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N-014 魔石と魔物

 「これがグラルの代金だ。そして、いいか。今回はたまたまだ。自分の力を過信しないようにするんだぞ。」

 「そうは言っても、立派な毛皮だ。良くもまぁ倒したもんだと感心するぜ」

 「そうだな。俺達でどうにかってところだろう。だが、レムナスの言う通りだ。無理はするなよ。後2ヶ月で雪は消える。そしたらギルドに顔を出すんだ」


 鈴を鳴らしながら小屋を一月ごとに廻ってくれるレムナスさん達がまたやってきた。 

 リスティナさんが食料を買い込み、俺達が倒したグラルの毛皮を売り払う。そして商談が終わると、ルミナスさん達5人を小屋に招き入れ皆でお茶を飲む。


 グラルは銀貨20枚の値がついた。2000Lって大金だよな。

 雪レイムは次の機会に売ろうってルミナスが言っていたから、今回の収入はこれだけだ。その銀貨と共に冒頭のありがたい忠告を頂いたという訳だ。


 「私達は全員赤のハンターです。過信はしませんわ。今回はこの頑丈な小屋に助けられました。入口の扉に穴を開けてグラルが顔を出した時に全員で銃を撃ったんです」

 「この小屋だからな。グラルには少し頑丈過ぎたか……。そして、全員が銃を持っているというのも驚きだな。だが、そうでもなければ倒せないだろうな。そしてやはり、運も良かったんだろう」


 そう言いながらルミナスのホルスターを見ている。


 「パレトの大型か、そしてハント……。こっちの小さい嬢ちゃんは減装弾だろうが、急所にうまく当てる事が出来ればパレトでもグラルは倒せる。穴に挟まって動けないでいる頭を全員で撃ったら、確かに1発は急所に当るかも知れないな。やはり、小屋は丈夫に作る事に越したことはない」

 「おいおい、パレトの大型なんか俺だって撃てないぞ」


 「それは鍛え方が足りねえんだ。こっちのボーズを見ろ。長剣を使っている。長剣は腕力がある程度ないと使いこなせねぇ。下地があるんだよ」

 

 そんな話を聞きながらお茶を飲むのも楽しいな。

 久しぶりに村の話題や周りの状況も教えてくれる。

 ルミナスが長剣を使っていたのも、将来は大型の銃を撃つために筋肉を鍛えていたのかも知れないな。俺も、M29の衝撃に耐えられるように少しトレーニングを始めようか。


 「グラルは近頃稀に見る大物だ。村で商人に転売した時に、更に高く売れるかもしれない。その時は次の訪問時に残金を渡すからな」

 「お茶をありがとうよ。そして無茶しないで頑張るんだぞ」


 5人はそう言って小屋を出て行く。

 そして俺達が見送る中、鈴を鳴らしながら東へとソリを進めていく。

 あの鈴って、熊避けなのかな? 

 そんな事を考えながら小屋に引き上げた。


 エルちゃんが早速サンディの隣に座り込んで編み物を始めた。何かしきりに聞いているのは、編んでいて分らないところがあるみたいだな。

 嬉しそうな顔で答えているサンディには妹のように見えるのかもしれない。


 ルミナスは足元に風呂敷のような布を広げて自分の銃の手入れを始めた。

 バレルの尾栓を専用工具で回して外し、内部をボロ布で掃除している。


 「銃は手入れをしないといけないのか?」

 「銃によるな。俺達の銃に付いている魔石は発火用の火の魔石と銃を強化する土の魔石だ。……ほら、これがそうさ。

 低レベルの魔石を使って単体か2つの組み合わせだから、それ程銃を強化する事は出来ない。数発撃てば掃除が基本だな」


 「この間、グラルに襲われた時ロアルを撃ったけど、やはり掃除は必要なのか?」

 「ロアルは別だ。まして1発なら何の問題もないな。ロアルのバレルの下には沢山の魔石が埋め込まれてるんだ。強化、保護、除去、軽減、追加……その他にも付加されたものがあるかもしれない。バレルだけでは足りなくて、握りの中にもあるそうだからな」


 確か、ロアルは金貨が必要だって前に言ってたな。

 それ程の機能を組込むんじゃそんな値段も頷ける。

 そうなると、エルちゃん達が持っていたことが不思議な感じだ。たぶんお姉さんの持ち物だとは思うが魔道師ってそんなに収入が多いものかな?


