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魔法少女アサゾメ セスナは改造人間である  作者: きょうげん愉快
納部 莉理奈の真意を誰が理解できていたのか
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4-3

「……え、ちょっと待ってちょっと待って?」


 なおも語り続けようとする瑠和を、瀬砂が制止する。軽い頭痛を感じ、目頭を押さえながらソファの背もたれに身を預けた。話の腰を折られた瑠和は、不満げながらも何事かと瀬砂を見つめている。だが、彼女が既に疲れを見せている理由を察するには至らなかったようだ。


「あんだけ引っ張っておいて、莉理奈の話はそれだけ?」


 話の時間は精々十数分、そのわずかな時間だけで瀬砂は辟易していた。いくら待てども莉理奈の話は一向に出て来ず、延々と優里那と言う少女の話題ばかりが続く。ただでさえ長話の苦手な瀬砂にとって、これだけ無意味な話題が続く事は耐えがたい苦行だった。


「確かに無意味な部分の多いお話ですけれど、気になるポイントはいくつかありますわ」


 フォローを入れるように絵麗菜が割って入って来る。空元気を出しているようだったが、疲れが明らかに顔から見て取れた。それを見て瀬砂は僅かな安堵を得る。自分が短気なのは間違いないが、瑠和の話も確実に冗長であったのだ。絵麗菜を見て少し心が落ち着いた彼女は「そうだね……」と小さく頷いて見せた。


「まず一つ目、瑠和さんのお話に出てくる莉理奈は、あまりに外見が違い過ぎますわ」


 瑠和が話す同僚の莉理奈は「地味」と言う感想が真っ先に浮かぶ容姿を想像させた。髪を染めてはいるようだが、化粧っ気のない雰囲気だったと聞くといかにも間に合わせで、着飾る事に興味がない事を感じさせる。だが彼女たちが実際に見た莉理奈と言えば、酷く派手な銀髪とゴスパンクと言う落ち着きのない格好だ。その違いは、二人に疑問を抱かせるには十分だった。


「それさ、たまたま名前が同じだってだけで他人なんじゃない? この頃はこんな感じの名前が流行ってたし」

「馬鹿言わないどくれ。アタシが人の顔を見間違えるなんて、ある訳ないだろ?」


 瑠和の言葉に二人は返す言葉もない。彼女の視力は対内魔法の影響を強く受け、この中では飛び抜けて高い。覚え間違いと言う可能性もあるが、低いだろう。瑠和の言葉を借りるなら「より鮮明に写った物は、より鮮烈に記録される」のである。それでもにわかには信じられず、瀬砂達は互いに顔を見合わせていた。そこに、何処へ行っていたのか彩人が部屋へと戻って来る。その手には何かの書類が挟まったバインダーが握られていた。


「確認願いたい。第十五期魔法少女、納部 莉理奈の登録情報だ」

「なんでそんなものがあるのさ……」

「なんでもなにも、魔法少女の登録情報は国防省で収集、保管が義務付けられている」

「だからなんで国防省のデータに平然とアクセスしてるんだよ!?」


 瀬砂が勢い良く問い返すものの、彩人から答えが返って来ることはなかった。止む無しと言わんばかりにバインダーを受け取ると、履歴書のような表記の書類にびっしりと文字が書き込まれていた。他の魔法少女達も内容を確認しようと、瀬砂の後ろから覗き込む。彼女達が事細かに記載された文面よりまず注目したのは、登録当初のものと思われる顔写真だった。


「……誰?」

「だから莉理奈だよ。あー、そう言えば入ったばっかの時はこんな顔してたっけねぇ?」


 写真に写っているのは、瀬砂が知っているどころか、瑠和の説明からもかけ離れた内気そうな少女だ。パサついた黒髪を三つ編みでまとめ上げた以外は何のメイクもせず、唯一の特徴としては黒縁の眼鏡を掛けている程度。それすらもにじみ出る地味さを際立てている。写真の撮影は中学への入学より先にする事を踏まえると、進学に合わせてイメージチェンジを計ったのかも知れない。


「計測された魔力は中の上くらいだね。まぁ魔法少女としては平均か」

「それで、装備は何を申請しています?」


 絵麗菜に促されて資料を見回す。それによれば莉理奈が申請していた装備はロッド、魔法少女としては至極一般的な武器と言える。あまり戦っているのを見た事がないのだろう。これには瑠和も意外そうな顔をしていた。


