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N-164 ネコ族の始祖


 結婚式って厳粛なものだと思っていたが、この世界の結婚式は少し変わっていた。

 厳粛さというよりは、静寂な雰囲気だな。

 着飾ったドレス姿のクアル4姉妹に導かれて、白いドレスの裾を長く引いたエルちゃんと白い絹の将軍のいでたちの俺は腕を組んで後に従って歩いて行く。

 広い通路には赤い絨毯が敷かれているだけだ。周囲の白い石の壁には10mほどの間隔でロウソクの炎が揺らめいていた。

 王宮の奥深くに作られた通路なのだが、この先に何があるのだろう。

 結婚式と披露宴は区別されている。結婚式は俺達だけで執り行うのだろうか?


 「ここにゃ。この先は2人だけで進むにゃ」


 突き当たりの扉の前に立つと、アイネさんが俺達に振り返ってそう言った。

 マイネさんとシイネさんが扉の鍵を開けると、ミイネさんが光球を作って暗い扉の奥に放った。ほわほわと光球が通路を進んでいく。


 「この先に行けば良いんだね。分った」


 アイネさんに答えると、エルちゃんの手を取って2人で通路を先に進む。

 この奥に何があるんだ? そんな思いにふととらわれる。

 いつの間にか周囲の壁が平面ではなくごつごつしたものに変わる。床だけは綺麗な石畳みだが、赤い絨毯は既にない。


 「昔からある神殿と聞いています。ここまではボルテム王国の破壊も及ばなかったようですね」


 そんな話をエルちゃんがしてくれたけど、それならここに篭って様子を見ても良かったんじゃないかな。無理に騒乱の最中に脱出しなくても良かったように思えるぞ。

 それとも、ネコ族の王族といえども軽々しく入る事が出来ない聖域なんだろうか?


 突然、俺達は広いホールに出た。

 洞窟のホールみたいだが天井はずっと上の方にあるようだ。沢山の鍾乳石がカーテンのように下がっている。

 そんなホールを石畳に沿って歩いて行くと、ようやく終点に着いたようだ。

 数m四方の小さなテラスのような石畳の周囲は広い池のように透き通った水が取り巻いている。


 「【メル】」

 

 エルちゃんの呟いた魔法が静寂の中に吸い込まれていく。火炎弾はすうっと尾を引いて前方にある巨大な深皿のような石のモニュメントに吸い込まれていった。

 ボワン!っと石の皿から大きな炎が上がり周囲を明るく照らしだす。

 その明かりに照らされて目の前に巨大な石像が現れた。猫の顔を持った女性像だ。


 『あらたな王の誕生を嬉しく思うぞ……。我等が眷属の最後の血を引く者の伴侶には相応しく思う。お主達2人に幸多からんことを願う』

 

 何処からとも無く性別のない声が聞こえてきた。

 この神像からなのだろうか?


 「レムル様と手を携えパラムの民を導きます」

 

 エルちゃんの言葉に満足そうな思念が伝わってきた。

 ひょっとして、ネコ族の古い神なのだろうか。それならば俺も挨拶をしておかねばなるまい。


 「故あってネコ族に迎えられたレムルです。苦しみは更に続くかも知れませんが、力の限りエルちゃん、ネコ族それに民のために尽力いたします」


 『……確かに、この地にネコ族以外の者が訪れたことはない。だが、そちは既にネコ族の一員。そして、ネコ族を指導するに堪える者。我も、レムルをネコ族として遇しようぞ』


 その言葉とともに、炎が一際高く昇ると、俺の背丈よりも高いネコの頭を持つ者が炎の中から現れて俺達の前に立った。


 『これからの世界は我の思考を超えておる。ちょっとした間違いが種族を絶滅に追いやる事になるやも知れぬ。だが、レムルの友人は我の存在をも越える存在だ。彼らの指導を受けておるなら心配もいらぬであろう』


 口を開かずとも思念が俺の頭に届く。

 白い神官服の腕を伸ばすと女性のような華奢な手が俺に伸びてきた。

 俺がおずおずと手を伸ばして掌を開くと、その上に指輪を1つ落とした。エルちゃんにも同じように腕を伸ばして指輪を渡す。

 俺達に背を向けると、ゆっくりと炎の中に向かって歩いて行き始めた時、思い切って思念で正体を聞いてみた。


 『我にそれを尋ねたのはレムルが初めてじゃ。……我は遥か昔にバビロンを出た1人。遺伝子操作のおかげでこのような姿になり、かつ命を永らえておる』

 「我等とともに地上で暮らすことは出来ないのですか?」

 

 『かつては我も我が眷属とともに地上で暮らしておった。じゃが、今では我1人。齢を数える事も今では空しい事じゃ』

 

 そう言って首を振る。

 寿命まで操作された実験体ってことか? だが、長寿命の存在は他にもいる。それにバビロンだってまだ滅んではいない。


 「大陸のバビロンは健在だと聞いています。それに、バビロンからの人類の流出後の事柄を貴方ほど知っている存在はいないのではないでしょうか? 我等の王宮でお暮らし下さい。ここは寂し過ぎます」

 「私からもお願いします」


 俺の言葉にエルちゃんが重ねて懇願する。

 先程の俺の言葉の中のバビロンの健在に少し驚いた様子だった。

 長い時間女性は考えていたようだったが、俺に顔を向けた。


 『我は……、歓迎されようか? 今では我のような存在は折らぬ筈じゃ』

 「更に不思議な連中もおります。それに、ネコ族の始祖となられるお方です。歓迎されぬ分けはないと思いますが……」

 

