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5-1

「お久しぶりです、浅染さん。謹慎はいかがでしたか?」


 久方ぶりの防衛省。そこで出迎えてくれたのは、いつもと変わらない様子の秘書官だった。同じ愛想のない口調だと言うのに、彩人は機械的、彼はやや慇懃に聞こえるのは何故だろうか。思いつつも極力気にしないようにしながら、瀬砂は挨拶に返した。


「……まぁ、それなりだったかな」


 瀬砂の声には若干の陰りが混じる。楽しい事も勿論あったが、それだけでもなかったというのが正直な感想だ。

 結局彼女達は、聖愛の通夜に出ることは叶わなかった。親族から国防省に希望があったのだと言う。なんでも、彼女達を見ると辛い記憶が蘇るのだそうだ。聖愛の最期に立ち会う事も出来ず、謝罪の言葉すら述べられなかったのはショックだったが、いつまでも悲しんでいる訳にもいかない。そう決意してここまで来たのだが、完全に隠し通すのはさすがに不可能だったらしい。


「十分に落ち着けたようで何よりです。色々と苦労をした甲斐がありました」


 瀬砂の様子を知ってか知らずか、秘書官は変わらない口調でそう返した。瑠和でもいれば気付かれたのかも知れないが、幸い今日呼ばれたのは瀬砂一人だ。二人の謹慎がそのまま解かれた中、彼女だけがこうして国防省まで呼ばれている。

 曰く、瀬砂達が謹慎している間の魔法少女は酷いものだったと言う。稼ぎ頭だった三人の影響で、他の魔法少女達はこれまで極端に活動量が少なく、酷いものは実戦経験すらなかったらしい。そのせいで警官は支援してもらうどころか、彼女達のサポートに奔走していたのだそうだ。


「魔法少女の訓練が行き届いていなかったのは失策でした。以降はもっとしっかりと経験をつけさせるべきかもしれません」

「いっそ辞めさせたら良いじゃない。生活保護なんかよりよっぽど税金の無駄遣いだよ」


 無論、魔法少女として登録するだけで報酬が出る訳ではない。だが、ただ登録しているだけの人間を放置しておいた所でなんの意味があるのか、と言うのは瀬砂自身が思う事だった。そんな人間がなにかの手違いで戦場になど出てこようものなら、それは足でまといでしかないのである。


「浅染さん……魔法少女は歩合制ですから、人数を減らしても経費削減にはなりませんよ」

「そうじゃない!」


 思わず近場にあったテーブルを叩く。力の加減ができなかったらしく、大きな音が客室に響いた。耳元で聞いたであろう秘書官は、しかし表情一つ変える事もなく「冗談です」とだけ返す。釈然としない瀬砂だったが、それ以上にこの男が冗談を言うのを初めて聞いた、と内心驚いていた。今回の事で少しは彼女達を気遣う事にしたのか、それともまた何か面倒な依頼でもあるのか。その答えは秘書官の方からすぐに出てきた。


「しかし浅染さんの言う通り、不要な魔法少女登録は避けたいのが本音です。昨今のようなアイドル感覚での登録は、全体の質を下げる事にも繋がります。そこで、魔法少女政策にも研修を取り入れると言う案が挙がりました」

「研修?」


 喉まで出かかった「ほら来た」と言う台詞を一旦飲み込み、瀬砂は問い返す。瀬砂にとっては間違いなく面倒事なのだろうが、その内容は気になる所だった。彼女自身、やる気のない魔法少女を見るのは不快極まりない。それを事前に防げるのならば、多少の面倒も耐えるべきとも考えられた。沈黙を肯定と見たのか、秘書官は説明を続ける。


「簡単に言えば職業体験のような物です。小学校の内に希望者を募り、実際に魔法少女と言う物を体験して頂きます。そこで一度戦闘を体験すれば実情も理解して貰えますし、危険と思えば登録も控えるでしょう」


 瀬砂はなるほどと頷いた。そもそも華やかな部分しか知らないから、無謀な事に手を出そうとするのだ。そうでない部分を見せてやれば、確かにある程度の危機感を持った、本当に魔法少女になろうとしている人間が集まって来るだろう。


「……まぁ、身の安全を確保できるなら良いんじゃない?」

「はい、そこで早速試験運用をしてみようと思うのですが……」


 秘書官のあまりに手早い反応に、瀬砂から「へ?」と素っ頓狂な声が上がる。確かに何か面倒事が持ち込まれるだろうとは思っていたが、こうも唐突だとは考えが及ばなかった。そんな彼女の様子もお構いなしに、秘書官の話はどんどん先に進んでいく。


「浅染さんには、この研修生の指導にあたって欲しいのです。無論、今回は非常時に備えて自衛レベルの戦闘訓練を積んだ候補を選抜しています」

「いや、それは別に良いけど指導って――」


 話の展開に追いつけず、半ば右から左に流れていくように話が進んでいく。その中で瀬砂でも聞き取る事ができたのは、指導と言う言葉だけだった。今秘書官は、自分を指導役にすると言ったのだろうか。聴き直そうにも、早口にひたすら喋り続ける秘書官に、これ以上会話をする気は見られない。


「研修生の名は新出 類(アライデルイ)、本日来ていただいているので、挨拶を済ませておいてください」

「ちょ、ちょっと!?」


 自分の要件だけを伝え終わると、秘書官は部屋の出入口を開く。そして向こう側に居るとおぼしき誰かに「どうぞ」などと声を掛けた。間もなく扉が開き、小柄な少女が入ってくる。その姿を目にした瞬間に、思わず眉間に手を当ててしまう瀬砂だった……。



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