? となれば此処に下まで届く穴を開けろ。寸法は此処から此処まで、この広さの四角い穴だ」
炉の炭で台座に穴の大きさと位置を書き込んでくれた。
「ありがとうございます。穴は明日掘り始めます」
「となれば、明日は村へ行ってくるか。欲しい物があればついでに買ってくるぞ」
直ぐにリスティナさんとサンディがエルちゃんを交えて相談を始めた。
漏れてくる話だと色々頼まれるようだぞ。
ちょっと気の毒になってしまうな。