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魔法少女アサゾメ セスナは改造人間である  作者: きょうげん愉快
納部 莉理奈の真意を誰が理解できていたのか
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4-7

「瀬砂か、どうかしただろうか?」


 皆は既に寝静まったであろう深夜、研究室に入ると、モニターだけが煌々と光を放っていた。その中にぼんやりと映る彩人は、特に瀬砂の方を向く気配はない。そこに関しては最初から気にしていなかった瀬砂は、無言のまま彼に近付いていった。黒ずんでいるとは言え、光を反射するには充分な赤い髪が、表情を覆い隠す。


「聞きたい事があるんだ」

「ああ、察しはついている」


 彩人から返ってきた意外な言葉に、瀬砂の髪がびくりと揺れた。読まれている、彼女自身は今でも話すか考えていると言うのに。一体この男はどこまで鋭いと言うのか。だが、それ故に彼なら瀬砂が求める答えを出してくれるかも知れない。そんな期待が生まれた。


「……魔法についての話。瑠和が言ってたみたいに、魔法を使って人を洗脳する、なんてできるのかな?」


 おずおずとした様子で瀬砂が問う。洗脳とは漫画などでは良く聞くが、実際されている人間は見たことがない。まだ想像の中だけの存在なのではないか、と瀬砂が勘繰ってしまうのも自然な事だった。しかし、


「それは可能だ。無論強い魔力と、ある程度心につけ入る隙は必要だが……君が聞きたいのはそんな事ではないだろう」


 またも確信めいた言葉が飛んでくる。瀬砂は思わず目を丸くしたが、彩人は変わらず何事もなさそうな顔をしていた。どうやら彼にとっては驚くべくもない行いだったらしい。そこまで言われた時点で、彼女も誤魔化す気がなくなった。両手を上げて降参のポーズを取る。


「つまり聞きたいのはこう言う事だろう。納部 莉理奈の真意を誰が理解できていたのか」

「アンタの洞察力は、すごいを通り越して気持ち悪い」


 瀬砂は僅かな抵抗にと悪態をついた。確信に触れつつあっても踏み込む事を、彼は平然と言ってのける。その様子に少し嫌悪を覚えたが、反面彼女も話すことにためらいがなくなった。今度こそ思った事をそのまま口にしていく。


「瑠和はああ言っていたけど、正直あの話を鵜呑みにして良いのかと思ってるんだ。洗脳がどうとかなんて物はなくて、最初から莉理奈がそう言うヤツだった、って考えた方が早いでしょ?」


 単純に考えればむしろそれが自然だろう。それをわざわざややこしい話に持ち込んだのは、瑠和が莉理奈を信じている故なのだろう。彼女には悪いが、瀬砂は最初から信じる理由がない。だからこそそれを確信する為の、先の質問だったのだが。そこまで聞いて彩人はふむ、と唸りながらやっと瀬砂の方を向いた。


「君の見解にも一理ある。彼女と何度か対峙して、言動からある程度の性格は察する事ができた。その傾向を現代風にまとめるなら、厨二病――」

「あぁ!?」


 彩人が言いかけた言葉を、普段以上にドスの利いた声が遮る。これには彩人も驚いたのか、一瞬目を見開いて背中を震わせた。その様子を見て、やっと瀬砂は自らの上げた声に気付いたらしい。手をバタバタと振って取り繕った。


「……君、何か厨二病に恨みでもあるのか?」

「えーと……割りと同級生に陰口とかで言われるんだよね」


 そう苛立たしげに答えると、彩人は「そうか……」と小さく頷いてから咳払いをする。さすがと言うべきか、彼はそれだけの動作で完全に落ち着きを取り戻していた。


「……彼女の行動にはそう思わせる行動が多い。中学校進学から間もなく外見を変える事然り、鎌と言う武器の選択も然り。乱雑な言葉を好むのも、他者とは違う特殊性を演出しているとは考えられないだろうか」


 彩人の説明を聞きながら、瀬砂は低い唸り声をあげる。考えてみれば彼女は厨二病と言う言葉の意味を詳しくは知らなかった。ただ漠然と「痛々しい言動をするヤツ」と認識していたが、実際聞いてみるとしっくり来る。周囲が自分を見てそう思うのも無理はない。特殊性を求めるまでもなく、瀬砂は特殊で異常なのだ。


「推察した通りの性格なら、その環境は最悪だ。歴代最強とまで言われた茨木 優里那と、高いフットワークで災害救助において高い成績を持つ内藤 瑠和、この二人の同期と並んでは凡才に立場などない」


 彩人はため息混じりで「特に優里那は邪魔者以外の何者でもなかっただろう」と締めくくった。解説の為に慣れない言葉を使ったせいか、心なしか声が疲れているように聞こえた。その甲斐あってか頷ける部分も多く、納得しかける瀬砂だったが、思い出したように反論する。


「ちょっと待って。優里那は人の感情が視えるんだよ? 莉理奈がそんな風に思ってたら、もっと警戒するでしょ」


 優里那はこれだけのアドバンテージを保有した上で、不意打ちをされているのだ。警戒した相手にみすみす虚を突かせるとは考えにくい。それは彩人も承知の上で「そうだ」と首を縦に振った。


「真実を知るには情報が少なすぎる、と言うところはあるだろう。推測だけではこれが限界だ」


 今度は瀬砂がため息をついた。答えの出ない問題に答えようとするのは、なんとももどかしい物である。いくら納得のいく答えを導きだしたところで、それが正解と確信が持てないのだから。結局瀬砂が得たのは、ないと思っていた洗脳ですら可能性はあると言う、更に選択肢を増やすだけの結果だった。


「……君は変わったな」


 苛立ちを募らせる瀬砂に、思い付いたように彩人が呟く。突然の言葉に、瀬砂は聞こえたにも関わらず意味を図りかねた。訝しげな瀬砂に、彩人の言葉が続く。


「今までの君なら、なんの臆面もなく話していただろう。瑠和の心情など考えず、彼女の話の直後にだ。それを彼女に気を遣い、こうして場所を選んで話している」


 それは間違いなく変化である。そう言われて初めて気が付く。そう言えば自分は何故、わざわざこんなタイミングを選んで相談しようと思ったのだろう。彼女自身には全く自覚のない選択だ。それはつまり、考える事もなく、ごく自然に、人を気遣うような行動を取ったと言う事になる。


「……笑えない冗談だね」


 吐き捨てるように言いながら首を振る瀬砂。何でもない風を装っていたが、逡巡する瞳では誤魔化す事などできようはずもない。そんな彼女に彩人は小さく息をつく。

 言われるまで全く気付かなかった。なぜ、自分はこんな回りくどい事をしているのか。もっとシンプルな方法を、彩人は即座に提示した。いつもの自分ならすぐに導きだせる結論のはずだ。そんな自分の思考を阻む何かがあった。それはきっと友情と言うべきものなのだろうが、彼女の性格が受け入れるのを頑なに拒んだ。見透かすように彩人が言葉を返す。


「諸行無常と言うように、人も常に代わり続けるものだ。そう変化を拒む必要はない。無論、私は今の君も魅力的だと思うが」

「死ねっ!!」


 自棄気味に叫ぶと瀬砂は、近場にあった精密ドライバーを投げつけた。まるでダーツか何かのように、壁に突き刺さるそれを引き抜く彩人を尻目に、彼女は部屋をあとにする。その頃には完全に忘れてしまっていた。本来の目的が、莉理奈についての話し合いだと言う事を……。



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