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15歳。  作者: 月森優月
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第64章 サン……キュ。

「ショック状態……」

「め……」


 里恵の口から言葉が漏れた。


「何?」

「ご……め」


 ごめん、と言いたいのだろうか。明は微笑んで、


「里恵が助かって良かったよ」


 と言った。


「今井、もう終わったんだ」


 担任が言った。


「辛い思いをさせて悪かった。でも、もう大丈夫だからな」

「信じ……て……た」


 里恵が途切れ途切れに言う。


「杉沢……こと……信じ……て……た」

「もう杉沢のことは忘れろよ」


 直史が言った。そして、こう続けた。


「お前が杉沢と付き合っていたことくらい、知っているんだよ」


 直史は知っていたのか。生ぬるい風がカーテンを揺らした。


「アタ……シ、田淵たちに……襲わ……れたん……だ」


 里恵が告白した。そのことを知らない直史は驚いた顔をした。


「マジかよ……」


 そう言って唇を噛む。


「怖くて……。ここにいた……ら……殺され……る」

「今井、もうあいつらは逮捕された。大丈夫だ」


 担任が里恵の肩を持って言ったが、里恵は首を振って、


「仲間……に……殺される……殺……される」


 里恵の身体は震えていた。気の強い里恵がこんなに怯えているなんて……。明はいたたまれない気持ちになった。


「大丈夫。私が、里恵を守るから」


 そう言ったのは斐羅だった。


「私も守るよ。里恵のこと」


 明もそう言った。


「今井は一人じゃねえんだぞ」


 と、直史。


「今井、こんなに守ってくれるという友達がいて幸せじゃないか。先生たちだって、全力でお前を守る。だから、安心しろ」


 担任がこんなに頼もしい存在だったなんて知らなかった。


「先……生」

「何だ?」

「サン……キュ」

「こういうときはちゃんとありがとうと言うんだぞ」


 そう言いながらも担任は照れくさそうに笑った。


「江川も疲れたろ? 今日はゆっくり休めよ」


 病院を出てからの別れ際、直史が言った。


「うん。和泉もね」

「ああ」

「なおくん、ごめんね。その……里恵と本村くんのこと、黙ってて」

「気にすんな」


 そう言って直史は自転車で帰っていった。


「じゃあ、私も帰るね」

「うん。気を付けてね」

「明ちゃんもね」


 斐羅も帰っていった。明は一人、すっかり暗くなった空を見上げて深呼吸をした。


「もう、終わったんだ」


 そう、もう終わったんだ。田淵たちの仲間もどうせ捕まるだろう、と担任は言っていた。もう怯える必要はない。大丈夫。あとは、里恵が精神的にも肉体的にも回復するのを待つだけだ。


「頑張れよ、里恵」


 そう呟いて、明は帰路についた。




 一週間後、里恵が登校してきた。杉沢と里恵の噂が立てられることもなく、学校は平和だった。やはり杉沢たちは薬をやっていた。その件で多くの杉沢の仲間が逮捕された。


「今井さん」


 ナツキが声をかけた。


「何?」

「良かったら、うちらのグループに入らない」


 里恵は一瞬目を丸くしたあと、笑って、


「よせよ。今更、入れねーよ。それに、アタシは単独行動の方が好きなんだ」

「でも、入りたくなったらいつでも言ってね」


 と、紀子。二人の優しさに明は嬉しくなって、


「私は里恵の友達だから」


 と言って里恵の手を握った。ナツキと紀子がトイレに行っているとき、


「もう……大丈夫なの?」


 と尋ねると、里恵は、


「大丈夫にならなきゃいけねえもん」


 と言って、少し哀しげに笑った。


「辛かったら、いつでも言ってね」

「ああ。サンキュ」




 放課後、一週間ぶりに皆が集まった。


「なんで和泉までいるの?」


 明が訊くと、


「別にいいだろ」


 と直史が言った。やっぱり、里恵のことが心配なのだろうか。


「里恵、本当にごめんね。元はといえば私のせいだよね」


 斐羅が言った。


「だから、斐羅のせいなんかじゃないって」

「そうだよ」


 元をただせば自分のせいだから。自分が杉沢たちの話を聞かなければ、あんなことにはならなかっただろう。


「もう、恋愛はこりごりだな」


 里恵が笑って言った。しかし、その瞳は哀しみの色を帯びていた。乱暴されたショックもあるだろうが、好きな人に裏切られた辛さもあるんだろうな。


「今井のことすら守れなかったなんて、男失格だよな」


 直史が言った。


「今井があいつと付き合っていることに気付いた時点で、あいつをぶん殴ってでも別れさせるべきだったんだ」

「直史、そんなことしたらお前がボコボコにされてただろうよ」


 里恵が言った。


「それでも引き離すべきだったんだ。幼なじみなんだから」

「例えアタシが殴られても、アタシの目は覚めなかったよ。杉沢の証言を得ない限り」


 そうかもしれない。それほど、里恵は杉沢のことが好きだったのだろう。


「でも……守りたかったよ」

「なおくんはやっぱり優しいね」


 斐羅が言った。


「そんなことねえよ」

「アタシ、そろそろ帰るわ。帰りが遅いと親が心配するし」


 里恵の言葉で解散となった。エレベーターに乗っているとき、直史が、


「江川は大丈夫なのか?」


 と訊いてきた。


「えっ、何が?」

「江川も色々と疲れたろ。矢野とも嫌々付き合ってたんだろ?」

「あー……。私は大丈夫だよ」


 笑顔でそう返す。


「あんまり、無理すんなよ」


 直史の言葉が、素直に嬉しかった。


「また、明日からは来れなくなりそうだから、江川、安藤、今井をよろしくな」

「うん」

「オッケー」


 マンションを出てから、斐羅が言った。


「なおくんって、里恵のこと好きなのかな」


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