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N-159 結婚式の準備は進む


 「……はい。これで終わりにゃ。一月でつくるにゃ!」


 おばさん方が2人。俺の寸法を測ってる。どうやら終ったようだ。

 結婚式の衣装を作ってくれるとのことだが、どうも俺にはしっくり来ないな。

 

 相手はエルちゃんだから、嬉しい事は確かなんだけど。

 未だ早いんじゃないか?……と、ちょっと考えてしまう。

 まだまだ、婚約期間と言うのを楽しみたかった気がするぞ。


 おばさん達が作戦指揮所を出て行くと、入れ替わりにエルちゃん達が入って来た。

 暖炉前のソファーに腰を降ろし、ミイネさんが俺達にお茶を入れてくれた。


 ホントはアイネさん達の方が先に嫁ぐんじゃないのか?

 とは言え、相手がいないようにも思えるけど、これは口に出してはいけない話だ。

 

 「レムルさんが最後になってしまいました。私の方が先に用意が出来てしまって申し訳ありません」

 「気にする事はないよ。男の方は簡単だからね。皆が注目するのは俺ではなくて、エルちゃんの方だよ」


 所詮は刺身のツマって奴なんだよな。

 だけど、ここでは余興なんて無いだろうし、どんな形で式は進むんだろうな?


 「出来るだけ簡素にと、長老に頼んでおきました。今の状況でお祝いするのははばかれます」

 「でも、新王国最初の王家の結婚だ。それも含めて長老に任せておけばだいじょうぶだと思うよ。俺達の結婚が国民の喜びになるなら、それで良いじゃないか」


 ある意味、開かれた王室だ。

 俺自体が民間人だからね。そして、少しずつ民政に移行していけば良いだろう。

 それが、パラム王国の将来像だ。

 

 だが……、今はしばし軍政に動こう。

 あれだけの敵を見れば、民政を敷くのは問題だ。

 民政の最大の欠点は、国の方向性を短時間で決められない事だ。

 多数決原理で動くんだから、両者が均衡した時は問題だ。

 互いの切り崩しに賢明になって本題を見失う恐れもある。

 民政が上手く機能するのは平和な時代だけなんだろうな。


 俺達が結婚すると、エルちゃんは女王として君臨する。

 俺も一応、国王ってことになるようだ。

 そして、役割を2分する。

 内政をエルちゃんが、そして外交と軍事を俺が見ることになる。


 エルちゃんには長老達が付いているし、俺にはアルトスさんが付いている。

 そして、連合王国のユングさん達も俺達に助力してくれるからな。

 基本は今まで通りってことだ。


 「それで、軍備を拡張するの?」

 「いや、まだその段階じゃ無いだろう。エイダスの勢力は俺達を除いて均衡してるようだ。俺達が手を出さない限りにらみ合ってるだけだな。そして俺達は将来の戦に備えてる。

 今は、つかの間の平和な時代だ。長くは続かないかも知れないけど、平和である事は確かだと思う」


 それは柵の中の平和でしかない。

 偽りの平和なのだが、俺達ネコ族が誰からも脅かされずに暮らせることも確かなのだ。


 「でも、兵力は3個大隊……。フラウさんは連合王国では4個大隊を1つにした師団、さらにはその上の軍団と言う組織を作っているそうですよ」


 「軍団を集めて方面軍を作っているよ。実数は10万人を越えているそうだ。パラム王国の国民数より多いなんて笑うしかないんだけどね。

 でも、それは連合王国の敵の数が100万を越えているからだろうね。

 兵隊は少ないに限るんだ。それだけ維持するだけで国力を低下させる。

 軍は消費するが生産を行なわない。俺達の王国は現在でも4万人に達していない。

 3個大隊と言うけど、屯田兵を模した民兵組織が1個大隊それに特殊部隊が1個中隊さらにはエイダス島最初の空軍が1個小隊いるんだ。実質は遥かに多い。そして武器は新型だから、旧軍の10倍以上の戦力だよ」


