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魔法少女アサゾメ セスナは改造人間である  作者: きょうげん愉快
納部 莉理奈の真意を誰が理解できていたのか
27/45

4-1

『では、続いてのニュースです。悲劇を避ける事はできなかったのでしょうか? 病院拉致被害者殺害事件を徹底検証して……』


 テレビから聞こえていた声はそこで途切れ、研究室には再び静寂が戻った。瀬砂がリモコンを使ってテレビを止めたのだ。彩人はその光景を見て一瞬目を丸くしたが、すぐに立ち上がる。その表情からは、呆れとも疲れとも取れない複雑な心境が読み取れる。


「リモコンは正しく使って貰えないだろうか」


 ワイドの液晶画面の『刺さった』リモコンを引き抜きながらそう言う彩人だったが、瀬砂は何も答えなかった。20cmにも満たないリモコンを投げた程度では彼女の機嫌は直らない。消沈する一同、既に一週間は続いている戦いのない日々、そこに先ほどのニュースが重なり、彼女のフラストレーションは限界寸前だった。

 国営病院への襲撃による拉致被害者の殺害。その事件は瞬く間に全国へ広がった。一度は救出した人間が殺された事、その凄惨な被害者の最後もあり、世論による追及は強い。事件発生より一週間が経った現在でもマスメディアはこの話題で持ち切られている。国防省はこの監督不行き届きにどう責任を取るのか。その答えがこの現状、当夜の警備を担当していた魔法少女達の謹慎である。


「身体がなまりすぎて、リモコンすらまともに扱えなくなるよ」

「そう言う物でもありませんわ。お陰で私たちも、こうしてじっくりと気持ちを落ち着けられるのですから」


 瀬砂のぼやきに答えたのは絵麗菜だ。彼女と瑠和の二人も、ここ数日は彩人の研究所に入り浸っている。自宅にいると報道関係者がしつこいのだそうだ。彼女の言葉には瀬砂も「まぁ、ね……」と頷かざるを得なかった。

 絵麗菜の言う通り、今回の謹慎は責任の追及と言うよりも、慰安に近いのだと秘書官は話していた。あくまで状況に対応しきれなかった国防相側の問題であり、死力を尽くした魔法少女達に非はないと言うのが、あちらの見解らしい。故に謹慎は口実で、精神的なショックを癒すのが目的なのだそうだ。無理もない、今でこそある程度は落ち着いた絵麗菜だが、数日の消沈ぶりは酷いものだったのだ。瑠和に至っては、会話こそできるものの、未だに沈んだ表情で床を睨んでいる。


「アンタ逹の様子ときたら、心配を通り越して笑える程だったからね。今からでも瑠和の事は笑って良い?」

「好きにしとくれ」


 茶化すように瑠和に話を振る瀬砂だったが、返ってきたのは機嫌の悪そうな生返事だけだった。気を回す瀬砂と無下にする瑠和。普段とは真逆の状況に瀬砂は頭を掻く。心の中で少しだけ、これからはもう少し相手にしてやろうと思った。


「……で、アンタは何が気に入らないわけ? 謹慎させられてる事? 聖愛を殺された事?」


 今の瑠和に皮肉を返す余裕はない。ならばと瀬砂は早速本題に入る。無論返事は期待しない。ただ彼女を凝視し、反応を探る。今の言葉には渋い顔をしたものの、返事らしいものはない。瀬砂はそれを横目で確認しながら、言葉を続ける。


「それとも、聖愛を殺したのが莉理奈だって事?」

「……」


 そこで瑠和が小さくうなったのを、彼女は聞き逃さなかった。平静を装ってはいるが、そこには確かに他の話とは違う心持ちがあるのだろう。瀬砂にとっては、全く持って予想通りの反応である。今の瑠和を見て確信した。彼女は、莉理奈と面識がある。見据える視線に気付いたのか、絵麗菜も神妙な顔つきを瑠和に送った。


