N-157 ユングさんの計画
「あの伝説の戦が再び始まるのか……」
「一度は滅び掛けたが、カラメル族のお蔭で何とか退けたと伝えられておる。そして、その戦が終った時には、100万を超えた人口が20万程に減ったらしい。数カ国の王国が作られ、連合王国はその王国の子孫達じゃ」
「前の大戦など問題にならない程の大戦になるようじゃ。祖先が必死に我等の未来を作ってくれた以上、我等も子孫にこの地を継承させる義務がある。……レムルよ。パラム王国の為だけではないぞ。エイダス島と大陸に住まう我らの同胞を含めて、悪魔から守るのじゃ」
長老3人が俺に厳しい目を向けた。
「では、俺の思い通りに事を構えて良いと……」
「無論じゃ。……なるほど、美月殿は先を見ておる。確かに婚礼は急ぐ必要があろうな。婚礼によりレムルは名実共にパラム王国の国王になる。
内政はエル王妃に任せて、レムルは戦に備えるのじゃ。エル王妃は我等が助ける。そして、アルトスとエクレムはレムルを助けよ」
老人とは思えない力強い口調だ。
これで、連合王国との共同作戦が決まったな。あまり連合王国には益にならないだろうが俺達には十分な利益がある。
「婚礼の準備は我等に任せておけばよい。レムルは存分に戦うがよい」
俺とアルトスさん、そしてエクレムさんの3人は長老達に一礼して部屋を出た。
エルちゃんとアイネさん達は残って何やら相談するらしい。
たぶん婚礼に関してだろうから、エルちゃんで大丈夫だろうな。
作戦指揮所に戻ると、航空基地と旧ボルテム王都の砦の使用許可を得たことを明人さん達に告げた。
「そうか、早速工兵を手配する。3箇所の工事を同時に進めるぞ。工事責任者を近くに住まわせても良いだろうか? トラ族になるのだが」
「数人なら、この別荘の客室を使ってくれ。それより多いときには王都の建屋を提供しよう」
「数人になる筈だ。2部屋あれば十分だ。工兵は現場に泊まらせる」
アルトスさんの言葉に明人さんが頷いている。
「なら、王都の建屋を俺が貰って良いかな。カウンターテロの部隊を作るには都合が良い。30人以下が住めれば良いんだが……」
「大丈夫だ。どこでも良いのか?」
「ああ、良いぞ。直ぐにでも始めたい。隊員は全員ネコ族。これは譲れんぞ」
アルトスさんが副官に何やら指示を出している。既に隊員を選抜していたのかな。
「追加で攻撃機の隊員を集めてくれ。3人が8組、それに部隊指揮があるから30人は欲しいぞ」
「ユング。目処が着くまでここに残ってくれないか? 向こうは俺達がいるし、亀兵隊もいる。今すぐ突破されるような事態にはならないからな」
「ああ、良いぞ。戦闘工兵は何時送ってくれるんだ?」
「早くて1週間後だ。2中隊を送る。部隊の指揮はユングに任せるぞ」
そう言って明人さん達は席を離れた。
直ぐに連合王国に帰るんだろうな。それなりに忙しそうだ。
俺達も席を立ち部屋を出るアキトさん達を見送る。
軽く手を上げて俺に頷いたところを見ると、俺に期待してるって事なのだろうか?
俺はいたって普通の人間だからな。少しは強化されてるみたいだけど、明人さん達のようには活躍できないが、やれるだけのことはするつもりだ。
「さて、明人もいなくなった事だし、具体的な計画を考えるぞ」
ユングさんの言葉に俺達はテーブルに向かう。
従兵達がお茶を運ぶ間に、各自がテーブルの地図を眺めた。
タバコを取り出し、火を点ける。長い打合せになりそうだ。
「2個中隊だから、隠匿港と補給路に1個中隊を使う。これは、フラウが担当してくれ。峠の基地はラミィが担当だ。3個小隊で頑張ってくれ。俺は、この砦を担当する。1個小隊あれば何とかなるだろう」
「俺の所から、この峠に1個中隊を出せるぞ。輸送路は時間が掛かりそうだ。俺とエクレムの所から1個中隊を出す」
「そうだな。1個中隊は出せる。そして、砦の工事にも1個中隊は出せそうだ」
3箇所の工事に、部隊を振り分けることになる。
そうなると、国境を守る部隊はアルトスさんの1個大隊とエクレムさんの2個中隊になってしまうが、民兵の一部をそのまま貼り付ければ国境は維持出来るだろう。
幸いなことにレムナム王国の存亡が危ぶまれる時だ。サンドミナス軍もこちらに侵攻するとは思えない。
「とは言え、国境警備は重要です。常に監視は行ってください」
「それは、承知している。だが、レムルはその不思議な装置でレムナム、侵攻軍、それにサンドミナスの状況を見てくれ。偵察部隊なら何とでもなるが、大軍となると、それに見合う体制を固めねばなるまい」
それ位ならと、俺は頷いた。
「前に敵軍は飛行部隊を持っていると聞きました。確かにこちらにも飛行部隊があれば迎撃は可能でしょうが、全てを迎撃することなど不可能だと思います。航空基地は言うなれば広場でしょう。敵の火炎弾攻撃には無力ではありませんか?」
俺の言葉をおもしろそうにユングさんが聞いている。
フラウさんとラミィさんはあまり表情を変えないんだよな。
「分かってるなら、話が早い。……広場は必要だ。だが、イオンクラフトは壕を作って隠蔽する。広場の片隅にダミーの兵舎とダミーの機体を置けば敵はそれを攻撃する。何度かやっているからだいじょうぶだ。
