N-139 レムナム国王
別荘のリビングは何時でも作戦指揮所として使用できる。
そこには大きなテーブルがあるが、暖炉近くにある小さなテーブルへとマイデルさん達を案内した。
数人が座れるテーブルセットに副官や弟子も一緒に座ってもらう。
すぐに、警備兵がお茶を運んで来てくれた。女性の警備兵はある意味侍女として使ってくれて構わん、と警備隊長のオリザさんが言ってくれたんだけど良いのかな?
「中々良いところじゃな。ところで、ワシに頼みとはなんじゃ?」
「前にカートリッジを使って爆裂球を飛ばす銃を作って貰いました。およそ1M前後飛ぶんですが、それを更に伸ばしたい、それと爆裂球にちょっと改造を施したいという2つです。
改良型バリスタで敵国のバリスタは破壊できるでしょう。ですが以前として兵力の差は埋めることが出来ません。
俺達の軍は散弾銃で武装しています。スラッグ弾を使えば300D(90m)は有効射程と言えるでしょう。敵よりは100D(30m)程距離が長いことは確かです。
ですが、それだけでは敵の一斉攻撃に耐える事は出来ません。
敵の一斉攻撃をどのように対処するかが今後の課題になります」
俺は、バッグの中から1枚の図面を取り出した。
パレトよりも大型のカートリッジを使う特殊な銃だ。カートリッジの爆発に対処するため太くそして重くなっているから人が持つことは出来ない。バリスタのように車をつけて移動することになる。
そして、弾丸も新たな工夫をする。爆裂球を木の筒に入れてその中に鉄屑を詰め込むのだ。
殺傷力は格段に上がる。それは、こっきょうを越えようとする敵兵の削減に繋がる筈だ。
「これを作るのか? 連合王国に頼まずに我等で作ると……」
「出来るのか?」
アルトスさんがマイデルさんの横顔をうかがう。
「出来なくはない。前に作った物が大きくなるだけじゃ。だが、これは戦を変えるぞ!」
「たぶん、連合王国が封印しているという大砲はこれと似たものでしょう。原理は少し異なるかも知れませんし、弾の構造も違うでしょう。ですが、かつて似た物を作って戦をした事は間違いないと思います」
望遠鏡、そして通信機。それを容易に兵士が扱えるということは観測射撃を行うことが前提の武器があったと考えられる。
飛距離が数kmはあるんじゃないかな。
だが、俺達にはそんな観測射撃を行なうような軍隊を早急に育てる事は出来ない。飛距離300から500m程であれば見張り台で観測しながら攻撃が可能だ。
敵が安全圏から突撃して到達点に至る時間が長ければ長いほど戦は俺達に有利となる。
「単なる爆裂球ではいかんのか?」
「爆裂球の炸裂で鉄屑を周囲に飛ばします。散弾を至近距離から受けるような感じですから、人道的には問題があるんですが……」
「レムナム相手に人道は考えずとも良いわ!」
マンデルさんが何時に無く興奮してる。何かあったんだろうか?
「奴等、ネコ族をなぶり殺しにしておった。老若男女構わずにな。虫唾が走る連中じゃよ」
「なら、その報いを受けるまでだ」
アルトスさんの言葉は静かだが、かなり怒ってるぞ。最後方は言葉が震えていたからな。
「だが、数を作るとなれば、やはり連合王国に仕事を回すことになる。ワシに任せておけ。部品を何個かに分断して商会とブラザーフォーに発注する。組み立てはワシがやろう」
「なん台作るのだ?」
「そうですね。最低でも30台。出来れば50台といったところでしょうか」
「了解じゃ。ルミナス達を借りるぞ。試射や移動をやらせてみる。」
「良いだろう。その報酬は軍から出そう」
こうして、マイデルさん達が、新型のグレネードランチャーを開発してくれることになった。
だが、依然として兵力の差はあるのだ。
場合によっては、銃を持てるもの全てを動員しなければなるまい。
動員計画についても、アルトスさんに話しておこう。
正規軍の振り分け。屯田兵の戦線投入。そしてハンター部隊。ここまでがある意味表の軍隊だな。
総動員体制は北の守りが破られたら直ぐにでも発令せざる得ないだろう。洞窟村の住人を総動員すれば2千人程度を動員することは出来る。
敵は多くても4個大隊を越える事はない筈だ。我等の軍を破ったとしても無傷ではない筈だから精々1個大隊。十分に勝算はある。
「アルトスさん……。やはり、今回は総動員計画を立てておいた方が良さそうです」
「国を大きくしすぎたか。兵力を分散することになるからな……。そこまで考えているなら、後は長老に任せよう。洞窟村から町に移っている筈だ。
町には数千人が移り住んでいる。若い連中や新たな移民がすんでいるから彼等を動員すれば2千にはなるだろう。守るべきは洞窟村だが、あそこは少人数で十分だ」
俺はアルトスさんを地図を載せたテーブルに案内した。
地図に乗せられた駒を指差す。
「この状況で、レムナム王国は俺達に牙を向けます。俺だったら3年は戦を止めますよ。旧ガリム王国の版図は未だに旧家臣達が暗躍しています。その援助はサンドミナスがこの西部に作った拠点に行なっています。
海上は、両軍がにらみ合いの状態。パリム湖の南ですら、ボルテム王都を砦化して守りを固めています。
どう考えても、先を急ぎ過ぎてます。
まるで、期間を定めてエイダス島統一に動いているような気がしてなりません。
