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N-126 セレモニー


 そして、エルちゃんの16歳の誕生日がやってきた。

 それは、新パラム王国建国の日でもある。

 対外的には、建国式典を行うとだけ書状を送ったそうだから、個人的な祝いの品は表立ってはどの国も準備していないし、こっちだって期待はしていない。

 そんな祝典は国が軌道に乗ってからにしようとエルちゃんだって言ってくれた。

 まぁ、後で内輪で祝えば良いと思う。


 謁見の間に配置された、コの字型のテーブルの列に、長老の世話役が読み上げる名前と共に招待客が入ってくる。

 俺達は最後の登場だから、左側の扉に設えたカーテンの陰に隠れてそんな人々を眺める事にした。

 俺はハンターらしい革の上下だが、エルちゃんは白いドレス姿だ。見つからないように俺を台にして身を乗り出している。

 

 席順は入口扉に近い場所から埋まっている。

 アルトスさんやエクレムさんも軍を率いる将軍として参列する。

 そして、いよいよ他国からの参列者だ。


 連合王国は、ブラザーズフォーの代表者、商会の代表者、そして連合王国の王族代表として現れたのはアルトさんだった。

 実際には元王族で現在は明人さんの妻の一人になるんだろうから王位継承権は存在しない筈だ。だけど王族であることは確かだから丁度いいのかな。

 だけど……衣装が問題だ。

 最初入って来たときは、動く五月人形だと思ったくらいだからな。

 大鎧なんだろうけど、威圧感が半端じゃない。アルトスさん達も引いて見てるぞ。


 レムナム王国は王子がやってきたが、どうやら末っ子らしい。

 サンドミナス王国は軍の将軍だった。貴族ではあるらしいがその順位は10位以下の中流貴族らしい。

 どちらも軍装ではあるが革鎧に鎖を内張りしたような形のものだ。アルトさんを見て目を見開いている。


 3カ国の顔ぶれは表立ってはそれ程の差異はない。

 どうでもいいことだが、これを機会に属国化を図れればといった感じに見えなくもない。

 正に、思った通りの連中が集まったと思えるな。


 テーブルの前の主人の後ろに控えるような形で従者が勢揃いしたところで長老が現れた。

 何時も座っているから動けないんじゃないかと思っていたが、ちゃんと歩けるようだ。


 そして、いよいよ俺達の出番だな。

 通路の奥の扉に移動して、指名を待つ。


 「パラム王家エルミア姫」

 

 若者の通る声が聞こえて、俺とエルちゃんが奥の席に着いた。

 俺が少し離れて隣の席に着いたのをレムナムとサンドミナスの代表が怪訝そうに見ている。


 大勢の次女が俺達の前にガラスのカップを用意してそれにワインを注いで行く。ガラス製品は始めて見たが、まだ、薄く仕上げるまでには至っていないようだ。晴れの場の器としてようやく使われ始めたようだな。


 進行役の若者が、手元の式次第を確認しながら声を張り上げる。


 「エルミア王女様より、建国の宣言が行われます」


 静かにエルちゃんが椅子から立ちあがる。

アイネさんがゆっくりと歩いてきてエルちゃんに折った書状をうやうやしく手渡した。


「エイダス暦458年火の2番月26日。本日、新パラム王国の建国を宣言します!」


 元々は5枚位の文章だったんだ。しのびがたきをしのび……耐えがたきを耐え……なんて調子で続く力作だったんだが、長老達のクレームで単純になってしまった。「誰もが知っていることを書かんでもよい」って言ってたけど、このばで、単純な一言がどれだけ重いか良くわかった。


 エルちゃんの言葉に来客以外は皆俯いている。

 それだけ今日を待っていたんだろうな。


 「御列席の各王国から、建国の祝賀が行われます……」


 たんたんと式典が消化されていく。

 単なるセレモニーだから、第3者を前にして行ったという実績が大事なのだ。

 