港も一緒なんだ。遺跡の東に作った港も強化しなければならないが、基本は迎撃用に特化する。2隻程船を繋いでおけば奴等はそっちを攻撃する。隠匿港は完全に見えない場所に作るからな。
そして、問題は旧ボルテム王都に作る砦だ。
面倒だが、港と砦、そして航空基地の3つを備えたものになる。
頑丈に作らねばならない……。こんな感じになるな」
端末のスクリーンが新たな画像を投影する。
最初の画像は峠に作る航空基地のようだ。
山麓を削ったイオンクラフトの格納庫は石造建築だ。簡単なスケッチだが1つの格納庫には4機を収容するようだな。それが5列という事は、戦況によって更に機数を増やすことを考えてるということか。
その格納庫に隣接した兵舎も同じような作りだ。
500m四方の広場が離着陸場になるのだろう。反対側にはログハウス風の格納庫と兵舎が作られる。
山の稜線に3つの対空機銃陣地を築き、離着陸場の周りにも3つ程作るようだが、これは状況次第ってことだろうな。
「奴等の攻撃範囲は短かい。精々数十kmの範囲だ。自爆攻撃をするなら100km位はやって来るかもしれんな。
次は、隠匿港と連絡通路だ……」
やはりと思ってしまった。
地中に作る港だ。王都の東は崖になってるから丁度良い感じだが……。
「この港に入る船は半潜水艇だ。一度に大量の輸送は出来ないが、数で何とか輸送をこなしたい。遺跡の東の港が破壊されても修理は可能だ。その修理期間中は、これを使う」
体育館6個分程の大きさになるようだ。
四角いプールのような場所が浮上する半潜水艇の港になるんだろう。左右に4艘停泊できるようだな。
運ばれた荷物は斜路で地上付近に運ばれて、そこから王都までの隠匿輸送路で運ぶようだ。
地上付近に石作りでターミナルのような建造物を作るが、その上を土で覆うようだ。
ちょっとした丘になるのかな。
隠匿輸送路は縦横2mの断面を持った石造通路だ。一応地下埋設構造だが地表までは30cmもない。
途中に数箇所の換気設備を作るようだな。
「掘るのが大変だな」
「協力は、お願いしたいね。それに植樹もあるからな」
最後の砦は、今までの砦とは全く異なる形だ。
一言で言うなら、山になるな。大きな人工の山だ。
「ある意味、このエイダス島の要だな。絶対に守らねばならない。敵の魔法攻撃は強力だ。それを緩衝させる目的で石造建築を土砂で覆う……」
港やイオンクラフトの格納庫に至るまで全て土砂で覆われる。出入口は開閉式の大きな扉が付けられる。
これが砦なのかと疑わしくなるな。
「ある意味要塞だ。攻略できない要塞は無いんだが、この要塞ならかなり難かしいことは確かだろう。正直、奴等の戦い方なら難攻不落に近い」
こんな砦にも課題があるというのだろうか?
俺には思い付かないな。
「この砦を落とすのは意外と簡単なんだ。補給路を断てばそれで終る。
その為にも、この砦から北と東に伸びる柵は重要になる。砦の工事が終り次第、そっちに取り掛かることになるだろうな」
大軍に囲まれたら終わりって事か。
その為の柵となると、かなり頑丈な物が必要だろう。
東の防壁はそんなコンセプトで作れれたんだろうな。あれは頑丈そうだ。
「柵なら既に作っているが、あれでは不足という事か?」
「敵の身体能力はかなりのものだ。6D(1.8m)程の柵なら飛び越えるぞ。高さは10D(3m)以上。厚さは5D(1.5m)以上欲しい。岩山を探して石切から始めなければならん」
とんでもない工事になるぞ。そして、益々人員不足が露呈してくる。
「防壁作りは後でもだいじょうぶだ。石は、隠匿港作りで沢山出てくるだろう。そして、イオンクラフトで運べば、イオンクラフトの操縦訓練も兼ねられる。
それに、現在の柵も無駄ではない。柵があれば少しでも時間が稼げる。それだけ敵に打撃を与えられるからな」
「それなら堀作りから始めましょう。堀を作れば土砂が出ます。それで旧ボルテムの砦を隠蔽出来ます」
「そうだな。最終防衛線を決めてその前に掘れば良い。万が一に備えて駐屯している兵達を使うことが出来る。そうだな、2中隊は穴掘りをやらせられるぞ」
ならば……とユングさんが地図上に線を引く。
それが絶対防衛線になる。
先ずは始めよう。
幸いにも敵は動きが取れない。3つの軍勢が最終的にどうなるかは分からないが、しばらくは俺達に構うことが出来ないからな。
「レムルはここで、エイダス島を観察してくれ。そして、1日に1回は大陸の西にある王国を見るんだ。エイダスよりは侵略が早いからな。連合王国では数人が東西と北を見ているよ。……そうなると、ここにも端末がもう1台欲しくなるな。明人と相談して監視方法を奴に考えさせるか……」
そんな大計画は1日で確定するなど困難だ。
基本構想が決まると、次の日には計画図が出来てきた。
この計画図を元に作業を進めるのだろうが、ユングさん達は測量をやらないんだろうか?
「測量技師なら戦闘工兵達とやって来るよ。測量次第で作業量が決まるからな。決して適当にやる訳じゃないぞ」
力説しているところが怪しくはある。
だけど、港はちゃんと作ってくれたからな。
たぶん、測量技師と戦闘工兵が優秀なんだろう。