「鎌じゃありませんのね」

「そうだろうね。あんなものが二本も用意されてるとは思えない」


 魔法少女の装備は、一部例外を除いて国防省からの支給品である。彼女達における武器とは即ち、魔法を用いる際のイマジネーションを高める為の媒介だ。故に一般的な魔法少女に連想される、杖やバトンなどは多く用意されているが、反面物理的な殺傷能力を持つ道具はストックが少ない。瀬砂の戦斧などは、それこそ一点ものであったと記憶している。力任せに振るえばいいだけの斧でこうなのだ。武器としての使い勝手の悪い鎌など、複数用意されているはずもない。つまり、どちらかが自前でこの武器を持ってでもいない限り、二人の魔法少女が同時に鎌を武器とする事などあり得ないのだ。


「見た目が違う、武器も違う、魔力も並み……これ、本当にアイツと同一人物なのかな?」


 それは半ば判り切っている事実。だが珍しい名前ではあるが、まだ同性同名も絶対にないと言いきれはしない。偽名と言う可能性もあるか、他にもなんとでも言い訳が利く状態と言えるだろう。そんな今だからこそ、瀬砂は問うた。瑠和も気付いていたのだろう、声を僅かに震わせながら答える。


「……多少髪型や化粧を変えたくらいで、アタシが同僚を見間違えるもんか。アレは莉理奈だった。それは間違いないよ」

「そう」


 瑠和の言葉に、瀬砂は満足気に薄く笑った。どうやら現実はある程度見る事が出来ているらしい。これならば、次に会った時にまた動けなくなるような事はないだろう。瑠和の覚悟を確かめて頷いていると、絵麗菜が恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「ねぇ、瑠和さんは優里那さんの死因って……ご存じかしら?」

「……」


 瑠和は答えなかった。勿体つけるような態度に、瀬砂はやきもきする。その答えは、この場にいる誰もが容易に想像できているはずだ。どこに躊躇する要素があるかなど、彼女には判ろうはずもない。やがて意を決したように、瑠和はゆっくりと言葉を返す。


「優里那はアタシの目の前で死んだんだ。死因は……マナ細胞欠損による衰弱死」


 聞いて絵麗菜は思わず口元を手で隠した。脳に移植されるマナ細胞は、滅多な事では欠損などしない。その数少ない事例の中で、現状最も可能性が高いものは。そしてこれまでの不可解全てに辻褄を合わせる答えは。


「そうさ、莉理奈は黒魔術で優里那のマナ細胞、そして得物を奪って逃亡したと言われてるのさ」


 黒魔術は、法で規制されているだけで使用自体はそう難しい魔法でもない。インターネットの少しアングラなサイトを見れば、一般人でも十分に覚えられる代物である。それを踏まえればこの結論に至るのは自明の理。それ故に瀬砂は首を傾げた。それほど判り切った事に、彼女達は何をいまさら恐れおののいているのか。


「……茨木家と松鳥家は古くから付き合いがありますの。お互い魔法の名門で、優里那さんとは私も何度か手合せした事があります」


 苦々し気な表情で絵麗菜が言う。その表情から察するに、あまり良い記憶ではないのだろう。戦績は聞かずとも判る気がした。一瞬言葉に詰まった絵麗菜だったが、瀬砂の様子から何かを察したらしく、ため息を一つついてから話を続けた。


「あの人は伝説の魔法少女、アテナの再来と言われた程の天才でした。私、あの人には一回も勝てた事がありませんわ」


 アテナ、魔法少女の先駆けとなった少女だと瀬砂は記憶している。当時幅を利かせていた大規模な暴力団グループを、たった一人で壊滅させたと言う最強の魔法使い、だっただろうか。その再来ともなれば、確かに力は計り知れない。


「そんなとんでもないヤツなら、莉理奈にあっさり負けるって言うのもおかしな話だけどね」

「状況がかなり特殊だったんだ」


 皮肉めいた瀬砂の言葉に、瑠和が答える。その表情には追憶や感慨など、瀬砂のとっては非常に厄介そうな感情が滲み出ている。彼女の勘違いかも知れないが、どうにもそれは「いかにも話をしたそうな顔」に見えた。要はその話を聞けと言う事なのだろうと気付くと、瀬砂は深くため息をついた。


「……あー、うん。もう話したらいいんじゃないかな」


 投げやりにそう答えると、瀬砂はソファからクッションだけを持ち出し、食卓と思しきテーブルに席を移す。クッションを枕代わりに突っ伏すと、熱弁を始めた瑠和をよそに彩人に呟きかけた……。


「重要っぽい所になったら起こして」

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