表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15歳。  作者: 月森優月
75/83

第75章 立派な子。

 今日はいよいよ、里恵が家に来る日だ。明のいるマンションはこの辺りでは一番高いので、口で説明しただけで里恵は場所を分かってくれた。

 インターフォンが鳴る。


「はい」

「アタシ」

「分かった。今開ける」


 マンションの入口のドアの開ける。これから、里恵が来る。どうか、好印象でありますように。ドアがノックされた。明が出ようとすると、母親が、


「私が出るわ」


 と言って玄関に向かってしまった。明も慌ててあとを追う。


「あら、いらっしゃい」

「初めまして、今井里恵です」


 里恵がぺこりと頭を下げるのが目に入った。


「噂は聞いているわ」


 母親の言葉には悪意を感じた。


「あはは、そうですか」


 里恵は笑っていたが、母親の言葉の深意は分かっているだろう。


「上がって」

「ありがとうございます、お邪魔します」


 里恵は靴を脱ぎ、几帳面に揃えた。


「私、ちょっと今井さんとお話ししたいの。リビングへ来てくれる」

「はい」


 里恵は私の顔を見ると「よっ」と手を上げ、脇をすり抜けてリビングへ向かった。明もあとへ続く。


「今井さん、耳に穴あけてるでしょう」


 母親がソファに座るなり言った。確かに、髪の間からちらりと覗く耳たぶには穴があいている。


「ああ、前はピアスしていたので」

「穴をあけるのは校則違反でしょ?」


 全く、お母さんは人のあらをつくのが得意だ。明はため息を吐いた。


「アタシ、不真面目でしたから」


 里恵はそう言って笑ったあと、真顔になり、


「でも、今は違います」


 と口にした。


「髪、黒くしました。学校にもちゃんと行くようになりました」


 確かに、十二月に里恵は一度も学校を休まなかった。


「中身はどうなの? 変わったの?」

「明が、アタシを変えさせてくれました」

「明が?」

「はい。明は凄い子ですよ。他人のことを思いやる、優しい女の子です」


 里恵はいつだって素直だ。決してお世辞なんかではないだろう。明は照れてしまった。


「私、優しくなんかなかった。他人に合わせて、ただ、皆に嫌われるのが怖かっただけ」


 と言う明。


「それだけ、明は人を好きなんだよ」


 里恵が言った。里恵の、何でもポジティブに捉えるところが明は好きだ。


「お母さん。私が変わった一番の理由は、里恵と出会ったからなんだよ」

「どうして変われたの?」


 母親が問う。


「里恵の他人に媚びないところ。自分をしっかり持っているところ。里恵は私の憧れの存在なの」


 明の言葉に母親は黙り、何かを考え込んでいる様子だった。


「アタシ、高校生になったら勉強頑張ります。規則も守ります。そして、将来カウンセラーになるんです」


 人は夢を語るとき、真剣な顔になるのだと、里恵、斐羅、直史を見て思った。


「ごめんなさい、今井さん」


 母親は突然謝った。


「私、誤解してたわ。今だけの快楽を求め、格好つけて非行を繰り返している人だと思ってた。そうじゃなかったのね」

「アタシは、明と一生付き合っていきたいんです。明は、大切な親友だから」


 里恵にまで親友と言われて、明は嬉しかった。こんなに、自分を大切に思ってくれている人がいる。自分は、幸せ者なんだ。


「もういいわ。今井さん、明の部屋はリビング出て右だから先に入ってて」

「分かりました」


 里恵がそう言ってリビングを出て行ったあと、母親が口を開いた。


「明、これからも今井さんに付き合ってもらいなさい」

「……いいの?」

「彼女は、立派な子だわ」


 母親は、里恵を認めてくれた。明は満面の笑みを浮かべ、


「お母さん、ありがとう!」


 と言った。あとは斐羅が学校に行けるようになるのを、勉強を頑張りつつ祈るばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