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15歳。  作者: 月森優月
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第80章 合格発表。

 ついに今日、合格発表の日が訪れた。どんよりとした雨雲は、敏感になった明の不安を掻き立てる。斐羅と一緒に結果発表を見に行くことにした。


「斐羅ちゃん、私、怖い」

「私も」


 高校の掲示板の前には沢山の人が集まっている。中には哀しそうに泣きながら携帯を持っている人もいた。お願い。受かっていて。

 掲示板に近付き、自分の受験番号を探す。


「……あった!」


 そう言ったのは斐羅だった。


「私、受かった」


 明はよかったねと言いたかったが、自分の番号を見つけるまでその言葉をかける余裕がない。必死に数字を目でなぞる。


「……あ」


 明は間抜けな声を出した。


「受かった……」


 明の受験番号は確かにそこに書いてあった。口にすると、にやりと笑みが零れてきた。


「よかった! やったね!」


 斐羅が明に抱きついてきた。明はその柔らかい身体を抱きしめた。やっと、苦労が実った。少し先の未来が決定した。嬉しくて、思わず泣いてしまいそうだった。


「里恵たちは、どうだろう」


 明が言うと、斐羅は少し不安な表情になって、


「結果を見たら屋上に集合するように約束してる。電話だけじゃ、落ちてた場合感情を伝えきれないから」


 そうか。明と斐羅はもう一度しっかり抱き合ったあと、自転車に乗った。


 屋上には直史がいた。


「あ、なおくん」

「おう」


 直史は笑っていたが、合格したからの笑顔なのか、落ちて哀しいのを誤魔化す為の笑顔なのか、明には判断がつかなかった。


「お前ら、どうだった?」

「受かったよ。二人とも」


 斐羅はにっこり笑って言ったあと、真顔になり、


「……なおくんは?」


 と訊いた。


「俺が落ちると思うか?」

「思う」

「江川、お前は里恵に毒されている。縁を切った方がいい」


 冗談を言っているところを見るともしかして……。


「受かっ、た?」

「勿論」


 直史が白い歯を見せた。すると斐羅は直史の肩に触れ、


「よかったね」


 と言った。


「あとは、今井か」

「里恵か……」


 そう話していると、屋上の扉が開いた。


「里恵!」


 近付いてくる里恵。目が赤い。明は最悪の結果を想像してしまった。


「……はは」


 突然里恵が笑い出す。


「受かっちまった!」


 里恵は大声で言った。直史と斐羅の顔が明るくなる。明は里恵の背中を叩き、


「さっすが!」


 と言った。


「お前らは?」

「受かったよ、全員」


 明がピースしながら言った。すると里恵は、


「やったぜ!」


 と言って皆とハイタッチした。皆が受かるという夢は、今、現実になった。新しい世界が、全員の前に広がっている。それは進むべき道への別れをも意味していたが、今の自分たちならそれを乗り越えていける、明はそう思っていた。


「今日は祝杯だ!」

「里恵、未成年未成年」


 斐羅が苦笑しながら突っ込みを入れる。普段通りのやり取りを見るのが、こんなに嬉しくて愛おしい。こんな時間がずっと続けばいいと明は思った。卒業後も、ずっと。




 学校へ行ってナツキと紀子に会った。ナツキの顔色は明らかに悪く、紀子は少し困ったような笑みを浮かべ、明に言った。


「私は受かったけど、ナツキは落ちちゃった」


 明は眉をひそめ、


「雨が降ったあとには虹が出るんだよ」


 とナツキを励ました。ナツキは微かに笑って、


「ありがと。明は?」


 と訊いてきた。


「受かったよ」

「よかったね」


 ナツキが力のない声で言う。彼女が立ち直るまで時間はかかるだろうが、出来る限り支えていきたいと明は思っていた。こんな自分でも元気を分けることが出来たらいいと。


「ナツキ、ごめんね、何か」


 紀子が言った。


「謝んないでよ。紀子、何も悪くないから。あーあ、二人とも羨ましいぞう」


 そう笑って言うナツキはどう見ても無理をしていそうで、明は、何も言わず彼女を抱きしめた。ナツキは静かに泣き出した。哀しいのは痛いほど分かる。ナツキの背中を撫でていたそのとき、明の頭に何かが触れた。


「こういうときの友達だろ」


 そう言った里恵は、明とナツキの頭の上に手を置いていた。


「ナツキもさ、明もさ、無理すんな。哀しいときは泣いたっていいし、嬉しいときは素直に喜んでいいんだよ」

「……ありがと、里恵」


 ナツキは微笑んだ。


「急がば回れ、だろ?」

「里恵、そんな学のある言葉知ってたんだ」


 紀子の言葉に、


「お前に呪いのチェーンメール送るわ」


 と言う里恵であった。


 こうして、明たちの受験と言う名の戦いが終わった。

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