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15歳。  作者: 月森優月
58/83

第58章 出歯亀。

「!?」

「え、江川……!?」


 里恵は胸を隠し、信じられないと言った様子で明を見ていた。


「お前、何でここに……」

「聞いちゃったの。体育館倉庫での里恵とあんたの会話を」

「め、い……」

「それだけじゃない。ここで今みたいなことしているのも見た」


 里恵が身体を起こした。顔が赤くなっている。衣服をちゃんと身に着けると、


「……杉沢、どいて」


 と言った。杉沢もズボンを履き、


「まさか、見られてたとはな」


 と言って口を歪ませた。


「杉沢のせいで、里恵がどれだけ辛い思いをしているか知ってるの! あんたさえ……あんたさえいなければ……」

「お前、何言ってんの? 俺と里恵は付き合ってんの。付き合ってる男女がセックスして何が悪い?」

「とぼけないで。ちゃんと聞いたんだから。クボタのいじめを止める為に里恵が嫌々身体を差し出してるって」

「へっ、知らねえな」

「止めてくれなければ、先生に言うから。クボタをいじめていたこと」

「止めなきゃいけないことなんて何にもねえよ。な、里恵」


 杉沢が里恵の肩に手を回す。里恵は目を伏せながら、


「……そうだよ」


 と言った。


「里恵!」

「辛いことなんて一つもない。アタシは、杉沢が好きなんだから」

「こんな奴のこと、本当に好きなの? クボタをいじめて、斐羅ちゃんを中傷して。こんな奴が本当に好きなの?」

「ああ、そういえば安藤とこの前会ったな。相変わらずキモかったなー」

「杉沢、もう斐羅のことは悪く言わないって約束だろ!」

「そう、杉沢は斐羅ちゃんのことを酷く言わない代わりに、里恵の身体を無理やり奪ったんだ」


 ここまで言って、自分は大変な失言をしたことに気が付いた。

 今、斐羅ちゃんいるんだった。

 自分の為に里恵がこんな思いをしていると知られてしまった……。明は前髪をかき上げて頭を抱えた。


「そんな事実はない」


 里恵が言った。


「嘘!」

「明に危ない思いはしてほしくないんだよ。この意味、分かるだろ?」


 杉沢を敵に回したら身に危険が及ぶということか。


「もう、誰にも辛い思いはしてほしくないんだよ……」

「あなたが辛い思いをしてるじゃない」


 斐羅が茂みから出てきてそう言った。里恵の身体の動きが止まった。杉沢は笑みを浮かべて、


「まさか出歯亀が二人もいるとはな」


 と言った。


「里恵、ごめんね」

「……何で斐羅が」


 今の里恵にはこれだけ言うのが精一杯といった様子だ。


「私のせいだったんだね。里恵が辛い思いをしてるの。ごめんね、本当に……」


 斐羅の目は真っ赤だった。


「違う……。アタシだよ」


 里恵は立ち上がり、斐羅の前に立つと目を伏せて言った。


「謝らなきゃいけないのはアタシの方……。斐羅の気持ち、知ってたのに」

「何言ってるの。里恵が謝る必要なんてない」

「お前、まだ俺のこと好きだったのかよ。俺ってやっぱもてるなー。まあ、こんな奴に好かれたって困るけど」

「本村くん」

「その呼ばれ方、久しぶりぃ」

「昔、クラスメイトのお金がなくなって、私が万引きしていることを知っていた先生が自分を疑ったとき、本村くん、必死でかばってくれたよね? なくなったお金は自分が払ってもいいから、安藤さんのことは信じてくれって。私、嬉しかった。そんな本村くんの優しさは今でもどこかに残っているはず。だから、もう誰かを苦しませるようなことは……」

「もうクボタはいじめねえよ。里恵さえいればいいさ」


 杉沢が里恵の肩に手を置く。明がその手をパシンと叩いた。


「何すんだよ!」

「里恵に触れないで。別れてよ、このままじゃ里恵が……」

「いいんだ、明」


 里恵が明の方を見た。


「アタシ、杉沢とは別れたくないんだよ」

「どうして!」

「……気付いたら、後戻り出来ないくらい好きになっちゃってたんだよ」


 そう言って悲しそうに笑った。空が赤く染まり、さっきまで鳴いていた蝉の声が聞こえなくなっていた。

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