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N-012 鈴を鳴らしてソリが来た

 吹雪が過ぎて良い天気が続いている。

 ガトルの群れは、あれ以来目撃する事は無かった。

 昼間はお日様も見えるが、雪が融けるという事はない。そして夜は深々と冷える。


 雪の表面が硬く締まってきたから、俺とルミナスは雪レイムの罠を森の近くに仕掛けに出掛けた。


 「こんな近くで獲れるのか?」

 「そんなうさん臭い目で俺を見るなよ。ほら、雪レイムの足跡があるだろ。意外と、盲点みたいだぞ」


 確かに小さな足跡が続いている。

 それでも小屋から200m位しか離れていないぞ。果たして掛かるのかな?


 「よし、これで良い。次に行くぞ!」


 俺を振り返るとそう告げて、ルミナスはもう次の場所に向かって歩き始めた。

 俺の作ったスノーシューはそれなりに役に立っている。

 たぶん50cmを越える積雪なんだろうが、俺達の足は20cmも潜らない。

 そんなことを考えながら、細い竹竿で作ったストックを使って急いでルミナスを追いかけた。

 

 10箇所に罠を仕掛けたが、一番離れた場所でも小屋から精々300m位だ。これで獲れるなら苦労はしないと思うな。


 「終ったぞ。明日が楽しみだな」

 

 そう言って嬉しそうに俺を見て微笑む。


 「あぁ、朝早く来ようぜ。森の中でも結構眩しい。あまり長くいると目をやられるぞ」

 「そうだな。戻って温まろうぜ。結構体が冷えてきた」


 俺達が小屋に戻ろうとスノーシューの向きを変えようとした時……。

 遠くで銃声が聞こえた。

 俺達は互いに顔を見合わせる。


 「あっちだよな?」

 「あぁ、そして結構遠いぞ」

 「そして、次の銃声が無い」


 ルミナスがそう言った時、またしても銃声が聞こえてきた。

 カートリッジを詰めるのに時間を掛けている。どうやら銃の初心者みたいだな。俺も似たような時間を要するのかもしれない。全員が銃持ちだとこんな時には心強いな。


 「戻るぞ!」

 ルミナスの声に頷くと、俺達は小屋へと足を速めた。

 

 小屋の入口に近付くと扉が開く。

 サンディが銃を持って俺達を手招きしている。急げっていうことだな。

 

 俺達が小屋に入ると、サンディはピシャリと扉を閉めて、横に太い棒を2本も渡している。

 炉の傍に座り込むとリムちゃんがお茶のカップを渡してくれた。


 「さっき、銃声が聞こえたけど……」

 「知ってる。どうやら西の方角だ。そして結構離れている」


 「やはりガトルなの?」

 「ちょっと違うかもしれないと話してたのよ。2発目がだいぶ後になってからでしょ。幾ら1人でもそんなにカートリッジを詰めるのに時間を掛けないわ。あれは慎重に狙いを定めて撃ったのよ」


 初心者だと思ったけど、実は玄人ってことになるのかな。

 でも、慎重に狙いを付けなければならない相手ってのは何なんだ?


 「グラルってことか?」

 「その可能性が高いわ。上手く殺ってくれていればいいんだけど……。」


 「そのグラルっていう、……確か熊だったよな。そいつは銃では難しいのか?」

 「ちゃんと当ればね。グラルの急所は小さいの。目と耳それに鼻と口内。それ以外は分厚い、鋼のような毛皮が全て弾を止めてしまうわ」

 

 要するに、毛のない場所が急所ってことか? とんでもない奴だな。

 だとすると、俺のM29では至近距離でしか対応できないぞ。それこそゼロ距離射撃をするぐらいじゃないとな。


 「そんなに深刻にならなくてもいいぞ。皆で一斉に撃てば誰かの弾は当ると思う。何て言っても俺達には5丁の銃があるんだからな」

 「そうね。至近距離で撃てばいいのよ」


 ルミナスの言葉に少しは気分が明るくなるけど、最初で決めなければ次の攻撃までは俺のM29で対応しなければならなそうだ。

 上手く当ってくれればいいんだけどね。

               ◇

               ◇

               ◇


 そんな騒ぎがあってしばらく経った昼下がり、遠くから鈴の音が聞こえてくる。

 最初は自分の耳を疑ったが確かに鈴の音だ。


 「鈴の音が近付いて来るけど?」

 「あれは、ギルドのソリよ。サンディ、外にこの旗を出しておいて!」

 

