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15歳。  作者: 月森優月
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第76章 孤独な戦い。

 受験勉強は自分自身との孤独な戦い、だと担任が言っていた。そんなの違う、私には里恵たちがいるもん、と明は思っていたが、受験勉強を進めるうちに、担任の言っていた意味が分かってきた気がした。受験勉強は、難しい問題を解くのが大変な訳じゃない。継続だ。持久走と同じなのだ。何度も教科書を読み、何問も問題を解き、それを何ヶ月も繰り返す。それは果てしなく大変な作業だった。

 段々問題が難しくなってゆき、解けないものが増えていって明は、こんなんで、志望校へ受かるのだろうかと考えるようになった。


 ある夜、不安が爆発しそうになって里恵に電話した。体育座りをして、電話機のコードを指で弄んでいると、里恵が、


「もしもし」


 と出た。


「里恵、私、駄目かもしれない」

「何だよ、突然。何があった?」

「このままじゃ、私、川総に受からないかもしれない。勉強しても勉強しても、不安が募るばかりだよ……」


 自分は何でこんなに情けない声を出しているのだろうか。自信のない自身。そんなに弱気になって馬鹿じゃねえかって、笑い飛ばしてくれればいい。

 しかし、受話器から聞こえてきた言葉は想像もしていないものだった。


「アタシだって、不安だよ」


 それは小さい声だった。


「え?」

「明は、滑り止め受けるんだろ? 直史だって浦高以外にべらぼうに頭がいい私立も受ける。でも、アタシは滑り止めを受けられないんだ。私立なんて行きたくないからな。斐羅は川総一本だけど、あの子の学力じゃ確実に受かるだろう。アタシだけなんだよ、天国に行けるか地獄に堕ちるか分からないのは」

「……」

「やっぱりアタシなんかカウンセラーになれないのかな」

「大丈夫だよ、里恵」


 それは根拠のない励ましでしかなかった。こんな風に上辺臭いことはもう言わないって決めていたのに。明は立ち上がり、こう言った。


「皆、里恵も斐羅ちゃんも和泉も夢を持っている。なら、頑張れるよ。頑張れば、結果は必ず付いてくる。里恵は、大丈夫」


 今思い付いた言葉だった。これで里恵をごまかせるだろうか? ストーブがピーピー鳴った。私の家のストーブは、火災事故防止に、三時間使用し続けると音が鳴るのだ。ボタンを押さないとまた鳴ってしまい、終いには火が消えてしまう。


「明は?」

「え?」

「夢」

「私にはないな」


 そう言って笑ってみせた。内心では夢を持つ皆に囲まれ焦っているというのに。


「明も見つけようぜ、夢。そして、皆で頑張ろうぜ」

「でも、どうやって見つければいいの?」

「それは分からないけど」

「考えてよー」

「無理無理」


 里恵の笑い声が聞こえる。ああ、いつもの里恵に戻っている。明は安堵した。


「勉強すると、将来の選択肢が広がるぞ」

「え、里恵からそんな言葉が出てくるなんて」

「アタシもたまには真面目なこと言うんだよ」

「……頑張ろっか」

「ああ」


 結局は里恵に元気づけられている。受験勉強は孤独な戦い、でも辛いのは自分だけじゃない。そう思うと少しだけ気が楽になった。

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