 『ならば、そなた達と行くとしようか。ここは退屈じゃ。自らの生体機能を低下させてまどろみの中で過ごすのも飽きてきたのも確かではある』


 「それでは、帰りましょう!」と言いながら神官姿の女性の手をとろうとしたエルちゃんの手を軽くかわすと、改めて俺達の前に立った。


 『だが、その前に結婚の誓いは済ませたが良かろう。先程渡したリングを好感するが良い。それが誓いになる。歴代の王族は我の見守る前でその誓いを行なっておる』


 そうだった。俺達はここで式を上げに来たんだよな。

 改めて、エルちゃんと向き合うと、互いの指輪を交換する。前の指輪の上に着けたけど、それで良い筈だ。

 感極まって俺を見上げるエルちゃんと軽く口付けを交わす。


 『ネコ族始祖の霊が眠るこの神殿で、2人の結婚の儀が行われた事をキャルミラが見届けたぞ!』


 俺達をじっと見ていた神官が思念を飛ばす。

 これで、俺とエルちゃんは夫婦ってことになるんだな。俺達は今度は3人で石畳の通路を歩き始めた。


 「3人にゃ! 後ろの女性は誰にゃ?」

 『キャルミラじゃ。2人の招きにより地上に戻ることになった』


 「大変にゃ! 直ぐに長老様に知らせるにゃ!!」

  

 アイネさんがシイネさんを走らせる。急いで駆けて行ったけど、あのドレスだからな……途中で転ばないか心配になってきたぞ。


 アイネさんの先導で俺達は控え室へと向かった。

 披露宴は午後から始まるらしい。

 それまで、1時間以上時間がある。少し休憩って感じなのかな。数人の侍女達が部屋に入ってくると、エルちゃんの化粧を手直ししている。

 

 俺と、キャルミラさんはそんな光景を見ながらお茶を飲んでいた。

 バタバタと通路を走る音がしたかと思うと、長老達が転がるようにして部屋に入ってきた。キャルミラさんを見ると、その前に膝を着いて平伏している。


 「知らせを受けて飛んで参りました。始祖様がいらっしゃるとは何たる光栄。我等一同何なりとご命令を承ります所存でござりまする」

 『気休めじゃ。この2人に誘われて来たに過ぎぬ。しばらく厄介になりたいのじゃが、構わぬか?』


 「もちろんでござりまする。この者達をお導き下さりますよう、お願い申し上げまする」

 『そうじゃのう。確かに我も不安もある。この者達とあまり離れる事がないようにするつもりじゃ。そして、1人、我の使いを用意してくれぬか。この姿である。あまり周囲に出るのも差し障りがあるじゃろう』


 慌てて長老が、アイネさんを呼ぶと、何事かを告げている。誰か思い当たる人物がいるのだろうか?

 アイネさんが長老に頷いて、部屋を出て行ったから直ぐに分るかな?


 しばらくして部屋に入ってきたのはクラリスさんだった。

 キャルミラさんの前に2人が平伏する。


 「この者をお使い下さい。我等が王都の平安を守る者の一人でござりますれば、始祖様の用向きに十分答えられるでしょう」

 『フム……。それなりに鍛えられたようじゃな。我と行動するにも十分じゃろう』


 ひょっとして、キャルミラさんって強いってことか?

 改めて姿を見てみると、背丈はエルちゃん並みだけど、その肢体は神官服に隠されているから良く分からない。だが、ネコって元々身体能力が優れてる事は確かだ。連合王国のあの7人に匹敵するのかも知れないぞ。


 「午後には披露宴が行なわれまする。どうか、この2人の披露宴にもご出席の程をお願い申し上げます」

 『そうじゃのう。我を神殿より連れ出してくれた2人の晴れの舞台じゃ。出ぬわけには行かぬじゃろう』


 長老達は、その言葉に改めて平伏すると部屋を出て行った。

 ひょっとして、キャルミラさんってとっても偉い人なんじゃないか?


 『そのような目で見るな。我はネコ族の始祖に過ぎぬ。だいぶ容姿は変わっておるが、かの者達はそれを敬ってくれるに過ぎぬ』

 

 確かにキャルミラさんはネコの姿をそのまま残しているような感じに見える。頭はネコそのものだからな。言葉を話す事も出来ないんだろう。そのために思念を俺達に送っているに違いない。

                ・

                ・

                ・


 いよいよ、俺達の披露宴が始まった。

 謁見の間は体育館より大きいように思えたが、その部屋に沢山のテーブルが並んでいる。

 パラム王国を支えてくれる人達を長老達が選びぬいた感じだな。

 

 俺とエルちゃんはそんなテーブルの中央を歩いて玉座に向かう。

 玉座で皆の顔を眺めながら片手を上げて挨拶をすると、テーブルの椅子の脇に立った人達が俺達に頭を下げた。

 それを見たところで中央の一際大きな椅子にエルちゃんが座り、隣の椅子に俺が座る。

 後は、進行役に任せれば良い。

 一番近くのテーブルには美月さん達が座ってにこにこしながら俺達を見ていた。

 さすがに美月さん達はユングさん達と比べれば大人しい衣装だが、チェーンメイル姿とは恐れ入った。

 キャルミラさんも長老とテーブルを囲んでいる。長老達が緊張しているのがここからでも良く分かるな。

 

 司会役の男はどこかで見覚えがあるぞ。

 その男の声が謁見のまに朗々と響き渡る。


 「これより、パラム女王の結婚披露宴を開催いたします。すでに王家の神殿にて結婚式は無事終了いたしました。それでは、初めに長老の祝辞をお聞きくださりますようお願いいたします」


 最初は厳粛な感じではじまったんだけどね。直ぐにまるで宴会のような披露宴になってしまったぞ。

 

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