 リスティナさんがバッグから赤と緑が上下に色分けされた布を取り出してサンディに渡すと、直ぐにサンディは小屋の外に出て行った。


 「あれは、売買をしたいっていう印だよ。小屋掛けして村の周辺に住むハンターは、俺達みたいに狩りをしてるんだ。その獲物を買ったり、俺達が必要な小物を売ってくれるのさ。一月に1回、この辺りを巡回してるんだ」


 怪訝そうな俺の顔を見てルミナスが教えてくれた。

 要するに、雑貨屋とギルドが移動してくるような感じだと思えばいいか。便利なシステムだな。

 え~と、俺が必要な物はとりあえず無いな。


 「エルちゃんは何か欲しい物がある?」

 「……特にないかな。でも、雪メガネがあれば欲しいよ」


 「そうね、雪メガネは必要だわ。全員分購入しておいた方が良いわね」

 「結構、晴れると眩しいからな。」


 サングラスみたいな物か? それなら俺も欲しいな。

 どんどん鈴の音が近付いてくる。

 俺達は革の上下を着込んでマントを着て外に出て待ち構える事にした。

 

 小屋の周囲は1m近く雪が積もっているが、その雪は硬く締まっている。スノーシューを履いていればそれ程潜らないから、数人でソリを曳いて小屋を回ってるんだろうな。


 「お兄ちゃん、見えてきたよ!」

 

 エルちゃんの指差す方に、大きな枝状の角を生やしたヤギ程の大きさの獣2匹にソリを曳かせた連中が見えた。


 「こっちだ!」

 

 ルミナスが大声を上げる。

 ソリは、こちらを目指してどんどん近付きやがて俺たちの前で停止した。


 「シルバインにアクトラスだな」

 「はい。代表のリスティナです」


 「ラディオスがやられた。一応役目なんで検分させてもらうぞ」

 「どうぞ。……ルミナス、案内してあげて」


 不自然な会話に俺とエルちゃんが首を傾げているとサンディが近寄ってきた。

 

 「村一番のハンターよ。レムナスさんって言うの。黒2つで私達より遥か上のハンターなの」

 「そんなハンターが何で?」


 「そりゃ、おめぇ達がちゃんと冬越しできるかを確かめるためさ。ところで、売る物と買う物はあるのか?」

 「売るのは、毛皮よ。今、案内してるルミナスが持ってるわ。そして、買いたい物は雪メガネなんだけど……。」


 「あぁ、持ってるぞ。数は全員分だな。冬の初めに品切れとは雑貨屋も先を見る目が無いよな。」

 

 そんな事を言いながらごそごそとソリに積んだ籠から雪メガネを取り出した。

 その雪メガネは竹を薄く削って中心にスリットを開けたものだ。確かエスキモーが似たような物を使っていた筈だ。

 それでも、十分に役に立つのだろう。でないと買う者はいないと思う。


 「外には無いのか?」

 「干した果物はあれば、半G(グル:1G=2kg)欲しいわ」

 「了解だ」


 「てっちゃん、ちょっと来てくれ!」

 

 小屋の入口から顔を出してルミナスが俺を呼んだ。

 何だろうと思いながらも小屋に向かう。

 

 「レムナスさんが聞きたいことがあると言っていた。説明してくれ」

 「あぁ、いいとも。毛皮の取引をしたいようだぞ。」

 「それは任せとけ」

 

 そんな言葉を交わして俺たちは入れ替わる。

 小屋に入ると、レムナスさんが炉の傍に腰を下ろしている。入口に近い場所が客用の場所だ。

 俺はレムナスさんの右手に腰を下ろした。


 「何か聞きたい事があると……。」

 「あぁ、この小屋を作ったのがお前だと聞いてな」

 

 「はい、昔このような小屋を本で読んだことがあるのでそれを参考にしました」

 「そうか。丈夫な小屋だ。このような枠組みを他の連中は作らない。両方から丸太を斜めに渡して中央で結ぶ。その上を草や、土で覆うのが一般的なんだ。広めても構わないか?」

 「どうぞ、何も問題はありません」

 「ラディオスもこんな形で小屋を作ればグラルにやられなかったろうに、……残念だ」


 そう言って拳で自分の膝を叩いている。

 意外と面倒見の良いハンターみたいだな。

 

