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魔法少女アサゾメ セスナは改造人間である  作者: きょうげん愉快
内藤 瑠和の名は彼女にとって誇りだった
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しかし、頭を整理しようと考える毎に、あらゆるピースがすんなりと繋がっていく。他の女性と仲良くしているのを見て嫉妬した事、差し入れの弁当が自分の分だけ丁寧に作られていた事、今思えばクリスマスに男について聞いたのも、探りを入れていたのかも知れない。


「最初は秘書官に言われてアンタを見てたんだよ」


 思い出を呼び起こすように瑠和は目を閉じる。語られたのは、瀬砂が魔法少女になって間もない頃の事だった。思えばあの頃は今よりも荒んでいて、人の話もろくに聞かずに突っ込んでいた。瑠和が言うには、その行動で秘書官に目をつけられていたのだそうだ。瀬砂は何をしでかすか判らない。問題を起こさないように注意深く監視して欲しい、と瑠和は言われてたらしい。彼女は最年長なのだから、妥当な人選と言えるだろう。


「アタシも初めてアンタを見た時は、とんでもないヤツを任されたと思ったモンさね。引ったくり犯にいきなり武器を投げつけるんだから」


 苦笑混じりに瑠和が続けた。その事件は瀬砂もよく覚えている。丁度瑠和に付きまとわれてイライラしている時に事件を見掛け、面倒に思ってハルバードを投げつけてやったのだ。結果引ったくり犯の足をふくらはぎから切り落とし、倒れ込んだのを確認してから、近場の治癒魔法使いと警察の応援を呼んだと瀬砂は記憶していた。思えば、あの時から瑠和は特にしつこく自分の周りをうろついていた気がする。


「あれからはなるべくアンタから目を離さないようにしてたよ。しっかり止められてたかは判らないけどね」


 呆れすら感じさせるため息混じりの声色で瑠和が続ける。だが、ため息をつきたいのは瀬砂も同じだった。そこからは、事ある毎に瑠和に制止され、迂闊に暴力が振るえなくなったのだ。

 だがその記憶と共に、瀬砂は別の事も思い出す。当時の瑠和が自分に向ける視線の事だ。敵意、と言うほどではないが、明らかな警戒色を秘めるその視線は、今の彼女からは微塵も見られない。



「でも、いつ頃からだったかね……そうして危なっかしい所を見てる内に、なんだか可愛く見えてきてね」

「まず、そう見える事に疑問を持とうよ」


 瑠和の独白に間髪入れず突っ込みを入れる瀬砂だったが、今の彼女が聞き入れるはずもない。何事もなかったかのように聞き流され、彼女の話は続く。


「今ではもう犯罪者をタコ殴りしてる所も綺麗に見える始末さね。気付いてたかい? 最近はマークどころか、単独行動させてアンタが暴れるのを待ってるんだ」


 言いながら瑠和は、怒り役は絵麗菜まかせになっちゃったけどね、などと笑った。瀬砂もそれに合わせるが、もはや乾いた笑いしか出てこない。

 よく周りからは「本当に楽しそうに暴力を振るう」とは言われるが、その為にわざわざ細工をする人間がいるとは思わなかった。確かに去年の末辺りから、やけに周到に包囲だけして、他の魔法少女が動きを止める事が多く、不自然に思っていたのだが。しばらくすると途中で神妙な面持ちになり、瑠和が急に何か考え込む。


「……もしかして怒り役の方が好感あった?」

「ないから」


 彼女の疑問は瀬砂によって一蹴された。心から安堵する様子からは瑠和がふざけて言っているとは思えない。彼女の本気を、瀬砂は肌で感じていた。こうも分かりやすいと、呆れを通り越して逆に敬意を覚える。その様子を見て、瑠和は小さく息をついた。


