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15歳。  作者: 月森優月
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第57章 名探偵。

 明の言葉を聞くと斐羅は目を見開いて、


「里恵が……無理やり……?」


 と言った。


「うん……」

「里恵が言ったの?」

「ううん。たまたま見ちゃって」

「どういう光景を?」

「え?」


 まさか、そんなことを訊かれるとは思っていなかったので明は困惑した。


「一緒にいるだけじゃ、付き合ってるだなんて分からないでしょ?」

「それはその……そう、手! 手を繋いで街の中を歩いてたの!」

「ふうん……。無理やりだってのは何で分かったの?」

「会話だよ。『付き合ってやるから、クボタをいじめないでくれってお前から言ったんだろ?』って杉沢が言ってた」

「……」


 斐羅はあごを触って何やら考え事をしている様子だった。


「それで今いじめは止まってるんだけど、里恵が可哀想で。どうしたらいいのかな? 先生にいじめのことをチクって里恵がもっと酷い目に遭ったら嫌だし」

「……逆の方法をとればいいんじゃないかな?」

「逆?」

「そのクボタって人のことをいじめていたことを先生や親にバラされたくなければ、里恵と別れろ、って」


 その発想はなかった。名案だと思ったが、問題がある。


「それ、いい考えだけどまたいじめが始まるんじゃない?」

「それも、先生に言うぞって言えばいいんだと思う。一番の問題は、いじめられるのが怖くて誰も先生に言えないことなんだから。とてもいい作戦だとは思えないけど、何もしないよりはマシじゃないかな」

「うん。私、杉沢に言ってみるよ」

「私も一緒に言ってやりたい。いいよね?」


 それはまずい。杉沢が本村くんだとバレてしまう。杉沢に対する斐羅の気持ちが分からない以上、会わせるのは得策ではない。それに、本当は里恵は付き合っていることが嫌なんじゃなくて性行為が嫌なんだと分かってしまう。


「大丈夫だよ、私一人で。杉沢に別れるように言ったことが里恵に伝わる可能性もなくもあらずじゃない? 里恵は多分、杉沢と付き合っていることを私たちに知られたくないんだと思うんだ。だから、せめて斐羅ちゃんだけでも知らないふりをしていてほしいの」

「……そうだね。分かった」


 明はほっとした。


「明日、言ってくるね」

「いい結果を待ってるよ」


 この作戦が上手くいけば、皆を救えるんだ。頑張れ、私!




 決戦日。里恵は遅刻ぎりぎりで登校してきた。しかし、杉沢はいつになっても姿を現さなかった。せっかく覚悟を決めたのに。まあ、別に今日じゃなくていいか。まだこのときはそう思っていた。


 休み時間、里恵は体育着に着替え教室を出て行った。携帯電話を机の中に入れて。今まで里恵の携帯電話を覗き見したいだなんて思ったことなかった。しかし、里恵は今隠し事をしている。もしかしたら、あの携帯電話を見れば何かいい案が浮かぶかもしれない。次の授業は体育。明は最後まで教室に残ると、思い切って携帯電話を開いた。あった、杉沢からのメールだ。送られてきたのは昨日。


『明日は田宮神社でお前の撮影会だ。綺麗な下着付けて来いよ』


 撮影会! そんなことをされたら、写真をネタにして何をされるか分かったもんじゃない。食い止めなければいけない。でも、どうやって……。やっぱり、あれしか方法は残されていないのだろうか。一番とりたくなかったあの方法を。


「ずっと辛いよりは、一瞬だけ辛い方がマシだもんね……」


 明は自分に言い聞かせた。


 放課後、明は田宮神社へ直行した。すでに里恵の姿があった。まだ杉沢は来ていない。里恵は明らかに元気のない様子で、


「もう、アタシも終わったな……」


 と独り言を呟いた。


「杉沢のこと、待ってるんだね」

「!?」


 聞こえてきた小声に驚いて振り向くと、斐羅がいた。


「斐羅ちゃん、何で!?」

「学校から里恵のことつけてきたの」

「どうして?」

「明ちゃんが何で嘘を吐いたのか知りたかったから」


 斐羅の言葉にまたもどきりとする。


「嘘って、何のこと?」

「どういう光景を見たか。明ちゃん、言ったよね? 街の中で手を繋いで歩いているのを見た、って」

「うん。本当だよ、見たもん」

「嘘。だって騒がしい街の中で、二人の会話が聞こえるほど近くを歩いていたらとっくに気付かれているよ」


 まさか、こんなところに名探偵がいたとはね……。明は言い返せなかった。


「早いな」


 杉沢が神社の鳥居をくぐってきた。斐羅が息だけで「えっ!?」と言った。


「どうして……本村くんが……」


 本当のことは言いづらいがもうごまかしようがない、明は仕方なく口にした。


「……本村くんは今は杉沢って言うんだ……」

「でも前明ちゃんが杉沢と付き合っているのか訊いてきたとき、なおくんはただの不良だって」

「今の姿を知ったら斐羅ちゃんがショックを受けると思ったからだよ」

「……その口ぶりからして、知ってるんだね。私の気持ち」

「ごめんね、黙ってて」

「ん? 何か声聞こえなかったか」


 杉沢が言った。明は自分の口を押さえる。斐羅も同じ行動をとった。


「気のせいだろ」

「みたいだな。じゃあ、始めるぞ」


 里恵を押し倒す杉沢。そして行為に及ぶ。斐羅が息をのむのが聞こえた。明は思わず里恵から目を逸らした。代わりに斐羅を見てみると、無言で涙を流していた。杉沢が嫌いで、里恵ともまだ付き合いの浅い自分があれだけショックを受けたのだから、斐羅のショックは計り知れないだろう。しかし今はそれに構っている場合じゃない。早くしないと撮影が始まってしまう。




 ごめんね、里恵。





 心の中で呟くと、隠れていた茂みから二人の前に姿を現した。

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