表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女アサゾメ セスナは改造人間である  作者: きょうげん愉快
内藤 瑠和の名は彼女にとって誇りだった
18/45

3-1

「で? ご自慢の魔獣も殺されたって? だっせぇ」


 路地裏の闇に煌々と明かりが灯る。来客の話もそこそこに、納部 莉理奈はスマートフォンをいじり始めた。パンクな雰囲気が漂うドレスは薄汚れたその場にいかにも不釣り合いで、裾も髪も汚れてしまっている。おおよそ地位が上の相手に見せる姿ではないが、それでも気にはしない。そんな位など瑣末に思えるほどの自信が彼女にはあった。今日その男がわざわざ自分を訪ねて来ている事が、莉理奈をさらに助長させる。


「ウチもこれで忙しいんだよねぇ。さっきの見たでしょ? もうちょっとで新しいクラス、解禁なんだ」


 彼女は恨めしげに、自分が先ほどまでいたゲームセンターの入口を見る。黒魔術教団に移籍した彼女に家はなく、こういった場所か、あるいはいずれかのアジトで夜を明かしていた。それが非行に走った学生の典型的な行動である事に、彼女はまだ気づかない。彼女は自分の居場所を男が知っていた事に驚いたが、存外その捜索範囲は限られているのである。


「あんな物はただのサンプルに過ぎん。失った所で何の損失もなければ、奪われて困る情報もない」


 莉理奈の挑発的な口調にも眉一つ動かさずに、男はそう答えた。決して冷静沈着なのではない。現に今、彼女の言葉とは関係なく、彼は狼狽しているのだ。そもそも莉理奈の事など気にも留めていない。いや、彼にとってはあらゆる物がノイズに過ぎないのだろう。ただ一つの物を除いて。


「あんな物よりも被験体だ。アレには私の研究成果が詰まっている、国防相の連中に調べられる訳にはいかん」


 莉理奈は思わずため息をもらす。男の目は虚空を見つめ、意識は既にここにはなかった。恐らく頭の中で大事な研究でも愛でているのだろう。研究者としては優秀らしいが、莉理奈には気味が悪かった。


「きめぇよ。もう用事がないなら帰るよ」

「ああ、そうだったな」


 そう言うと、男はやっと視線を莉理奈へと戻した。言ってからしまった、と思う。どうせならば彼が妄想に浸っている間に帰ってしまえば良かったのだ。だがそれももう遅く、男は彼女へと言葉を向け始める。


「そう言う訳だ、私の研究の処分を頼みたい。パソコンのデータは消えるようにしておいたが、実物は私にはどうにもならんからな」


 やはりか、と莉理奈は内心舌打ちをした。これが彼女の自信を支えるもう一つの根拠。男はあくまで研究者であり、戦力にはならないのである。故に荒事となれば構成員、激しい物ならば必然的に莉理奈を頼ってくる。


「なんで、ウチがそんなこと」


 それ故に莉理奈は気に入らない。何故こんな男よりも優れている自分が、駒使いをしなくてはならないのかと思うと、腹立たしく感じた。とは言え、答えも判りきっている。食って掛かる度に、彼は必ずこう答えるのだ。


「誰のお陰でその力を得て、黒魔術教団の幹部になれたのだと思っている? 今の地位に感謝しているのなら、頼みくらい聞いてくれても良いだろう」


 反吐が出る言葉だ。その感謝がいつまでも続く物だと勘違いしている。莉理奈の中には既にそんな気持ちは残っていないのに、それに気付けていないのだ。

 そろそろ教えてやるべきなのではないか、などと莉理奈は時折考える。自分の今の力を、今ではどちらが上なのかを。それを理解すればこの男も、これ以上大きな顔はしないだろう。不意に胸元の魔法石に手を掛ける。常日頃から防護服を纏う彼女がそれにしまう物は、得物の大鎌だ。使い方など知らないが、戦う力もない中年男の首をはね飛ばす程度なら訳はない。


「……まぁ、良いさ」


 だが、その手もすぐ離してネオンの光輝く表通りへ向かった。この男を倒す事は、莉理奈の力をもってすればいつでもできるだろう。だが、もっと相応しい時がある。その時までは精々恩を売っておいてやろう。そう思い直したのだ。

 それに、純粋に興味が湧くところでもあった。自分に比類なき強さを与えたこの男が、こうも大事にする技術。その被験体がどんなものなのか。


「場所教えろよ、九郎のオッサン。暇な時にでもブッ殺してやるから」


 そう言いながら莉理奈が向かう先は、元いたゲームセンターだった。彼女のささやかな抵抗である。しかし彼女には、それを知ってか笑う男を見て、不快になることしかできなかった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