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15歳。  作者: 月森優月
82/83

第82章 卒業。

 卒業式の日の空は、澄み渡っていた。


「卒業式とか、緊張するわ~」


 ナツキが胃を押さえながら言った。


「あんなの、名前呼ばれて卒業証書受け取るだけじゃんかよ」

「それが、緊張するんだって……」


 ナツキは里恵のように、簡単に考えられないようだ。


「中学最後の日、皆で頑張ろ」


 明が言った。


「何を頑張るの?」


 と、紀子。


「卒業証書受け取るのだよぉ」

「いや、頑張るほどじゃねえし」

「だから、それは里恵だけだって」

「とりあえずさ、楽しもうぜ」


 里恵が明とナツキの肩を叩きながら言った。


「そうだね」

「うん」


 明たちは満足げに頷く。


「ちょっと、私は蚊帳の外ぉ……?」


 という紀子の呟きは、誰もが聞こえないふりをして楽しんでいた。


 制服をきちんと正し、整列する。体育館には、沢山の人がいるのが見える。明もいささか緊張しながら、入場した。わき上がる拍手。背筋をぴんと伸ばし、歩く。母親の姿が目に入り、少しだけ表情を崩した。


 着席し、卒業式定番のお偉い方々の挨拶が始まる。明は時々隣に座る里恵と目を合わせた。言葉はいらない。心の繋がりを確認出来る、それだけで充分だ。


 そして、いよいよ卒業証書授与のときが来た。

 一人ずつ、名前が呼ばれ、校長先生から卒業証書を手渡される。順番が近付くにつれ、明の緊張は高まっていった。踏み出す足を間違えないように、お辞儀を忘れないように……。容量の小さな頭がパンクしそうだった。


「今井里恵」


 里恵の名前が呼ばれた。彼女は堂々とした歩き方で校長先生の前まで行き、卒業証書を受け取り、舞台から降りる……と思っていたが、受け取ったあと、私たち卒業生に向かって一礼した。こんな動きは指導されていない。もう、里恵ったら。明は苦笑しそうになった。


「江川明」


 明の名前も呼ばれた。ドキドキしながら卒業証書を受け取ったとき、ああ、自分は本当に卒業するのだと実感した。お母さん、私、卒業だよ。卒業、出来たよ。心の中で呟いた。


 そして、旅立ちの日にを歌う。卒業生たちの歌声が重なり、明は、今日で皆とお別れなのだと思うと、涙が自然と出てきた。他にも泣き出している人がいるのだろう、涙ぐんだ歌声も微かに聞こえた。退場するとき、主に女子が何人か泣いているのが明の目に入った。そんな明も、まだ泣いているのだが。


 教室に入り、里恵の様子を見ると、彼女もまた泣いていた。直史や、ナツキ、紀子も涙ぐんでいた。担任が「お前たちと過ごした三年間は忘れない」などと目を潤ませながら言うのを聞いたあとは、卒業アルバムをもらった。そして、校庭に出て写真を撮ることになっていた。移動中、里恵に、「ねえ、泣いてたでしょ」と言うと、「泣いてねーよ」と想像していた返事が返ってきた。


「何で卒業証書受け取るとき、私たちに向かってお辞儀したの?」


 明は里恵に訊いた。


「明や直史、ナツキ、紀子への感謝だよ」

「……」


 明は目頭が熱くなった。だから、


「全く、最後の最後で決まりを破るなんて里恵らしいんだから」


 と笑ってごまかした。


 校庭で写真撮影をしたあと、明たちのクラスは、皆で手を重ねて、


「このクラスは不滅だ!」


 と言った。本当に、お別れなんだ。里恵とも、直史とも、ナツキとも、紀子とも。このクラスで、一年間色々なことがあった。杉沢の酷い行い、由紀たちのいじめ、クボタの殺人未遂。ここは、里恵や直史と出会えた、大切な場所。


「ねえ、皆で、卒業アルバムに寄せ書きしよう」


 明が言うと、ナツキたちは明の卒業アルバムの余白に書いてくれた。


『ずぅっと、友達だよ。ありがとう ナツキ』

『大好きだよ、明。いつまでも仲良くしてね 紀子』


 明にとってはすごく嬉しい言葉だった。


「里恵は?」

「え、アタシも書くの?」

「当たり前」


 里恵は渋々といった様子でペンを走らせる。


『お金の切れ目は縁の切れ目 里恵』


「ちょっと、里恵ー!?」


 明は里恵を睨んだが、彼女は平然としていた。だからそこら中をくすぐってやった。里恵は「やめい! やめい!」と終始叫んでいた。


「じゃあ……また、連絡するから」

「私も」

「うん、待ってる」


 二人は明の方を振り返ったまま、少しずつ歩き出した。明は手を振る。めいっぱい振る。二人も手を振り返した。


「またなー!」


 里恵が言った。二人は笑顔を見せ、正面を向き、歩いていった。明は二人の背中が見えなくなるまで、動かなかった。また、泣いてしまっていた。


「さ、アタシたちの卒業式も始めますか」


 里恵が言った。

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