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N-135 漁業の始まり


 あっという間に俺達の王国に産業が1つ出来てしまった。

 それはパリム湖の漁業なんだが、沿岸警備を専門に行なう2小隊が兼業で漁業を行なっている。

 連合王国からの船は双胴船だ。オールを使わずに足踏み式のスクリューで進む。1船に11人が乗り、スクリューは6人で担当する。4人が交替要員で、分隊長が舵を担当する。

 3艘の船で岸から100m程のところを周回しながらトローリングをしているようだ。1回出掛けると数匹の獲物を持ち帰ってくる。

 そして、船に乗らない1分隊は岸辺から糸を垂れて魚を釣っている。

 毎日の水揚げは微々たるものだが、順番に部隊に支給されるから、皆が喜んでいるぞ。


 そんな俺達の為に、ユングさんが別荘を建てろと湖に突き出した半島のような土地を造成してくれた。横幅50mで湖に100mも突き出している。

 王都は現在工事中だから、その造成地に馬車を止めて俺達は暮らしていた。

 魚の回遊ルートが大きく変化するから、造成地の突端では大型の魚が狙えるぞ。

 さらに、安全の為だと、アルトスさんが造成地の周囲に船や人の出入を激しく制限しているから、此処で釣りをするのは数人に限られている。

 

 おかげで、毎日のようにレインボウが焼き魚として食卓に上がるんだけど、流石に俺は飽きてきたな。

 それでも、ネコ族の人達はその都度目を輝かせているんだから凄いと思う。

 

 「アイネさん。俺達ばかり食べていないで、多くの兵士達に分けてあげましょうよ」

 「そうにゃ……。忘れてたにゃ。明日からは3日おきにするにゃ」


 アイネさんにしてはだいぶ譲歩したな。

 それぐらいなら、役得で済まされるだろう。今は3人で釣りをしているようだが、皆に分配する時は俺も加われば更に魚の量が増えるだろう。


 そんなある日、アルトさん達が訪ねてきた。

 天幕用の布を屋根代わりにした仮設指揮所のテーブルに着くと、直ぐに話を切り出してきた。


 「数日で、新しい結界の材料が届く。それを始動させれば、とりあえずは王都の中は安心じゃろう。王宮の方も目途が立った。内装はレムルの方で何とかせねばなるまい。

 そして、民家の方は我等は手出しをせぬ。レムル達で頑張るが良い。見張り所は出来たようじゃ。少し良い望遠鏡を置いておいたから、晴れた日には対岸まで見えるじゃろう。

 我等は、部隊を縮小する。そして、結界の完成と同時に引き上げる所存じゃ」


 「長い間、ありがとうございました」

 「礼は良い。タダの退屈凌ぎじゃ。じゃが、油断する出ないぞ。まだまだ弱小国家じゃ。国力も他国と比べ物にならん。移民で少しは増えるじゃろうが、産業基盤が魔石のみじゃからな。あまり急ぐ出ないぞ」


 耳痛い言葉だな。俺達の現状を良く理解しているようだ。


 「たぶん3年ほどは我等を狙うことはないと思っています。レムナムとサンドミナスは内海を隔てて長い海岸線を持っていますからね」

 「そうじゃな。その間は他国からの間者に注意すれば良かろう。我としては王都よりもこの半島を勧めるぞ」


 そう言って席を立つ。

 だいぶ助けて貰ったからな。

 どうお礼を言えばいいのか判らなかったが、どうやら勝手に帰ってしまいそうだ。

 

 そうなると、いよいよ国作りを本格的に始める必要が出て来たという事になる。

 王都があって、港がある。洞窟の村に、北の屯田兵の村。そして、前の南の柵付近に新しく作る宿場村。これをどのように運営していくかだろうな。


 屯田兵の村も少し人員を増やしたい。出来れば2千人は欲しい所だ。何と言っても北の守りだからな。産業は牧畜だろうな。少しは畑が出来そうだが、村で消費してしまうだろう。

 港は貿易の拠点だ。それ自体が産業になる。

 港に近い町は、ある程度解放する必要があるだろう。遺跡の迷宮を利用することで、ハンターを集め、その税で町を維持することになるだろう。

 余った税は農業の振興に使えば良い。そこから新しく作る宿場町までは穀倉地帯として発展させる必要がある。

 王都にはネコ族を主体に住ませれば良いだろう。2つの迷宮があるのだから、ネコ族のハンターが大いに国庫を富ませてくれるに違いない。

 そして、その税を使って森の回復を図れば良いだろう。


 しばらくは、大きな戦をしないですむことから、軍縮を図るのも手だな。

 その余剰人員を屯田兵として活用すれば農業の振興を図れると共にイザという時の補充兵として役立つに違いない。

               ◇

               ◇

               ◇


 乾燥野菜中心のスープに平たい黒パンとハムが今夜の夕食だ。

 それにカップ半分のワインが付いていた。

 食事のたびに、俺達の国が偏っていることを実感するな。


 「どうした。不味いのか?」

 

 俺の態度を不審に思ったのだろう。アルトスさんが聞いてきた。


 「いや、そうではなくて、この食事の材料全てが魔石と引き換えられたものだと思って……」

 「確かにな。だが、それは昔からのことだ。それに、これから少しずつ変えていけば良いだろう。北の集落では、ハムを作り始めたと聞くぞ。それに、移民の中には農家の次男達も多いと聞く。連合王国とて、幾らでも農地があるとは思えん。移民達の半分は農地を得られぬ者達らしい」


