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N-011 吹雪と銃声

 

 エルちゃんに起こされた時は外で風が鳴っていた。


 「ありがとう。どうやら吹雪きに鳴ったみたいだね」

 「日が暮れて急に雪が強くなってきたの。お姉ちゃん達が小屋が潰れないか心配してたよ」


 もぞもぞと毛布から体を出すと、エルちゃんがお茶のカップを差し出してくれた。

 ありがたく受取ると、炉に傍に座り込んでお茶を飲む。……苦いぞ。


 「だいぶ雪が強いわ。小屋の柱が軋むから気が気ではなかったのよ」

 「軋みは問題ないです。この小屋は蔓で木材を縛ってますからね。軋むほどにきつく結束する事になります」

 「なら、安心なんだけど。3人で心配してたのよ」


 リスティナさんは意外と心配性みたいだな。

 俺とルミナスが炉の傍に座ったところで、3人はそれぞれの寝床に潜り込んだ。


 「凄い暴風雪だ。これはたっぷりと積もるぞ」

 

 入口の扉の隙間から外を見ていたルミナスが両手を炉で温めながら呟いた。

 

 「小屋は大丈夫だろう。気になるのは通気だな。煙が小屋に残るようなら煙り出しの煙突の雪を掃わなければならないし、入口も埋まってしまったら掘らなければならないぞ」

 「煙はまだ大丈夫だな。入口は1D程雪が積もってる」


 煙突は屋根の両側に1m程突き出している。竹で作ったスノコを直径30cm位の太さに丸めた簡単な円筒だが、屋根に作った煙だしの竹の隙間を雪で塞がれてもいいように作ったものだ。

 煙突が埋まるには2m以上の雪が屋根に積もらねば塞がれ無いだろう。

 結構隙間がある小屋だが、雪はその隙間を埋めてしまう。一酸化炭素中毒になったら大変だからな。


 「煙突が詰まったら、そこにある棒で突付けば何とかなる」

 「それで、これがあるのか。てっきり野犬を叩くためだと思ってたぞ」


 それにはちょっと長すぎるぞ。だが、俺の槍と一緒に入口に置いてあるからそう見えたのだろう。


 2人で、お茶を飲みながらタバコを楽しむ。

 

 「これからどんどん寒くなるぞ。山の獣もそれで下りて来るんだ」

 「雪はどれ位積もるんだ?」

 「そうだな。俺の腰位かな。だけど多い年には身長を越える事もあるんだ」


 あまり参考にはならないが、雪国である事は確かなようだ。ロープで作ったブーツの外に付ける雪靴のようなものは購入したけど、雪が深いと潜ってしまう。簡単なスノーシューを作っておくか……。

 

 ルミナスは自分の銃を分解して掃除を始めた。

 やはり簡単なフリントロックに似た構造の銃だな。発火用の火薬を使わないですむ違いはあるけどね。

 そして俺は静かに竹を鋸で切り始める。

 

 「何を始めるんだ?」

 「雪が深いと靴が潜るだろ。それを防ぐ仕掛けさ。ルミナスの分も作るからそれが終ったら手伝ってくれ」

 「おもしろそうだな。ちょっと待っててくれ」


 ルミナスが急いで銃を組み立て始める。

 どうやら暇潰しに分解してたな。てっきり定期的に手入れが必要かと思ったぞ。


 2人で作業すると結構早いし、火の番のいい暇つぶしだ。

 エルちゃん達は編み物を頑張ってるけど、俺達が編み物をするのもちょっとね。

 

 「この竹の先を火で炙って曲げるんだな?」

 「折れないように頼むよ。その間に竹の中に入れる足場を作るから」


 俺が2人の足の大きさに合わせて太い木を半分に割って竹の中に入るように削っている時、ルミナスは神妙な顔をしながら竹を遠火で炙って少しずつ曲げている。

 そして、明け方近くに出来たものは竹スキーのようなスノーシューだ。スキー板と違うのはその裏に2本の短い木製の杭が出ていることだ。

 スキーは足が雪で潜らないように、杭は滑らないようにする為のものだが、これでも無いよりはマシな筈だ。


 「これを雪靴の下に付けるんだな。ホントに雪に潜らないのかな?」

 「少しは潜るけど深くは潜らないと思うよ。これでダメならもう少し竹を長くすればいいんだ」

 「試してみれば判るな。明日にでも試してみよう。今夜で結構積もった筈だ」


 何時の間にか吹雪は止んでいた。

 そして寒さが増してくる。

 急いで炉に薪を入れてのんびりとお茶とタバコを2人で楽しむ事にした。

 削り滓は炉に投げ入れておく。皆の生活する小屋だ、綺麗にしておくのがマナーだからね。

 