 「さぁ、どうぞ入ってください」


 サンディが入口付近で誰かに話し掛けている。

 どうやら商談が成立したみたいだな。

 エルちゃん達が入ってくると、最後に4人の男達が入ってきた。


 「ほぉう、こりゃ立派なもんだ」


 そんな事を言っているハンター達に、サンディがお茶を勧めている。

 外は寒い。温かなお茶は何よりのご馳走だろう。


 「お前等もよく見ておけよ。この小屋と同じような小屋を作れるようにな」

 「わかった。しかし、これは凝った作りだぞ」


 「だからだ。ラディオスのような悲劇を起こしたくない」

 「確かにこれなら小屋を潰される事はないな」


 どうやらラディオスはグラルに小屋を潰されて、その後にグラルにやられたらしい。

 

 「だが、冬は長い。十分気を付けるんだぞ。ラディオスは青の4が3人もいた。残りの2人ももう直ぐ青だったんだ」


 お茶をありがとうと俺たちに礼を言ってレムナスさん達は小屋を出て行った。

 鈴の音が段々と遠ざかる。

 

 「ラディオスって人の名前じゃなかったんだ」

 「知らなかったのか? 結構有名なハンター達だぞ」


 そう言って、俺たちに雪メガネをルミナスが配ってくれた。

 

 「毛皮の値段は雪レイムが6匹で48L。ガトルが20Lだった。68Lだから、山分けで34Lでいいな?」

 「それは貰いすぎだ。みんなで山分けでいいんじゃないか?」

 「てっちゃんがそれでいいなら構わないが……。」


 残り3人が同意してくれたので、俺は26Lを受取った。

 そこから2人分の雪メガネの料金をルミナスに渡す。1個3Lと安いものだ。暇にまかせて作ってみようかな。

 そして20Lをエルちゃんに預けて毛皮の精算は終了した。干した杏のようなドライフルーツはリスティナさんに預けた食料費に含まれると言っていた。


 「でも、レムナスさんが褒めていたな。誰だこれを作ったのは? そう言って驚いてたぞ」

 「たぶん、来春には訪問者が結構現れると思うわ。それで冬を安心して過ごせるなら、皆は真似をする筈よ。私が小屋の作り方を知らなくて良かったと思うわ」


 リスティナさんが他のチームの小屋を良く見ていたら、きっとそれに似せて作った筈だ。知らない事が吉になることってあるんだな。


 パイプにタバコを詰めて外に出る。

 やはり、小屋の中ではちょっと吸いづらいな。3人が寝てるならいいんだけどね。

 ライターで火を点ける。

 やはり、このタバコは軽い味だな。


 パイプを咥えて、周囲を眺める。

 今日は曇っているから、それ程眩しく感じる事はない。真っ白な中に森の木々が墨絵のように浮かんでいる。

 そんな景色を眺めながら東を向いた時だ。

 何かが動いているのが見える。

 急いで、双眼鏡を取出しその姿を確かめる。


 熊だ。……大きさは3m近いだろう。こっちを見ているという事は、俺に気が付いたのか?

 急いで、パイプからタバコを落として小屋へと戻った。


 「ルミナス、ちょっと来てくれ!」


 俺の慌てた声に、ルミナスは急いで席を立った。


 「何だ?」

 「熊だ。種類が分からないから、確認してくれ」

 「いいぞ。何処だ?」


 俺はルミナスに熊の方向を腕を伸ばして指し示す。

 

 「グラムだ。……大きいぞ。こっちを見てるな。たぶん今夜来るだろう」

 「昼間は襲われないのか?」

 

 「昼にも襲う時はあるさ。だが、ジッとこちらを見てる。襲うなら少しずつ近寄って来る筈だ」


 俺達は小屋に入ると、グラムがいることを皆に告げる。


 「そう……。やはり、ルミナスの言う通りに夜に襲ってくるでしょうね」

 「結構でかいぞ。入口は今の内に横棒を入れて置く」


 「強装弾じゃなくても大丈夫だよね」

 「通常でいい筈よ。強装弾では狙いがブレるでしょ。急所が小さいから正確な狙いが必要なの」

 

 いよいよ大型獣の狩りになるのかな。それともラディオスのように狩られることになるのだろうか。

 心配そうにエルちゃんが俺を見ていた。そういえば、お姉さんは熊にやられたと言っていたな。トラウマになっていなければいいんだが。


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