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15歳。  作者: 月森優月
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第83章 ふうせん。

 屋上の柵に手を乗せながら、自分たちが生きてきた町を見下ろす四人。


「終わったね」

「終わったな」

「この制服を着るのも最後、か」


 斐羅はスカートを引っ張って呟いた。


「あんまり、着てあげられなかったけど」

「卒業式に着てもらえたんだから、制服も幸せだろ」


 里恵が言った。すると斐羅はにこっと笑ってくれた。


「卒業して、この先私たちはどうなるんだろう」


 明は、飛行機雲を視線でなぞりながら言った。


「勉強を頑張るんだよ」


 と、直史。


「それ、あんただけ」

「私も、するけど……」


 斐羅が遠慮深そうに言った。


「しないのは今井だけ」

「えぇ~。あ、明は? 明もしないよな?」

「します」

「ええっ?」

「今の私には具体的な夢がないから、それを見つける為に色々学んでゆきたいの」


 卒業式のとき、町田先生が言っていた。「勉強を頑張ってしていると、それだけ未来の選択肢が増える」と。


「ね、本当は里恵も勉強するつもりなんでしょ? カウンセラー、なりたいんでしょ?」

「……高卒のカウンセラーは駄目か?」


 斐羅の言葉に里恵がそう返すと、直史が大きなため息を吐いた。


「冗談、冗談。なってやるよ、ちゃんと大学も大学院も卒業して、カウンセラーに。アタシに不可能の文字はない」


 里恵は自分の胸を叩いた。


「ねえ……、私たち、ずっと一緒だよね? これからも、ここでお喋り出来るよね?」


 斐羅が柵から手を離し、不安げな表情で皆に訊いた。


「ああ……ここでの交流はなくなるよ」


 里恵が言った。


「えっ?」

「屋上からも、卒業しようぜ、皆。ここで中学のときの友情にすがりついていたら、いつまで経っても成長しない」

「そんな……」


 口を歪ませて哀しみの表情をあらわにする斐羅。


「里恵、それはあんまりじゃ、」

「しっ」


 明の言葉を直史が遮った。


「今井には何かの考えがある。そうだろ?」

「……なあ、斐羅。今までここは、交流が目的の部活場所みたいだっただろ?」

「うん……」

「これからは、休憩所だ」

「……え?」

「学校の人間関係なんかに疲れたときは、ここに来ればいい。皆、斐羅を守ってやるから」

「里恵……」


 斐羅の目が涙ぐんだ。里恵が、そっと彼女を抱きしめる。


「あーあ、里恵みたいにかっこいいこと言ったら抱きしめられたのにね、斐羅ちゃんのこと」


 明が直史の脇腹を小突いた。


「うるせえよ」


 ふてくされたようにそっぽを向く直史。


「なあ、輪作ろうぜ」

「輪?」

「いいからいいから。そこに今井、こっちに安藤、あっちが江川」


 とりあえず明たちは言われた通りの場所に立つ。


「はい、隣の人と手繋いで輪作って」


 明は訳が分からないまま里恵と斐羅と手を繋いだ。まるで、かごめかごめのようだと思った。


「皆で『卒業おめでとう』だぞ」

「あ、そういうことか」


 明はやっと現状を理解した。


「じゃあ、行くからな。せーの……」


 皆が息を吸う音が聞こえた。




「「「卒業おめでとう!」」」




 繋いだままの手を上にあげたあと離し、拍手をする。これだけのことなのに、何だか楽しい。しかし、それと共に寂しくもあった。


「ずっと、親友で、恋人でいてね」


 斐羅が俯き加減に言った。その声は涙声だった。


「当たり前じゃない。ずっと、親友だよ」


 明が明るい声を作って言った。本当は分かっている、進学したら皆の心の距離はどんどん遠ざかってゆくことを。分かっているから、そうだと思い込みたくて言った。


「直史ー、わざわざ手繋いだのって斐羅と手繋ぎたかったからだろー」

「ち、違えよ!」


 そう言った直史の顔は赤い。


「……また、ここで休もうね。皆で」

「ああ」

「私、皆と会えて本当によかった」

「私も、明ちゃんと出会えてよかった」

「江川、ありがとな。お前がいなきゃ、今の今井はいなかったよ」

「それを言ったら私もだよ。ありがとう、明ちゃん」

「俺自身も、変われた感じ、するよ」

「ちょっと、よってたかって私のこと褒めないでよう……」


 明はまともに皆の顔を見られなかった。


「……私も、三人がいたから変われたんだよ。その……ありがとう」


 上目遣いに見ると皆、笑っていた。


「あ、ふうせん」


 斐羅が上を指差した。皆、上を向く。赤いふうせんが、空を飛んでいた。


「ふうせんってどれくらい浮いてるのかな」


 と、明。


「さあ」


 そう言って直史は続ける。


「でも、どれくらいの距離進むんだろうな」


 「さあ」


 そう言って斐羅は続ける。


「まだ、落ちないのかな」


「さあ」


 そう言って里恵は続ける。


「アタシたちはふうせんみたいなもんなんだよ」


 そのあと、皆の方をしっかり見て、


「あのふうせんは、どこへ向かうんだろうな」


 と、里恵。


 声を合わせて皆が言う。




「さあ」




 と。

最後まで読んで下さりありがとうございます。この小説を書き出したのが2006年、もう6年もの月日が経ちました。遅筆な上、途中で休載したりもしたので、更新を待って下さっていた方々には沢山のご迷惑をおかけしました。現段階では、私が書いた小説の中で15歳。は一番文字数が多く、思い入れもある作品です。まだまだ未熟なので読みづらいところもあったと思いますが、それでも最後までお付き合いして下さった方々に、心から感謝いたします。本当にありがとうございました!

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