「最初は腑に落ちなかったけど、考えてたら気付いたよ。多分、アイツと結構親しかったんじゃない?」


 驚いた様子でこちらを見る瑠和に、瀬砂は言葉を付け加えた。瑠和のうわごとを聞いてから、頭に浮かんだ疑念を吟味していった結果である。

 少数精鋭の中で数々の死線を潜り抜けてきた瑠和は、この中ですら並ぶ者のいない戦闘のエキスパートと言って良い。その瑠和が、瀬砂に遅れを取る形で心神喪失状態になど陥るだろうか? 特に彼女は、戦闘による仲間の殉職を経験している。なればこそ、あの状態では動かなくてはならない事も理解できるはずだ。その上で、彼女は戦わなかった。それは、聖愛の死とはまた別の理由で、戦う事が出来なかったのではないだろうか。そこに加えての、かの言葉である。それが莉理奈と戦えなかったと言う意味だと想像させるには充分だった。


「生憎と、回りくどいのは嫌いなんだ。アイツは何者? なんでアンタと面識があるの?」


 そう言った自分の眼がとても冷たい事は容易く想像がついた。片腕を失った恨みと、二度にも渡る不覚。そして今回は近しい人間を殺された仇にまでなった。綺麗事は必要としない、瀬砂は莉理奈への復讐を心に決めているのだ。繋がりがあるのならば、何としても知っておきたいというのが正直な所である。そんな瀬砂の様子に警戒しているのだろうか、瑠和はしばらく押し黙っていた。しかしそれも長くはなく、ゆっくりと口が開かれる。


「……親しかったよ、友達だった。いや、あの時会わなければ、今でも友達だと思ってたさ」


 まずは苦々し気にそこまでを絞り出した。だが、驚いたのは精々絵麗菜だけだ。その程度の事までは瀬砂は予想していたし、未だ彼女の素性については触れられていない。まだまだ彼女が驚くには情報が少なすぎた。彩人もまた無表情を貫いているが、普段からこうであるため、その心境はうかがい知れない。ただ恐らく、二人に共通している事が一つ。次なる瑠和の言葉を待っていると言う事だ。周囲からの言葉がない事を確認してから、彼女は言葉を続けた。


「なんであの娘と面識があるか、だっけ? あって当然だよ。だってアタシは、昔あの娘と一緒に戦っていたんだから」


 それを聞くと、瀬砂が眉をひそめる。遠目に絵麗菜も同じ表情になっているのが見えた。どうせ真顔のままであろう彩人は無視して、彼女は瑠和の言葉の意味を考える。彼女が莉理奈と共闘していたと言うなら、考えられる可能性は二つ。一つは瑠和が元黒魔術教団であるという事。だが、それは候補として浮かんできた時点で頭が否定した。彼女に限ってそれはない。そんな無意識の信頼が、微塵すらもその可能性を考えさせない。


「……アタシの代の魔法少女が、どうして一人しかいないか知ってる?」


 ならば残るはもう一つの可能性、それが判っているかのように、瑠和も話を続けた。新たに問われた内容について、瀬砂は考え込む。それは彼女が魔法少女として顔合わせに来た時に、いや誰もが感じた疑問だろう。無論、その事については噂程度に聞いている。


「元々少なかったって話は聞いてるよ。それでも最初は三人いたのに、殉職やら行方不明やらが重なって――」


 そこまで自分で言って気付く。行方不明、とは何があったと言うのか。殉職なら解るが、死んだなどの結果が出るでもなく、行方だけが判らなくなるというのは何とも理解しがたい。いなくなった魔法少女は一体何処へ行ったのか。今までだったらそう考えていただろう。だが、今なら答えがなんとなく理解できる。そんなことは解っていると言わんばかりに、瑠和はゆっくりと口を開いた。在りし日の追憶に想いを馳せながら……。


「莉理奈は行方不明になったアタシの同僚、当時三人だった第十五期魔法少女の一人だよ」

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