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15歳。  作者: 月森優月
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第61章 助けるから。

 その日、屋上に行くと久しぶりに里恵がいた。


「あ」

「よっ」


 ぎこちなく手を上げる里恵。


「今日は、暇なの?」

「ああ。矢野たちと遊ぶって」


 矢野、という言葉に明が反応する。良かった、どうやら里恵は気付かなかったようだ。


「あ、明ちゃん」


 斐羅が缶ジュースを持って屋上に現れた。


「来てたんだ」

「うん」

「明ちゃんも何か飲む? ジュース買ってくるよ」

「あ、大丈夫」

「そう?」


 斐羅は里恵にジュースを渡し、自分のジュースのフタを開けた。


「これホットココアじゃんか」

「それしかなかったの。しょうがないでしょ」

「里恵、ホットココア苦手なの?」

「そう。アイスココアは飲む癖に」


 斐羅が代わりに答えた。


「じゃあ、冷ましてから飲めばいいじゃん」

「夏だもん、なかなか冷めねえよ」


 里恵は仕方ないというふうにホットココアを飲んだ。そして、気まずい沈黙。杉沢のことが頭をよぎる。


「ごめんね……私のせいだよね」


 斐羅も同じことを考えていたらしい、そう言ってうつむいた。


「何度もいうけど、斐羅のせいじゃないから」


 里恵が言った。


「でも……」

「絶対に斐羅のせいなんかじゃない」


 里恵の語尾が強くなる。


「私が、里恵を助けるから」


 気が付くと明はそう口にしていた。


「助けるから。絶対」

「明は何もしなくていいんだよ……」


 里恵のか細い声。救ってみせる。絶対。明はそう心に誓っていた。




 矢野と付き合って二週間。初めて彼と一緒に帰った。繋ぎたくない手を繋いで。別れ道にさしかかったところでキスをされた。ファーストキスをこんな形で迎えることになるなんて、思ってもみなかった。本当は好きな人としたかった。そう思うと泣きたくなった。でも、ここでくじけちゃいけない。全ては里恵の為……。


「じゃ、バイバイ矢野」

「あ、待て、江川」

「何?」

「明日杉沢たちと遊ぶんだけど、江川もどうだ」


 それをずっと待ちわびていたのだ。明は「行く行く!」と即答した。


「じゃあ、放課後昇降口で。またな」


 矢野の背中が見えなくなった頃、明は「よっしゃ!」と言った。




 次の日、昇降口で待っていると矢野とその仲間が来た。杉沢も一緒だ。


「え、矢野の彼女ってお前だったの?」


 杉沢は驚いた様子だった。


「そ。俺たちラブラブだもんな?」

「うん」


 は、誰が。表情に出さないようにして頷く。


「今日はどこで遊ぶ?」

「俺んちで飲むか?」


 違う、自分が望んでいるのは薬をやることだ。明はそう思ったが口には出せなかった。


「じゃ、杉沢んちで飲もうぜ。あ、江川酒飲める?」

「飲んだことない……」

「そっかそっか」


 そして明は矢野たちと杉沢の家に行った。我慢して明は酒に口を運ぶ。不味い。杉沢は缶ビールを飲んでいた。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。


「あ、田淵だ」


 え、田淵? 杉沢が転落した元凶の?


「あれ、何で江川がいんの」

「俺の彼女なんだ」


 矢野が言ったが、その声は明の耳には届いていなかった。どうして、田淵が?


「ねえ、杉沢。ちょっと来て」


 明は廊下に杉沢を呼んだ。


「何だよ」

「どうして田淵が来たの? だって田淵って里恵を脅したんでしょ?」

「仲直りしたんだよ」

「ふうん……」


 何だか腑に落ちない気もしたが、とりあえず頷いた。部屋に戻ると、酔った矢野が突然胸を触ってきた。


「嫌!」


 矢野の手をなぎ払う。


「俺の彼女だろ? いいだろ」

「止めて!」


 通学バッグで矢野の顔を殴った。矢野は痛ぇ、と言うと細い目で明をにらんだ。明は怖くなった。私、こんなところで何してるんだろう。薬もやっていないのだから、もうここにいる意味はない。でも、矢野とは付き合っていないと杉沢との接点を失ってしまう……。


「お前ら、セックスしちまえよ。俺ら観客になるから」


 田淵が言った。


「おお、それいいな」


 と、杉沢。矢野はにやりと笑って、


「江川。やるぞ」


 と言った。


「嫌! 絶対嫌!」


 そう言って明は部屋を飛び出し、玄関のドアを開けて杉沢の家から出た。後ろを振り返らずに走る。杉沢の家が見えなくなったところで、足の力が一気に抜けてその場に座り込んだ。怖かった。いくら何でも、性行為なんて出来るはずがない。もう矢野とは付き合えない。


「ごめん、里恵……」


 これで里恵を救う方法がなくなった。途方に暮れた明が行く先は、一つしかなかった。

ノクターンノベルズに、「15歳。~里恵の初体験~」を載せました。


http://nkx.syosetu.com/n2196t/


※18歳未満閲覧禁止です。

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