第6章 青ざめた顔。
ナツキは詳しいことを聞き出す為に人だかりに寄っていった。明はもう一度窓の下を見る。
正直、杉沢のことは好きではなかった。問題はよく起こすし、口も悪いし――同じクラスになったのは初めてだった。
なのに、苦しい。
本当は良いところもあったのではないかとか、そんなことを考え始め、いやいやまだ死んでいるとは限らないぞと思い直す。その内何故か気持ちが悪くなってきて、人のいない所に行けば少しは落ち着くのではないかと思い、トイレへ行くことにした。
うつむいたまま人だかりの横を過ぎ去り、しばらく進むと左側にぽっかりと空いた二つの空間があった。女子トイレ、と書かれた方へ入ろうとする。しかし、明の歩みは入り口で止まった。トイレの中にある手洗い所にある誰かの影。手に水をくみ、顔を洗っている。明は隠れるように入り口からその様子を窺った。心臓が高鳴っているのが自分でも分かる。
その誰かは頭上にある棚へ手を伸ばし、新品のトイレットペーパーを取り出した。そして何ロールか手に巻き取ると、ブレザーを強くこすり始める。使ったトイレットペーパーは紅く染まっていた。明の顔がこわばる。新しくトイレットペーパーを巻き取り、次はスカートの裾を持って拭きだした。やはり紅くなっている。そして、汚れたそれらを流そうとトイレの個室まで歩いてゆく。
その際、顔が見えた。
真っ青な顔色をした彼女。
うつろな目で、明の姿に気付いていないところからして周りが見えていないようだ。耳元で心臓の鼓動が聞こえる。見てはいけないものを見てしまった気がした。浴びていた血は、きっと杉沢のものだろう。事が起きたとき現場にいた者でなければ、制服に血が付着するはずがない。それは、何を意味するのか。
明は大きく息をはいた。ナツキの元へ戻ろう。とにかく、人がいる所へ。何も考えたらいけない。そう思い、明はきびすを返した。
トイレには、今井里恵だけが残された。
杉沢は生きていた。複雑骨折などで全治四ヶ月の怪我を負い、しばらくの間入院することになったがそれでも命に別状がないだけましだった。打ち所が悪くなかったことと、彼の身体の柔らかさが幸いしたらしい。何故、あんなことになったのか。大体のことを明は耳にしていた。
『何か他の男子とふざけて遊んでいたら、あんなことになっちゃったらしいよ』
しかし明は納得がいかなかった。話の中に里恵の名前は全く出てこない。しかし、あれ以来彼女が学校に出てこないのが気にかかった。いつものことだと皆は思い特に気にしていないみたいだが、トイレでの彼女の青ざめた顔が頭から離れない。――今井さん、どうしているだろう。そんな矢先だった、直史が話しかけてきたのは。