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prologue

「いいか、動くなよ!? フォトンガンだって、この至近距離なら致命傷だからな!」


 男は焦燥の混じった表情で、腕で取り押さえた女性に銃を突きつけながら、その部屋唯一の出入り口に凄んだ。周囲の人垣が、助けを求めるように視線を送る。部屋の外にいた警官達は小さく目配せで返したが、男に怒鳴られその場を後にした。彼が周囲を確認すると、男の部屋は既に壁越しに包囲されている。

 男のここに至るまでの顛末はなんとも不幸なものだった。安定した企業と思っていた就職先が急激な赤字に見舞われた事、たまたま男のマナ細胞の寿命が短かった事、そもそもこんな時代に生まれてしまった事自体不運だったのかも知れない。犯行場所に天使を描いたステンドグラスの張られた銀行を選んだのは、神にすがる気持ちもあった。今日はクリスマス・イブだ、一度くらい神の奇跡も起こるかもしれない。例え手持ちの武器が護身用として普及した、殺傷力の小さいフォトンガンだけだったとしても。


「現金と逃走用のフライトボードだ、早くしろっ!」


 声がいよいよ荒くなる。既に暖房は途切れていると言うのに、男の手は汗ばんでいた。直感で何かを察していたのかも知れない。彼には明確に分かっていた。その恐怖の正体、それは男にとって更なる不幸となるだろう。ステンドグラスからの光が遮られた事にすら、男は気づかなかったのだから。天井からガシャン、という甲高い音が降りてくる。男は何事かと天を仰ぎ、直後に後悔した。上からやって来たのはガラス片。咄嗟に両手で顔をかばう。その瞬間に人質を手放していることにも気付かずに。離れていく男を守る唯一の盾。それを気にも留めずに彼は天井を見た。割れたステンドグラスから現れた彼女を見る為に。

 男の頭上には一人の少女がいた。赤黒く長い髪と、軽装の上からでも見てとれるフリルのあしらわれた服をなびかせながら、ゆっくりと舞い降りてくる。その美しい容姿から振り撒かれる笑顔に、彼は一瞬で魅了された。祈りを聞き届けに神が天使を遣わしたのではないかと。だが衣装に描かれた逆十字と、手に握っていた身の丈程もある巨大な戦斧(ハルバード)は、それを否定するのに充分な材料だった。


「浅染、瀬砂……!」


 男が青ざめた表情で彼女の名を口にする。随分遠くのステンドグラスから飛んだはずだったのに、すでに間近まで近づかれていた。戦斧が、銃を持った右腕に押し当てられる。冷や汗は脂汗に変わり、全身の震えは恐怖によるものに他ならない。そんな男の顔を見ながら少女は、浅染 瀬砂はひたすら笑い続けていた……。



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