 敵を50m以内に近づけない戦を心掛ければ良い。それが俺達の戦のやり方だ。

 その為の武器を連合王国から援助して貰ったんだからな。

 そしてそれは悪魔とのラグナロクを勝ち抜く為。

 エイダスを統一する為のものではない。


 「それで、俺達の結婚式は何時になるのかな?」

 「準備に時間が掛かりそうなので、秋の終わりを予定しています」


 今は初夏だから、後半年は無いようだな。

 収穫を終えて一段落なら、王国内の人達も少し気分が高揚している時期だ。

 楽しく祝って貰って冬を迎えれば良い。


 「でも、エイダス内の他の王国は戦の最中ですから……」

 「気にする事はない。パラム建国には招待したんだ。それに、向うは戦の最中。祝ってくれるどころか、暗殺されかねない。

 他国からは美月さん達とユングさん達のどちらかが来てくれれば良いと思ってるよ」


 たぶん、美月さん達は来てくれるんじゃないかな。

 忙しいとは思うけど、元弟子の1人だからね。そんなところは気にする人達だし。


 「私達も考え時にゃ。私とマイネはずっと一緒にゃ。でも、ミイネとシイネは嫁に出すにゃ!」

 

 アイネさんの爆弾宣言に、ミイネさんとシイネさんの顔が赤くなったぞ。

 俺も、ミイネさん達は良いお嫁さんになれると思う。

 でも、アイネさんとマイネさんは……、だよな。


 2人で俺達をずっと守ってくれるのだろうか?

 それは、アイネさん達の兄貴達の出来なかった事をやり遂げる、という思いもあるに違いない。

 だけど、そんな2人だって結婚して子供を育てても、兄貴達は喜んでくれるんじゃないかな。

 決して悪い人じゃない。俺達にとっては良いお姉さん的な存在だ。

 諦めないで相手を探してくれた方が俺達は嬉しいぞ。


 「アイネさん。気持ちは嬉しいけど、アイネさんの兄さん達はアイネさんの子供が見たいと思うよ。それに一度に全員が結婚するわけじゃないし、俺達の近くで暮らすだけでも俺達はありがたいと思ってるんだ」


 「う~ん……。考えてみるにゃ!」


 そんなアイネさんの言葉をエルちゃんも笑って聞いている。

 だけど、どんな家庭を築くか想像出来ないな。しっかりした人物をアルトスさんに見付けてもらう事も視野に入れるべきだろう。


 「それで、砦造りは順調なんですか?」

 「ユングさん達が頑張ってるからね。北のラクトー山脈の峠に作ってる航空基地は、後一月程で出来上がるよ。連合王国から駐留軍がやってくるのは2ヵ月後らしい。

 ヘイムダルはパリム湖までの地下道造りが始まってる。砦そのものは完成してるみたいだね。アルトスさんが2個中隊を派遣してる。

 一番大変なのは王都の東に作る地下の港だ。後半年は掛かりそうだよ」


 それでも、後半年だ。

 とんでもなく工事が早いぞ。

 戦闘工兵とユングさん達が一緒に動くと、こんな工事が簡単に出来てしまうのだろうか。ユングさん達は岩を簡単にブロックに加工してしまうからな。

 そして、戦闘工兵はトラ族だから、力が半端じゃない。

 俺達が真似したくても出来ない部隊だ。


 「私達の結婚式の前後になるんですね」

 「狙ったわけじゃないけど、そうなりそうだ。たぶん、出来たら直ぐに帰ってしまうと思うよ」


 ちょっと残念だけど、仕方が無い。

 俺達の住む島なんだから、俺達で何とかしたい。

 北の航空基地は、エイダス島の防衛よりは大陸の防衛用だからな。

 

