第79章 受験。
斐羅が学校へ復帰出来たことを喜んでいるうちに、私立の高校の受験日が訪れた。明と直史は私立を滑り止めとして受験する。明は面接だけだったが、かなり緊張していた。
面接、開始。
「あなたは何故本校を受験しようと思ったのですか」
「えっと、在校生の方の明るい雰囲気と独自のカリキュラムに惹かれてです」
「中学時代、一番楽しかったことは何ですか」
「友達と過ごした放課後です。色々な事情を抱えている子もいましたが、今では前を向いて歩いています。最初は全然仲良くなかったのに、親友と呼べる仲になれてとても嬉しかったです」
勿論、里恵たちのことだ。
「あなたの将来の夢は何ですか」
それは考えてきていなかった。焦る明。
「あの、まだ……分からないんですけど、人の笑顔が見られたらいいなあ、なんて」
思っているままのことを口にした。自分は、人の笑顔を見るのが好き。どういう仕事があるのかは分からないけれど。他にも二、三質問されて面接は終わった。元スマイリーなだけに、スマイルは完璧だったと思う。
そして公立の高校受験が始まる前に、滑り止めの合否は出た。
合格。
明はとりあえずほっとした。直史も無事合格した。あとは、本命だ。
「皆、頑張ろうね」
公立高校の受験前日、明たち四人は手を重ねた。
「エイエイオー!」
里恵が言った。皆の思いは一緒だろう。全員、受かりますように。皆で幸せを掴みたい。笑って卒業を迎えたい。
当日。明は痛む胃を押さえながら川田総合高校へ斐羅と一緒に向かった。試験問題はやはり難しくて、でも、なるべく空欄を残さないようにした。斐羅は緊張からか終始真っ青な顔をしていたが、「学校、どう?」と訊くと「楽しめてるよ」と笑って言った。明の母親は斐羅が不登校から抜け出せたことで、付き合うことを許してくれた。もう、何も問題はない。あとは皆が合格すれば……。誰の泣き顔も見たくなかった。
長い一日が終わった。皆屋上に集まり、自分がした解答を言ってゆく。一番正解率が高いのは直史だろう。直史の解答と自分が書いた答えが違う度、明は落ち込んだ。でも、望みは捨てたくない。ここまで自分は頑張ってきた。努力はきっと無駄にならない。例え、落ちてしまったとしても。
「早く合格発表してほしいよ。アタシ、毎晩眠れなくなりそう」
「今井は大丈夫だろ。定時制なんて名前書けりゃいいだろ」
「あっ、今直史定時制馬鹿にしただろ! 里恵キーック」
「痛え! マジ痛え」
お尻を押さえる直史を見て明と斐羅は笑った。
「そういえば、直史と斐羅のご関係は今いかがなほどで?」
里恵がニヤニヤしながら訊く。
「別に、普通だよ」
「まさかまだ恋人同士になってない、とか言わないよな?」
「それは……」
「なってないのかよ! よし、直史。今コクれ」
「は!? 無理だろ」
斐羅は顔を赤くして俯いていた。
「和泉、早く告白しないと他の狼に取られちゃうかもよ? 斐羅ちゃんを」
「そうだそうだ」
「……分かったよ」
直史は半ばやけくそ気味に、
「安藤。好きだ。付き合って……下さい」
と言った。
「ありがとう……いいよ。私も好き。なおくんのこと」
「おー、両想い!」
里恵が拍手をしたので明も手を叩く。ほんの少しだけ、寂しくなりながら。
「私がこうやって学校に行けるようになったのも、笑えるのも、全部皆のおかげだよ。私、皆が大好き。ありがとう」
今度は里恵が顔を赤くした。
「あれ~? 里恵、顔が赤」
「だ・ま・れ」
明は里恵に口を塞がれてしまった。こんなじゃれあいがとても楽しい。ナツキと紀子ちゃんも受かればいいな。見上げた空は、雲一つない晴天だった。