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15歳。  作者: 月森優月
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第73章 二人がいるから。

 今冬は平年より寒いと天気予報で聞いた。明日から冬休みだ。もうすぐ今年も終わる。

 里恵の席に座ったのが、最初誰だか分からなかった。


「え……里恵!?」

「何だよ」


 髪をショートに切り、真っ黒にしている。


「どうしちゃったの」

「別にいいだろ。アタシがどんな髪型したって」

「いや、そういう意味じゃなくて」


 ナツキと紀子も里恵の周りに寄ってきた。


「今井さん、可愛いー」

「似合ってるね」


 里恵は頭を掻いて俯いたが、顔が赤くっているのが目に入った。


「あ、受験だから?」


 明が言うと、


「ま、それもあるけど……低レベルな自己主張はやめようと思ってな」

「里恵……」


 明は里恵の言った言葉に驚いた。変わったなあ、と思った。


「そういう里恵、好き」

「断る。アタシはレズじゃない」

「馬鹿! そういう意味じゃないから」


 明たちが笑いに包まれる中、直史が登校してきた。


「和泉ー、スマイリーから他の子に乗り換えたんだって? 女泣かせな奴ぅ」


 ナツキが直史の肩を叩いた。ナツキと紀子には事情を話してある。冗談めかして言ってくれて、重い空気にならずに済みそうだ。


「でも、江川と一緒に二人で歩いたこと、俺は一生忘れないよ」


 明は気恥ずかしい気持ちになった。


「今井、墨汁でも被ったのか?」

「酷えなー」


 直史は里恵の頭をわしゃわしゃと触った。その仕草には『偉いな』の意味も込められているように思えた。


「二人は市立川田行くんだろ?」


 里恵がナツキと紀子に訊いた。


「うん」

「うちは多分落ちるけど」


 ナツキが苦笑いを浮かべた。


「でも、受かるといいな。高校が別々になっても、お前ら、明のこと忘れんなよ」

「勿論! 高校別々になっても遊ぼうね、スマイリー」

「また三人でお喋りしよう」

「うん、ありがとう」


 こんな風に言ってもらえて、自分は幸せだ。里恵を交えて皆で会話出来るようになったのは、大きな進歩だ。


「和泉、斐羅ちゃんを幸せにね」


 斐羅のことを知っている紀子が言った。直史は「ああ」とだけ言った。チャイムが鳴り、明たちは席に着いた。




 今日から冬休み。起きて朝食を済ませた明が始めにやったことは、勉強だった。斐羅と同じ学校に行きたい。母親を喜ばせたい。川総は総合学科だ。自分の好きなこと、やりたいことに合わせて学習出来る学科だ。自分のやりたいことはなんだろう。それは分からないままだった。


「明、最近頑張ってるわね」


 部屋を覗きに来た母親が言った。


「友達と一緒の高校に行くっていう目標が出来たから」

「理由は何にしろ、頑張るのはいいことだわ」


 めったに褒めてくれない母親が褒めてくれて、明は嬉しかった。頑張ると、周りが変わる。世界が変わる。それは明が味わったことのない快感だった。


「でも、今井さんや安藤さんと付き合っているのは感心出来ないわね」

「……え?」


 問題を解く手が止まった。母親を見上げる。


「今井さんって不良なんでしょう? そして安藤さんって子は不登校。周りのお母さんたちに訊いて知ったわ。あんな事件に巻き込まれたのだって、あんな人たちと付き合っていたからじゃないの」

「里恵と斐羅ちゃんは何も悪くないよ!」


 明は大声を出した。


「お母さん、何も分かってない。私が今頑張れるのも、笑顔でいられるのも、二人がいるからなんだよ。表面的なことだけ見て決め付けないでよ。二人は、大切な友達だよ」


 明の感情は高ぶっていた。二人をそんな風に言われたことに頭にきていた。


「……じゃあ、二人を一度うちに呼びなさい。お母さんが判定してあげるから」

「望むところだよ」


 実際に会ったら、里恵と斐羅は悪い人じゃないって分かってくれるはずだ。


「でも、斐羅ちゃんはあと一ヶ月近くは入院だよ」

「なら、一緒にお見舞いに行きましょう。お母さんならちょっと話せばすぐに分かるから」


 いつからそんな凄い人間になったんだよ、と思いつつ、明は了承した。

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