 「そういえば、ルミナスやレイク達はどうしてるんだろうな?」

 「王都の外れに隣同士で家を持ったみたい。マイデルさんは近くに工房を持ってるし、ドワーフ族が大勢来たから王都の人口はだいぶ増えた感じ」


 という事は、王都のネコ族の比率も少し緩めたという事だろうな。

 それでも、近くに知人がいるという事は嬉しい限りだ。

 そして、家を持ったという事は、ルミナス達は身を固めたってことなんだろう。レイクもそうなんだろう。

 

 「ミーネさん達は洞窟村の奥にある迷宮にサンディさん達と出掛けてるみたい。今は白の上位って、ミーネさんが言ってたわ」

 「それは凄いな! 俺達を追い越してるぞ。少し俺達もレベルを上げとかなきゃならないな」

 

 「また、皆で行ってみるにゃ。暇そうな人を誘ってみるにゃ」


 そんな事を、アイネさんが言ってたけど……、いったい誰に目を付けてるんだろう?

 ちょっと気になるな。

               ・

               ・

               ・


 そんなある日。

 俺の元に王都から知らせが届いた。

 迷宮に行こうと言うアイネさんからのお誘いだ。

 俺とエルちゃんのレベルは白の中位。何とかして青に持って行きたいものだ。俺の持つM29の使える回数を、1日18発までには上げておきたい。何と言ってもリロードに大量の魔力を使うのが難点だからな。

 

 知らせてくれた伝令に直ぐに向かうと返事をして、早速着替えを始めた。

 準備はエルちゃん達がしてくれてる筈だから、何時もの装備に散弾銃を持って行けば良い。

 作戦指揮所から外に出て、王都に歩こうとしたら、俺を呼び止める声がした。

 

 「レムル様、こっちです!」

 「馬車で来たのか?」


 伝令の青年が馬車の荷台から俺に手を振っている。

 伝令用の馬車なんだろう。3人が座れるベンチシートだけが車輪の上に乗っているシンプルな作りだ。


 それでも、歩くよりはずっと早い。焼け跡から若木が伸びてきた森を抜けて、王都まで15分も掛かっていない。


 修復が済んだばかりの王都は人気も少なく寒々とした感じだったが、今では通りを歩く人の姿もだいぶ目立ってきた。

 商店が少ないのは、生活物資が自分達で生産出来るまでに至っていないからなんだろう。それでも、畑作や放牧等が始まっているから少しずつ活気は出て来るんだろうな。


 「ところで、何処に向かってるんだ?」

 「迷宮の入口です。あの角を曲ると直ぐですよ」


 王宮で待ってる訳じゃないようだ。

 王宮で暮らさない王族ってちょとおかしな存在だが、エルちゃん達は王都にいる時には王宮の付帯設備である使用人達の暮らす建屋の中に部屋を借りているらしい。

 

 家族が多いなら王宮の部屋も良いのだろうが、今ではエルちゃん1人だからな。

 アイネさん達と一緒にいたほうが安心するんだろう。それに、万が一と言う事もありえる。

 

 十字路を左に曲がると、大きな石の壁が前方にあった。その壁に作られた頑丈そうな門の前に数人の人影が見える。

 俺に向かって手を振ってるのはアイネさんだな。

 こういうのは積極的なんだよな。


 「来たにゃ。これで全員にゃ」

 「でも、ここって王都の迷宮じゃないですか? 俺達のレベルでは無理なんじゃないですか?」


 魔物が溢れたって事は、迷宮の階層を無視した魔物がいるってことになる。少なくとも黒の連中が何人かいないと自殺行為だぞ。


 「だいじょうぶにゃ。暇そうな人を見つけておいたにゃ」

 

 そう言って、背負い籠に背中を預けてのんびりとタバコを吸っていた人物を指差した。


 「俺が暇そうな人物だ。まあ、確かに暇だしな。それにこの迷宮はまだ入ってないのを思い出したんだ」


 そう言って立ち上がったユングさんはコンバットスーツ姿だ。

 背中の長剣に違和感があるけど……。ユングさんが来てくれたなら、確かにどんな迷宮でも攻略は出来るだろうな。

 

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