「……やっぱ気持ち悪い、かねぇ?」

「え?」


 突然、不安げな表情で彼女がそう問うて来る。瀬砂には一瞬言葉が何を意味しているのか理解できなかった。返さないまま黙っていると、瑠和は顔を見るのも辛いと言いたげに背を向けた。


「女なのに女が好きなんて、さ……こんなことしてアレだけど、引退前の思い出作りって事にしてくれれば――」

「いや、別に気持ち悪いとは思わないけど」


 ボソリと呟くように返したにも関わらず、瑠和の反応は大きかった。首を180°回さん程の勢いで向き直り、眼球が飛び出しそうな程目を見開く。裏返った声の「マジで!?」は、もう二度とは聞く機会はないだろう。その過剰とも言える動きに、逆に瀬砂が驚かされた。


「それだけボクを見ているなら、アンタはもう気付いてるでしょう? 性癖がおかしいって話で、ボクは人の事を言えない」


 まだ不信の色がうかがえる瑠和に、瀬砂はそう付け加えた。人に暴力を振るいたがる性癖など、おおよそまともである筈がない。むしろ無関係な人を巻き込むと言う意味では、かなり最悪に近い位置にある趣味だと彼女自身自覚していた。


「人を傷付けるより、よっぽど平和じゃないか」


 その部分だけはうつむき加減に付け加える。様子の一変した瀬砂を不審に思ったのか、瑠和は覗き込むように彼女の顔を見ようとした。しかしそれよりも早く、瀬砂が顔を上げる。


「あ、趣味を認めるのと、ボクがそれに付き合う事は全くの別問題だから」


 瑠和がなにか言うよりも先に、それだけは明言しておかなくてはと思い直す。下手をすると、自らも知らぬ内に瑠和の恋人に仕立てあげられるのではないかと思うと、瀬砂は身震いした。今のところ色恋沙汰に興味など湧かないが、勝手に決められるのを見過ごす事はできない。


「正直今言われたばかりで、アンタをそう言う対象として見た事なんてなかったからね。返事するにしても、もう少し考えないと」


 間髪入れずに瑠和が舌打ちをしたことを、瀬砂は忘れないだろう。彼女への油断は貞操の危機を意味する。そう心に深く刻み付けた。


「……ま、良いか。バレたからには、これからどんどんアプローチしていくから、覚悟しなよ」

「物理的に来たら殴り飛ばすからね……さて、話は済んだし、そろそろ仕事に戻らなきゃ」


 ベンチから立ち上がり、軽く伸びをする。こりなどはないが、無意識にやってしまう行為だ。そうやってからだをほぐしていると、電話の振動が瀬砂に呼び掛けた。


「ん……ああ、絵麗菜か。そういえば仕事を任せっぱなしだったな」

「絵麗菜はTEL番知ってるんだ……」

「後で教えてあげるから黙って。……もしもし?」


 じっとりとした視線を送ってくる瑠和を無視して、瀬砂は電話を耳に当てる。まもなく絵麗菜の『瀬砂さんっ!?』という甲高い声が響いた、スピーカーから聞こえてくる絵麗菜の声は、心なしか焦燥の色が見えた。


『至急、ナースセンターまで来てください!』

「ナースって、アンタそこで電話するのはさすがに――」

『非情事態ですわ! 良いから早く来てください。瑠和さんも一緒でしょう? では、急いでますからこれで』


 それだけ言うと慌てた様子で電話は切られた。瀬砂はどう言うことだと首を傾げる。彼女より機敏に反応したのは瑠和だった。既に防護服を身に纏い、戦いに赴く眼で瀬砂に行こうと促す。


「落ち着いてる割に説明がそこそこなのは、電話に使う魔力がもったいないから、それと話してる場合じゃないからってことだろ?」


 瑠和の言葉に瀬砂もハッとする。彼女の言う通りだとしたら、どちらも良い状況とは言い難い。嫌な予感が、二人の頭を渦巻く。その後の言葉を発したのは、ほぼ同時だった……。


「急ごう!」



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