レムナム国王がどんな人物か……アルトスさんが知っていることを教えてください」
「病弱という話は聞いておらん。そして、2度レムナム国王と会ったことがあるが、中肉中背のどこにでもいるような男に見えたぞ」
「宿病を患っているようには見えなかったという事ですね」
アルトスさんがゆっくりと頷いた。
たぶんその時の状況を思い浮かべているのだろう。
だが、健康上の憂いが無いとすれば先を急ぐ理由が分からん。
何かあるはずなんだが……。
「そういえば、まだパラム王国が栄えていた時代に、一度5カ国の王達がパラム王都に集まった時があった。
その時に、レムナム国王が連邦制を取らないかと提案したと国王が言っていたな。
まだ5カ国の関係が上手くいっていた時代ではあるが、提案の理由をレムナム国王は明かさなかったそうだ。連合王国の噂を聞いてそんな話をしたのだろうと我が国王は言っていたが、あるいはその当時から野心を持っていたのかも知れんな」
その話は初耳だな。
少し考えてみる必要がありそうだ。
夕食前にアルトスさんは別荘から帰って行った。
王都の再建を手掛けているから大変だな。エクレムさんは南の砦周辺で守備兵をつかって開墾をしているらしい。
どっちが楽かで言い争っているらしいが、どっちもどっちだと俺は思うな。
どちらも、国力を上げるためには必要な仕事に違いない。
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夕食が終ると、エルちゃん達はアイネさんや通信兵の子供達と一緒にちいさなテーブルを占拠してスゴロクを始めたようだ。
連合王国のアルトさんが、最新のスゴロクをお土産において行ってくれたらしく、この頃は毎夜のように皆で遊んでいる。
連合王国では結構沢山の種類があるらしく、カタログには何ページにも渡って商品が載せられていた。
残念ながら、今遊んでいる連中は全て女性だから仲間に入れて貰うわけにもいかず、1人で情報端末を使ってエイダス島の状況を確認しながら駒の微調整を行なっている。
ん!……こんな山頂に何を作ろうとしているんだ?
レムナム王国の王都はボルテナン山脈の3番目に高い山であるレベル山の東の山裾にある。
その標高2千m程のレベル山の山頂近くで作業している者達がいる。
見張り所にしてはちょっとおかしな場所だな。あれではエイダス島の状況監視ではなく、海上の監視になるぞ。
何故、そんな場所に監視場所を作る必要があるのだろう?
現在、エイダス島は戦の最中だ。
その状況を考慮した上でも全く別な監視をする必要性が思い浮かばん。
レムナム国王は手段を選ばずにエイダス島を統一することを目論んでいる。しかもその勢いは自国の疲弊すら考慮に入れていない。
そして、新たな全くエイダス島の戦考慮しない監視所の設置……。
まさかとは思うが、レムナム国王は海の向うの出来事を知っているんじゃないだろうな。
だが、そう考えると合点がいく。
かつての連邦制に関する発言。急ぎすぎる島の統一。そして西より攻めてくる者達に対する備え……。
全て、上手く当てはまるぞ。
どんな情報を知っているのか分らないが、幾らなんでもやり方が酷すぎる。
パラム王国、ボルテム王国、そしてガリム王国の滅亡が短時間で起こっているところを見ると、かなり積極的に行動していることになる。
と言う事は、レムナム国王には悪魔の軍団がかなり近いうちにエイダスにやってくると考えていることなるな。
ユングさんは北米、南米ともに奴等の手に落ちたと言っていた。
この大地を統一するなら次はユーラシア大陸になるはずだ。
その進軍ルートは2つ。ベーリング海峡を渡るルートと大西洋を横断するルートの2つになる。
大洋には恐ろしいのがいるとユングさんが言うからにはとんでもない奴がいるんだろう。大西洋ルートは北海を廻るように進むに違いない。だとすれば、エイダス島が直接脅威に晒されないように思えるが、ユングさんは前進基地として使用される可能性を指摘していた。
情報端末で悪魔達の軍勢を見てみるか。
興味がなかったから見る事も無かったが、それ程巨大な軍勢と言うのも一度見ておきたいものだ。
北米大陸の北を見ると、直ぐに都市を見付けることが出来た。
針葉樹林の中にポッカリと木々が伐採されて都市がある。その都市から大西洋に向かって道が延び、その先に大きな造船所がある。
港ではなく造船所で出来上がった船に直接大勢の人間が乗り込んでいる。
一度に200人以上運べそうだな。
そして、出航した船は北の氷河沿いに東へと向かっている。まだユーラシア大陸まではその侵略が及んでいないようだ。
途中にある大きな島に寄港してその島に前進基地を作っているようにも見える。
ざっと、見た感じではその島の人口は20万人以上。全てが兵士なのだろう。
その島からユーラシア大陸まで距離はどう考えても1千km以上はある。
大洋に潜む化け物が俺達を守ってくれているのかも知れないが、大船団でやってきたなら何割りかの部隊がこちらにやってくることになる。
たぶんこの部隊の先遣隊と遭遇したのかもしれないな。
自分達と全く相容れない存在に出くわせて、その実力を知ったのかもしれない。
少なくとも俺の寿命は後100年以上はあるんだろう。そうなると、この侵略軍と俺達が戦うことになりそうだ。




