表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15歳。  作者: 月森優月
7/83

第7章 小さなシャープペンシル。


「…何?」

「放課後、あいてるか」


 掃除の時間。辺りには誰もいない、二人きりだ。明は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、


「えっ、もしやあれ? よく少女漫画で見る、『放課後、中庭に来てください』とかいう……」

「馬鹿、違うに決まってるだろ。大事な話があるんだよ」


 直史は呆れた様子で笑った。


「だから大事な話っていうのは……」


 にらまれた。冗談が過ぎたと思い、明は口を閉じる。

 

「部活、何入っているんだっけ」

「吹奏楽」

「悪いけど今日は休んでくれ」

「ええー」


 明は不服の声を上げた。だって、コンクールが近かったのだ。引退前の、最後のコンクール。だから少しでも多く練習をしておきたかったのに。


「部活終わってからじゃ遅くなるし、人も多いから変な噂立てられたら困るだろ。それに――今井の話なんだ」


 はっとして直史の顔を見た。いつもより真剣な顔、そして里恵の話。明は首を縦に振った。


 放課後、直史の数メートル後を明は歩いていた。校舎の中で二人きりだと、もし同級生に目撃されたら誤解を生んでしまう。なのでとりあえず公園で話そうと言うことになった。


「ねえ、まだ?」


 直史の背中に声をかけた。もう十分以上歩いているような気がする。


「ここを右に曲がればすぐだよ。――ほら、見えてきた」


 ブランコとジャングルジム程度の遊具しか置いていない、小さな公園が少し先にあった。


「ちっちゃ! てか、誰もいないじゃん」

「穴場だぜ。独りになりたい時とかに使えるし」


 そう笑って公園に入ってゆく直史に、明も続く。


「ブランコに乗るの久しぶりだなあ」


 地面を蹴り、少しだけこいでみる。手に握る鎖はひんやりとしていた。直史は隣のブランコに座り、雲一つない空を仰いでいる。


「で、今井さんの話って?」


 彼の方を向く。少しの間、沈黙があった。


「……杉沢の事故、あっただろ。それで、俺見に行ったじゃん」


 明はうなずいた。


「それで、そこに……これが落ちていたんだよ」


 おもむろにブレザーのポケットから何かを取り出した。明に見えるよう、ゆっくりと手を開く。




 手に握られていたのは、動物の足跡の絵がプリントされた、小さなシャープペンシルだった。




「シャーペン……だよねえ」


 十センチメートルくらいの、持ち歩きが便利そうな黄色を基調としたシャーペン。いかにも女の子が好みそうなものだ。


「これ、今井の物なんだ」


 ぎょっとした。どうしてそんな物が落ちているのだろうか。


「何で、今井さんの物だって言い切れるの?」


 心の底では里恵のことを怪訝に思っているのに、いざ真実を知るのは怖かった。心に重いものがのしかかる。


「見たことがあるんだよ。あいつが持っていたの。ほら、そういうの使ってる女子は少ないから、印象に残ってた」


 直史は早口で説明した。


「とりあえず、返しに行こうと思う」

「え、今井さんに、」


 驚いて言ったので途中でせき込んだ。直史はブランコから立ち上がり、前を向いて言った。


「このままだと、あらぬ疑いまで持ってしまう。だから、本人に真相を確かめるのが一番良いと思うんだ」


 和泉は、今井さんを一人の人間として気にしているんだ、と明は少し感動した。自分は彼女を疑うばかりで、何もしようと思わなかった。


「そうだよね。……私もついていっていい?」


 言ってから恥ずかしくなった。自分は直史と親しい間柄ではない。その点、里恵と直史は幼なじみだ。なのに、ついていっていい? だなんて何を考えているのだ。しかし彼は振り向いて言う。


「もちろん。その為に、江川にこの話をしたんだ」


 名前を呼ばれて明の顔の赤みが増した。直史は男子なんだ、今更らしく意識する。


「何で、私だったの?」

「そりゃあ、友達には言えないし、他の女子には疎まれているだろ?」


 確かにそうだ。


「じゃあ、ここから歩いて二、三分だから」


 そして直史は歩き出す。明はジャンプしてブランコから飛び下り、彼の背中を追いかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