 「そして、一番の違いはその魔石でもあるんだ。俺の銃のコックに付けられた魔石は火の魔石だがかなり黒いだろ。後10発程度したらたぶん魔石を交換しなくちゃならない。一応予備はもってるけどな。そしててっちゃんのロアルのコックを見てみろ。それに付いている魔石は上物の筈だ」


 言われて、寝床の毛布の下にホルスターごと置いてあるロアルを手に取ってコックを見た。

 赤く透き通った魔石が填め込まれている。


 「かなりの上物だぞ。それだけで銀貨数枚の値打ちがあるんだ」

 「魔石ってどんな物か良く分からないんだ。良かったら教えてくれ」

 「魔石は私が教えた方が良さそうね」

 

 俺達の話を聞いていたリスティナさんが網棒を置いて俺の方に顔を向ける。

エルちゃんも興味があるみたいでサンディのところから俺の隣に移動してきた。


 「魔石は日常的に使ってるけど、どういう物かは良く知らないのよね。私も聞きたいわ。ルミナスもちゃんと聞くのよ!」


 ルミナスは急いで銃を組み立て直すと、サンディの隣に腰を下ろす。

 サンディが炉の傍においたポットからお茶を入れてカップを渡してくれる。


 「先ず言っておくけど、魔石は魔物を倒すことで得られるのよ……。」


 この世界には魔法がある。魔法は魔気と呼ばれるものを媒体として使用するものらしい。その魔気が濃い場所に獣等が長く滞在すると魔物に変化するとのことだ。

 魔物に変化した獣同士で子供も作れるとのことだ。この場合、子供は親よりも魔物としてのレベルが上がる。


 魔物の特徴は戦闘力が高いことと、思い掛けない能力が付加されること、そして死んだ時に死骸を残さずに消えることだ。そして消える時に低い確率で魔石を残すらしい。


 「魔石の種類は火、風、土、水と闇と光の6種類よ。色としては赤、緑、茶、青そして黒と白になるわ……。」


 残された魔石には透明度によりレベルがあるらしい。透明な物ほどレベルが高く、そして効果や使用回数が変わる。レベルが低ければ濁りが入って黒ずんでくるそうだ。

 銃の発火機構に赤、火の魔石を組込む場合にそれが顕著に現れる。

 透明な赤い魔石ならば使用回数に殆ど制限が無いが、濁りがあって黒ずんだ魔石では精々50回程度で使用できなくなるそうだ。

 ルミナスが後10回程度で交換すると言っていたのは、魔石のレベルが低いからだな。


 「魔石はレベルが高い程高価になるわ。そして、それは魔石の出現頻度による違いにも関係するの……。」


 土水火風の4種類の魔石が9割の確率で残り1割が闇と光とのことだ。光の魔石が出現するのは20回に1回というわけだな。火であれば5回に1回となる。

 そんなことから、闇と光の魔石は10倍以上の値が付くらしい。


 「魔物は古代遺跡や山奥の洞穴にいるわ。この辺りではめったに見ることはないと思うけどね」

 「俺達も青になったら魔物を狩ろうと話してたんだ。魔物が魔石を落とす確率は2割程度らしい。そして魔物が多い土地はここから東に3日程のところにあるパラムだな」


 「パラムは数年前にボルテム王国に滅ぼされたパラム王国の都なの。ネコ族の人達が大勢住んでいたらしいけど、ラクトー山に沢山ある洞窟で得られる魔石を得るために攻め込んだのよ。悲惨な戦だったらしいわ。国が滅んで大勢の人達が流浪の民となってこの島を彷徨っているわ。」


 資源を廻る戦争って訳だな。何時の世も変わりがないようだ。

 エルちゃん達もそんな放浪をしたんだろうか? 姉さんと山越えしたと言っていたからな。


 「本来なら、パラムにボルテムの貴族がやってきて統治するんだろうけど、そうはならなかったんだ。パラムの王族達が何とか防いでいた魔物達が今度はパラムに侵攻した。せっかく奪った都だけど、ボルテムは逃げ帰るしかなかったらしい」