 煙り出しの竹格子が明るく見えてきた。どうやら朝になったらしい。

 ルミナスが扉の隙間を覗きに行った。やはり昨夜の吹雪が気になったようだ。


 「どうだ?」

 「だいぶ積もったな。入口は風下だから雪が少ないが北側は相当積もってるぞ。それにトイレもどうなったか、皆が起きたらちょっとみてこないとな」

 

 雪踏みをしなければならないかもしれないな。

 トイレの囲いは杭でしっかりと地面に打ち付けてあるから大丈夫だとは思うけど、屋根は吹き飛んでる可能性がある。

 今日は、色々とやることがありそうだ。


 しばらくして、3人が起き出したところで、俺とルミナスは雪靴を履いて外に出てみた。革の上下を着ていても寒さが身に凍みる。

 心配したトイレは無事なようだ。しっかりと蔦で屋根を縛っておいたのが良かったようだ。それでも、トイレまでの道を2人で固めなければならなかったし、入口は雪掻きをしなければならなかった。

 

 朝食を終えて、俺とルミナスは一眠りする。

 エルちゃんは、俺の眠る毛布の下の方で編み物を始めた。どうやらマフラーを作っているみたいだな。だいぶ長くなってきているぞ。


 ゆさゆさと体を揺すられて俺は目が覚めた。

 大きな欠伸をしながら炉の傍に行くと、エルちゃんが俺の耳元で状況を教えてくれた。

 

 どうやら、ガトルが現れたらしい。トイレの帰りにサンディが森の奥を西に向かうガトルの群れを目撃したようだ。

 入口の扉の隙間からリスティナさんが外を偵察している。

 サンディはルミナスを起こしているけど、中々起きないようだ。


 エルちゃんがお茶のカップを渡してくれる。

 それを飲みながらエルちゃんと一緒に、サンディとルミナスの様子を見守ることにした。

 中々起きないぞ。段々とサンディがヒートアップしてきている。

 そして、最後にルミナスの腹の上にドンっと足を踏み下ろした。


 グェって変な声がしたんで思わず俺とエルちゃんは顔を見合わせる。

 そして、イテテ……と言いながら、腹を押さえたルミナスが毛布を跳ね飛ばす。

 ようやく起きたな。俺よりも寝起きが悪そうだ。


 「あ~、酷い目にあった」


 そう言いながらお茶を飲んでるルミナスを、ジト目でサンディが見ているぞ。

 

 「まぁ、そう言うなよ。緊急事態と判断したようだぞ。外でサンディがガトルを見掛けたようだ」

 「この小屋の周りには寄って来てないようね。でも、相手がガトルだから今夜は少し心配だわ」


 リスティナさんが様子を見終えて、体を炉で温めている。


 「ちゃんと見たんだからね。森を西に向かってたわ」

 「だが、そっちは村の方だぞ。まさか村を襲うのか?」


 「村なら、ハンターが少なくとも30人はいる筈よ。心配はいらないわ。それより、この小屋の西には後数軒小屋がある筈。その人達が心配だわ」

 「やはり数人で暮らしてるんでしょうか?」


 「まちまちね。1人もいれば、チームで住んでる人達もいるし、もっと大きな小屋で2つのチームが暮す場合もあるし……。」


 その時、遠くから銃声が聞こえてきた。少し時を置いて更に数発の銃声が聞こえてくる。


 「4人が銃を持っているチームだな。次発装填が素早いな」

 「銃の取り扱いに慣れてるわね。だとすれば……、少なくとも白レベルで獣を狩っているハンター達だわ」


 「問題なさそうなんですか?」

 「そうでもないわ。2発目を撃ったということはそれだけ危機的だったということよ」

 

 「だが、3発目は無い。追い払うことができたんじゃないかな」

 「まさか、全滅ってことじゃないわよね」

 

 どちらでも3発目は撃てないな。

 そして、それを此処から確かめることはできない。うかうか近付いたらこっちの身も危なくなる。


 「こっちに来ないことを祈るしかなさそうね。てっちゃんが作った鳴子はまだ使えるの?」

 「朝見た限りじゃ使えるよ。蔦は2段に張ってあるから、1段目が雪で埋もれても2段目に触れば鳴子が鳴ると思う」


 「なら少しは外の様子が分かるわね。後は皆が持っている銃にカートリッジを入れておいて。2重に入れないように注意してね。でないと銃が破裂することもあるから」

 