 そして、アルトスさんの音頭で乾杯が行われる。

 後は、料理が運ばれて会席となるのだ。

 あまり豪華とは言えない食事が終ろうとした時、レムナムの王子が立ち上がった。

 

 「新王国建国は父王に伝える所存ですが、領民の暮らしを考えるならば我が国の庇護の下時事国家として国土の開発を行うのも政策の1つと思いますが……。王女に合ってはお若いことですし、我が国との縁を持つことも可能と考える次第」

 

 レムナム王国の王子の言葉が終ると同時に、サンドミナス王国の将軍が立ち上がって俺達を睨みつける。


 「それよりも、茶番ではないか?……我がサンドミナスは強大な国家である。ここにもう1つ書状を用意した。サンドミナス王国からの武装解除の通達だ」


 こっちは直接的だな。少しはレムナムを見習うべきだ。

 とは言え、これで状況が整ったとみるべきだ。

 扉近くにいる世話役の若者に向かって小さく頷いた。


 「新パラム王国エルミア王女の婚約者にして、新パラム王国参謀長レムル殿より重大な報告があります」


 何時の間にか肩書きが変わったけど、対外的なものだろう。やることは同じだと長老達が保証してくれたからな。


 ヨイショっと立ち上がる。ワインで少し酔っているようだ。

 やはり、カップ半分がいいところなんだろうな。


 「レムルだ。今日の晴れの日にお集まりの諸君に、この日を更に印象付けようと思う。

 それは、魔物に支配された旧パラム王都の奪回だ!」


 ウオォーーーー!!

 部屋中に歓声が上がったが、アルトさんは聞き流しているようだな。レムナムとサンドミナスの客人は呆気にとられた顔をしている。


 「既に進軍の準備が整っている。先方は俺の先程の言葉で作戦を開始している筈だ。我等も、早々にこの仮宮を発ち魔物討伐の軍に加わる事にする。

 だが、我等が全て進軍した場合には、我が国の重要な産業である魔石の採取が出来なくなる。それについては、連合王国のギルドに依頼を出した。

 税率5割で魔石を取り放題。ただし、黒3つ以上のハンターに限るという条件だ。

 これで、心置きなく王都の奪回を行えるぞ!」


 再び歓声が部屋に充満する。

 そして、2カ国の客人は顔を赤くして俺を睨んでいるぞ。


 「それは、レムナム王国に対する宣戦布告でしょうか?……現在、あの地方は我が王国が治めている筈ですぞ!」

 「いや、そもそもパラム王国を滅ぼしたのはボルテム王国。その遺産である旧パラム王都は我が国に亡命しているボルテム王妃の財産であると考えるがいかに!」


 「我が失った版図を取り戻すに、自国の領土と言いはるのか? それこそ、論外。

パラム王都の正当な持主がいる以上、その者に属すると俺は思うが……レムナム王国とサンドミナス王国はそれを認めんと俺には聞こえたが?」


「その通り、耳は悪く無さそうだな。おとなしく我等が軍門に下り1地方都市として自冶を行うのが得策ではないのか?」

 「なるほど、理解した。レムナム王都並びにサンドミナス王都を攻略した暁には、それが我等に属するとお二方は言葉で表しましたな!」


 「そう聞こえたが、違うのか?」


 アルトさんがつまらなそうに呟いた。


 「これは連合王国に関わりが無い事。無用なお口は挟まれますな!」

 

 アルトさんを睨み付け、強い口調でサンドミナスの将軍が言った。


 「ほう……。別に我が連合王国は他国への干渉はせぬぞ。そう聞こえたと、連合王国を代表して言っておるだけじゃ。それとも、サンドミナスは正当な後継者としてパラム王族を認めないと、我に言うておるのか?」