 「事態を重く見たボルテム王国はパラムの都の周囲に結界を作ってパラム方面から魔物が出てくるのを押さえているわ。その結界を維持するために幾つか塔を作ったんだけど、パラム侵攻で得た以上の魔石を使ったと聞いているわ。その塔にある魔石を狙う盗賊を防ぐ為に軍隊まで駐屯させているのよ」


 とんでもない愚策だったようだな。

 侵攻を提言した貴族は排斥され、国王は王子に王位を譲って退位したらしい。

 ボルテム王国の国力は急激に低下したらしく、今度は自分達が周囲の王国に狙われているみたいだ。

 政略結婚で南のサンドミナス王国から王妃を迎えたらしいが、はてさて将来はどうなるのかな。


 「此処で後2年頑張れば何とか青になれるでしょう。なれなくても白の高位には行けるわ。そしたら、私達は魔石を狩ろうという事にしてるの」

 「その時は俺達も誘ってください。今の話を聞くと何となくこの辺りはきな臭く感じます。変に他の土地へ行ってもいいことが無いように思えますね」


 「てっちゃんなら歓迎だわ。でも、そうすると此処で後2年は暮すことになるのよ」

 「それは構いません。元々行く当てはありませんから。エルちゃんもそれで良いよね」


 最後の言葉はエルちゃんを見て言った。

 エルちゃんは俺を見てしっかりと頷いている。


 ここで、ハンターのレベルを上げて移動する事になるのか。早いとこ、魔力が上がればいいんだけどな。リロードが使えればM29を主力に戦える筈だ。

               ◇

               ◇

               ◇


 単調な暮らしが続くが、それなりに変化はある。

 エルちゃんの編んでくれたベストは色んな色の毛糸が混じって一言では言えないような色だったが着れば暖かい。

 そして、今は特注の耳当てを編んで貰っている。

 サンディが興味を示して、一緒に編んでいるけど、その理由を聞いてリスティナさんも編み始めた。

 耳当ての耳の部分を布で補強して簡易なイヤープロテクターを作るのだ。

 全員が一斉に銃を撃った時の轟音は音の暴力だ。それは全員が知っている。


 そして、スノーシューも全員分を作る事になった。

 やはり雪の森を歩くのは気持ちがいいみたいだ。エルちゃんは殆ど潜らないけどその後を俺が歩くといきなりズボって潜る事もある。まぁ、それでも50cmは入り込む事はない。

 

 「全員で回れると少し広く罠を仕掛けられるな」

 

 ルミナスは以前より沢山の罠を仕掛けられるから機嫌がいい。

 それもあって、平均2日に1匹は罠に雪レイムが掛かるようになった。

 これは貴重な収入源になる。


 「もうすぐ、ソリが来るわね」

 「今度は沢山毛皮があるぞ。あれ以来ガトルは来ないし、春も後1月だな」


 夕食を終えてのんびりとお茶を楽しんでいると、そんな話題になった。


 「春になったら村へ行くんでしょう。食料は当然として、何を今度は購入するんですか?」

 「購入より先に山菜採りの依頼が増えるわ。たぶん次のソリが来た時に相場を教えてくれる筈よ」


 先ずは収入ってことか。俺は村に行ったら武器屋を覗いてみたいな。どんな武器があるのか興味がある。そして、出来れば槍の穂先が欲しい。

 グラルの毛皮は確かに鋼のように硬く長い毛だ。あれなら銃弾が効かないのが理解出来る。だが、刺突には弱そうだ。ルミナスはそれ程苦労せずに皮を剥いでいたからな。

 今の槍モドキの穂先はスコップナイフだから、あまり刺すには適さない。鋭く細い棒状の槍ならグラルの体を突き通せるんじゃないかな。


 「春には採取の依頼が多いの?」

 「あぁ、沢山あるな。青レベルまで狩りをしないで採取をするぐらいだ。南の王国へ売るらしい」


 輸出品という訳だな。

 となれば、村には大勢の商人が訪れる筈だ。おもしろい品があるかも知れないな。


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