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15歳。  作者: 月森優月
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第78章 『友達』。

 冬休みも終わり、学校が始まった。先生たちの行う授業も二学期より熱がこもっている気がする。明はひたすら勉強した。分からないところは直史に訊いて、里恵と勉強会もして。川田総合高校の合格可能性は七○%にまで跳ね上がっていた。里恵も、定時制の合格可能性六○%。直史は……九○%という数字を叩き出した。


「ナツキ、川総来なよ~」

「あっ、スマイリー市立川田の合格可能性が五○%だからって馬鹿にしてるでしょ!」

「ナツキは無理かもねえ」

「もうっ、紀子まで!」


 明たちはナツキをからかって遊んでいた。ふと、明は思った。これからも、私はスマイリーなのだろうか。


「ねえ、ナツキ、紀子ちゃん」

「ん?」「何?」

「私のこと、明って呼んでくれない?」


 二人は顔を見合わせ、


「いーぜよ☆ 明」

「めーい」


 と言った。自分は変われたんだ。他人に合わせてばかりの『スマイリー』から脱却出来たんだ。


「お前ら、いっつも楽しそうだな」

「あっ、今井さんも仲間に入りたいのぉ?」

「そ、そうじゃねえよ! あ、ちなみに」


 里恵は咳払いをしてから、


「アタシのことも、里恵って呼んでくれて構わないから」


 と言った。二人は了承した。四人でこんな風に話せるときが来るなんて、中三に上がったときには考えもしなかった。もうすぐ、皆別々になる。この楽しい記憶を焼き付けておこう。ストーブに手をかざすナツキ、カイロで何故か頬を温めている紀子、そしてスカートの丈もいつの間にか膝より少し下になった里恵を見て明は思った。




 斐羅の退院は、思ったより早かった。とは言っても私立受験日の五日前。


「皆、心配かけちゃってごめんね」

「斐羅ちゃん、もう大丈夫なの?」

「うん。私ね、明日学校行くよ」


 屋上で、晴れ渡った空を見ながら口にする斐羅。明は不安だった。でも、彼女を信じてみよう。そう思ったのだ。




 次の日。斐羅は、扉に手をかけた。学校への入口。自分が、不登校から抜け出す為の入口。まだ朝早く、生徒の姿は見えない。――まずは、先生に挨拶しなきゃな。ゆっくりと、門を開ける。ギィィという音が辺りに響いた。白い息を吐きながら、門の向こうに足を踏み入れる。大丈夫。私は、一人じゃない。変わるんだ。絶対に。

 そこから先の行動は早かった。急ぎ足で校舎に入り、上履きに履き替えて。まっすぐ、職員室へと向かった。途中、誰ともすれ違わなかった。


「おはようございます」


 そう言うと、教師皆が斐羅の方を向く。その中に、担任の姿があった。


「おお、安藤」


 こんなに嬉しそうな先生の顔を見たことがなかった。斐羅は少したじろぎつつも、


「私、戦いました」


 と言った。


「ああ、よくやったよ安藤は。怪我はもういいのか?」

「はい。ありがとうございます。そして、迷惑かけてすみませんでした」


 ぺこりと頭を下げる。


「いいんだよ。実はな、安藤が来ることは知ってたんだ。昨日、お母さんから電話があってな。だから、私はクラスの皆に伝えた」


 そんなことしなくていいのに、と思ってしまった。


「教室へ行ってご覧」


 とりあえず先生の言うとおり、教室へ向かう。そして、運命の戸を開ける。




「おはよう、斐羅ちゃん」




 そこには、三人の女の子がいた。そう、私の、友達、だった人。だった人……のはずだった。


 なのに、何故彼女たちは自分に笑顔で挨拶している?


「どういう……こと?」

「うちら、謝りたくて」

「え?」

「野崎ジェシカのことでしょ? 斐羅ちゃんが来られなくなった理由。うちらも酷いことしたな、って反省したんだ。ジェシカにも、斐羅ちゃんにも」


 斐羅は信じられなかった。自分の名前を呼んでいる。反省という言葉を口にしている。


「本当……なの?」

「聞いたよ。ジェシカは今友達も出来て上手くやってるって。うちら、もうジェシカに合わせる顔がないから謝ることは出来ないけど、でも、斐羅ちゃんになら謝れる。ごめんね。そして、私たちのことを想ってくれてありがとう」


 斐羅はそこから動けなかった。でも、頬を液体が流れ落ちるのは感じた。


「うちらも変わったんだよ」


 そう言って彼女たちは、斐羅に抱きつく。そうか、変わろうとしていたのは自分だけじゃなかったんだ。人は過ちを犯し、後悔し、そこから学ぶ生き物なのかもしれない。斐羅はただ、二年ぶりの『友達』の温もりが気持ちよすぎて、嗚咽を上げるしかなかった。

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