 「滅亡した国であれば、現在の持ち主で判断すべきかと……」


 「改めて問う。どの国が滅亡したのじゃ?」

 「それは……」


 将軍が口ごもり、席に腰を下ろす。赤い顔が青くなってるぞ。

 そして再びレムナムの王子が話を始める。

 

 「現在、あの地には我が軍が駐屯しておりますが?」

 「我らは我等が版図より魔物を駆逐するのが目的。別に協力はお願いしませんが?」


 「もし、我等の軍に発砲するようなら、我等としても行動を起こさねばなりませぬ」

 「我が版図におられれば攻撃されても仕方がないでしょうな。それは侵略軍として対応するのみです。もしも、我が軍がレムナムの領土に駐屯したらレムナム軍はどうしますか?……そういうことだと考えてください」

 

 「我が軍との交戦も辞さないと!」

 「別にどうでもいい事でしょう? 我が版図から魔物を駆逐するだけですよ。何故に我が版図に他国が軍を派遣するのですか? ひょっとして、我が国を侵略する考えをレムナム軍はお持ちなのですか?」


 「茶番だ。お前らに我が国軍が負ける筈がない。簡単に落ちてしまうだろう。反乱軍の扇動者は火炙りだぞ!」

 「そういえば簡単に追い返された盗賊の一軍が昨年ありましたね。魔物狩りと一緒に盗賊狩りも行わねばならないとは、中々に今年は大変です」


 「我が軍を盗賊呼ばわりするのか?」

 「いいえ、先般徒党を組んで我が村を襲おうとした盗賊ですよ。ひょっとしてあれはサンドミナス軍だったのですか?」


 「しらじらしい……」

 「まぁ、そんな訳で我等の進軍については先程の通りです。はっきり言いますよ。魔物を駆逐してパラム王都を取り戻す。もし、これを阻むものがあれば我等が全力をもって対処することになります」

 

 「これにて、新パラム王国の建国式典を終了します!」


 頃合をアルトスさんに合図されたのか、若者が式典の終了を告げる。

 エルちゃんが立ち上がると、皆に頭を下げて王族の間に引け上げようと歩き始めた時だ。

 突然レムナムの従者が抜刀すると、エルちゃん目掛けてかけ寄って来る。

 俺が慌ててエルちゃんを庇おうとしたとき、弾かれたように俺の目の前でバタリと倒れた。背中には曲った金属片が突き刺さっている。


 ゆっくりとアルトさんが近寄ってきてその背中から金属片を抜取るとブンっと振って血を飛ばしている。


 「無粋な従者じゃのう……。主の資質が問われるぞ。まぁ、突然狂う輩もおる。お主も、剣を抜き掛けておるという事は、我がせずとも良かったやも知れぬがの」


 王子がわなわなと体を震わせている。


 「とっさのことで遅れを取りました。感謝します。……ですが! モスレムの姫様にあっては、他国の謁見の間で抜刀いたしたこと、どのように責任をお取りするおつもりでしょうか?」

 

 呆れてものも言えん。自らも抜刀し掛けているくせに……。


 「我のことか?抜刀などしておらずぞ。これはただの金属片。何処にも刃などついておらぬ」


 そう言って、王子の前にポンっと投出した。

 床にカチャンっと音を立てて転がる。


 あれって、ブーメランだよな。

 確かに刃は無いけど、背中に突き刺さったって事は余程の力で投げられたに違いない。


 「レムナム王国は絶対に退かんぞ。みておれ!」


 不意に顔を上げるなりそう言うと、走り去るように部屋を出て行った。


 「フン!碌な部下を持たぬな。だがそれはサンドミナスも同じこと。迷宮は渡さぬぞ!」

 

 将軍も、大声で言い放つと同じように部屋を出て行った。


 アルトスさんは笑いを堪えて苦しそうだ。

 そして、遂に大声で笑い出した。

 その声に皆が釣られて笑い出す。


 これで、セレモニーは終わりだ。

 敵が動くぞ。


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