 リスティナさんの言葉に俺たちは銃を取り出してカートリッジを挿入する棒をバレルに入れてその長さを確認する。カートリッジの長さは4cm程あるから、バレルに入った棒の長さでバレル内にカートリッジがあるかどうかが直ぐに判る。

 

 「大丈夫、ちゃんと入ってる」

 エルちゃんが俺に棒を此処までって指で位置を示しながら教えてくれた。

 俺の方もロアルのカートリッジを確認しておく。エルちゃんが撃てるように減装薬のカートリッジを入れてある。


 「いよいよこれが使えるな。一度に5発の弾を撃てるから期待できるぞ」


 ルミナスは嬉しそうだな。

 サンディも、バレルの長さが40cm程あるハンテを取り出して膝に置いている。

 

 少し風が出て来たようだ。森の木々がざわざわと音を立てている。

 今夜も吹雪くのだろうか?


 入口近くで俺とルミナスがタバコを吸っている時、木々のざわめきの中からはっきりと1発の銃声が聞こえてきた。


 慌てて、ルミナスが隙間から外を覗く。


 「こっちには来ないみたいだな」

 隙間から目を離しながらルミナスが呟いた。

 後を振り返ると、エルちゃん達が俺達2人を見ている。そんな3人に俺は首を振って安全だと知らせてあげた。


 「さっきよりは遠かったよな」

 「風で音が小さくなったんじゃないか?」


 そんな事を話しながら炉の傍に腰を下ろした。

 先ほどより2時間以上経っている。同じ場所に群れがいるなら、1発という事は無いだろう。同じように銃声が連続する筈だ。

 それが1発だということは、銃を持つハンターが1人だということだろう。

 

 1人暮らしのハンターか少人数で暮すハンターという事になるんだろうな。それでも次発が無いということは……無事だといいんだけれど。


 段々と風が強くなる。

 そんな中で、3人が夕食を作り始めた。俺とルミナスは銃を持って扉の隙間から外をうかがう。


 「やはり、吹雪になってきたな」

 「あぁ、だが昨夜よりはマシに思えるぞ」


 そんなたあいもない会話をすることができるのも、俺達がまだ余裕があるという事なのだろう。

 ちょっと気懸かりなのはガトルだけが山の獣では無いということだ。

 とはいえ、大型獣である熊ならこの季節なら冬眠の最中だろう。


 今日は何時もの乾燥野菜と干し肉のスープではなく、ジャガイモのスープだな。薄いナンのようなパンは俺とルミナスが寝ている間に焼いていたようだ。

 ちょっと食事に変化があるだけで嬉しくなるのは俺だけか?

 皆の顔を見てみるとそれなりに笑顔だな。やはり嬉しいという事だろう。


 食事が終って、乾燥させた杏のような木の実をお茶を飲みながら食べている時に、思いきって俺の懸念を聞いてみた。


 「冬季に山から下りてくる獣はガトルだけなんですか? もっと大型の獣は下りて来ないんでしょうか?」

 「グラルという熊がいるわ。グライザムよりは小型なんだけど、一番の違いは冬眠をしないことなの。だから冬には山から下りてくるのよ。力が強いと黒レベルのハンターから聞いたことがあるけど、どれ位強いかは分らないわ。大きさはガトルの3倍と言っていた」


 ガトルの大きさは前の世界で隣の家で飼っていた大型犬よりも大きかった。それの3倍という事は80から100kgということか?体高は人間よりも大きそうだな。 

 とはいえ、熊の仲間の中では小さいという事だから、ロアルでは無理でもM29なら何とかなりそうだ。威力は上げてあると書いてあったからな。


 「俺の持っている銃ですが、あれは熊狩りにも使える銃です。小型の熊であれば倒せるでしょう。もっとも、当ればの話ですが」

 「なら、心強いわ。確か1日で6発だったわね。グラルは単独行動で群れることは無いということよ」


 俺だってこれがあるぞとルミナスが言っている。サンディも一言ありそうだな。

 ルミナスの大型拳銃は弾丸が大きいし、サンディのハンテは弾速がある筈だ。それなりに俺達は戦うことができそうだな。

 

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