 それは耳寄りな話だ。

 そんな者達が数百人集まれば、大掛かりな農業が行なえる。

 そして、開墾を待っている土地は幾らでもあるのだ。


 「後数日で、アルトさん達ハンターは引き上げるでしょう。ユングさん達の戦闘工兵もそろそろ作ってもらうものは終わりになります」

 「その件だが、最後にこの場所に小さな別荘を作ってくれるそうだ。石造りなら、敵の間者もおいそれとは手を出せまい。明日から10日程は東の見張り所辺りでのんびりしてくれ。なんなら、漁業を手伝ってくれても良いぞ。幾ら獲っても足りないくらいだ」


 まぁ、東の見張り所が臨時の漁港のようになっているのは聞いているけど、聞いてる限りでは乱獲に近い気がするぞ。

 ちょっと、様子を見ておく必要があるな。

               ◇

               ◇

               ◇


 次の日の朝。

 朝食を終えた俺達は、10台程の馬車をガルパスに引かせて、東の見張り所に移動した。

 魚の水揚げ場所だから、全員がにこにこ顔だ。エルちゃんまでも嬉しそうなのは一国の女王としてどうかと思うぞ。

 湖に沿った道路は整備中だから、結構凸凹している。

 現在は簡単に土を敷いているだけだが、将来的には砂利道か、石畳にする必要がありそうだ。

 インフラ整備は大事だからな。その辺のことも今後は考えねばなるまい。


 それでも、20km程の道を数時間かけて東の見張り所に着くことが出来た。

 まだ、日暮には程遠い時間だから監視船という名の漁船は全て出払っているようだ。

 2小隊が駐屯しているから総勢80人を越す見張り所なのだが、常時駐屯しているのは1小隊。後の1小隊が漁業なんだよな……。


 先行したオリザさんが馬車を見張り所の広場に誘導すると早速、天幕を馬車に張り巡らしてテーブルを取り出す。

 

 俺は、エルちゃん達を連れて、見張り所の塔の屋上へと案内して貰った。

 確かに2階までは窓が無い建物だが、それは襲撃を考慮してのことだろう。3階には四方に窓があるし、屋上は1m程の低い壁が周囲に廻らされて、鉄砲狭間も作られている。

 そして、そこからの眺めは絶景だった。

 まるで海のようにも見えるが、波が無いから湖なんだよな。微妙に湖面に浮かぶグラジェーションが見ていて飽きないぞ。

 そんな中に3艘の船がゆっくりと進んでいる。あれが監視船なんだろう。

 岸辺を見ると……。いるいる、数人が竿を握っている。見てる間に2匹程釣り上げたところを見ると、かなり魚影は濃いようだ。


 左をユングさんに貰った双眼鏡で見ると、遠くに見張り所が見える。

 右は湖から少し下がっているが、あれは俺達の別荘が湖に張り出してるから、それを考えてのことらしいが、防衛の方が大事じゃないのかな?

 確かに、周囲に何も無いのは気持ちが良いけどね。


 下に降りて行くと、小隊長が俺達を待っていた。

 早速、船着場を案内して貰う。

 船着場は見張り所に隣接した場所で50m程の広場と、湖に突き出た20m程の桟橋3つで構成されていた。

 片隅には木造の長屋が2つあり、船の修理が出来るように、長屋まで湖から斜路が延びている。


 10個程の大きな樽が準備されているところをみると、これに入れてあちこちの部隊に届けるに違いない。


 「もうすぐ、大賑わいですよ。いろんな部隊から荷車がやってきます。アルトス殿が分配する順番を決めてくれたから良かったものの、戦で怪我をせずにこの分配で怪我をする羽目になりそうだったんです」

 「それは災難だったね。でも、岸からなら少しは釣れるだろう。残りの見張り所にも釣竿を届けるから、もう少し我慢してくれ」


 我慢だなんて……。そんな呟きを小隊長は漏らしていたが、彼も嬉しかったに違いない。この湖の魚を再び食べられるというのは、新パラム王国の建国を現実として受止められる手段だからな。少しでも多くの者に味わって貰いたいというのが彼の本心に違いない。


 仮設指揮所に戻ると、警備隊長を誘って見張り所の岸壁で釣りを始めることにした。

 当初危惧した乱獲はしばらく考えなくても良さそうだ。

 此処は1匹でも多くの魚を部隊に届けるのが現状の俺達の最上の仕事に思える。


 夕方近くになって2人の釣果を桶に入れて運んで行くと、同じように桶を運んで来た釣り人が沢山いる。彼等に桶を渡して帰ろうとすると、小隊長に呼び止められた。


 「これは、お持ち帰り下さい。レムル殿の部隊も大勢おられるのですから」

 「そうだけど、毎日は良く無いよ。皆が魚好きなんだからね。俺達は3日に1度って決めてるんだ。昨日がその日だったから、今日と明日は提供するさ。明後日はダメだけどね」


 俺の言葉に頭を下げてくれた。

 それでも、俺達は恵まれてるに違いない。小隊長の部下達は、沢山釣っても滅多に食べられないんだからね。

 

 夕食を取りながら、その辺のことをエルちゃん達と相談してみた。


 「もう1つ竿を作って3人で釣ってはどうでしょうか?私達が食べる時は、半分を小隊に分けてあげましょう。私達は皆から比べれば恵まれすぎてます」

 「仕方ないにゃ。私も手伝うにゃ」


 確かに、大勢で釣るなら釣果は期待できる。

 でも、アイネさんに釣りが出来るのだろうか?

 釣りは気が短い人に向いている趣味だとは聞いた事があるけど……アイネさんにもそれが当てはまるかどうかは疑問だよな。


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