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15歳。  作者: 月森優月
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第56章 自分のせいで。

 明は里恵の顔を見ることが出来なかった。知らない方がいいこともあるって、本当だったんだ。でも、自分が何か行動を起こさなければ里恵は辛いままだ。どうすればいい?


「今井さん」


 ナツキが里恵を呼んだ。


「何?」

「スマイリー、今井さんのこと心配してるよ。最近元気ないけど、何かあるのかなーって」

「別に、何もねえよ」


 里恵が鼻で笑う。


「本当に?」


 気が付けば、明は斐羅と同じ言葉を口にしていた。里恵の目をじっと見つめていると、彼女は視線を逸らし、


「本当、だよ……」


 と細い声で言った。


「今日は屋上に来てくれるよね?」

「あー……、今日も無理だな」


 やっぱり無理か……。杉沢と会うのだろう。そして、また……。


「もしかしたら、もういけないかもな」

「えっ」

「冗談冗談」


 あながち冗談とも言えないんじゃないか? と思った。


「おい」


 里恵が声をかけられた。あいつ……杉沢に。


「何?」

「ちょっと来いよ」


 廊下に消えた杉沢の後を追う里恵。明は何も言えなかった。悔しかった。何も出来ない自分が。


「スマイリー」


 ナツキが真顔で言った。


「その斐羅ちゃんっていう子に、今井さんのこと言いな」

「えっ」

「そして、その子に止めてもらうんだよ。このままじゃ駄目だよ」


 このままじゃいけないのは分かっている。でも、杉沢のことを斐羅が知ったらどれだけショックを受けるだろう。ましてや、自分のためにしているだなんて。


「斐羅ちゃんってさ、もしかして安藤斐羅ちゃんのこと?」


 紀子が訊いてきた。


「そうだけど……知ってるの?」

「私、和泉と同じ小学校だって言ったじゃん。だから、斐羅ちゃんとも同じ学校だったんだ」

「あ、そっか」


 少し躊躇ったが、明は訊いてみた。


「斐羅ちゃんってどんな子だった?」

「変わった子だったよ。あんまり喋らなくて、でも人の心が読めるっていうか、妙に勘の鋭い子だった。だから、もしかしたら今井さんのことももう全部分かってるかも」


 里恵が屋上に来なくなってから、斐羅は元気がなくなったように見えた。それは寂しいからだと思っていたが、本当は里恵が自分を犠牲にしていると感づいていたとしたら。いや、そこまで分かるだろうか? それとも……。


「江川、ちょっと話したいことがあるんだけど」


 突然直史に話しかけられてびっくりした。里恵の話は直史には知られたくないと思っていたから余計に。直史に付いていくと、窓際で足を止めて言った。


「夕べ、安藤から電話があったんだ」

「何て?」

「里恵、もしかしたら自分のせいで酷いことをされてるかもしれない、って」


 ぎくりとした。


「ん? 江川この話知ってんのか?」

「う、ううん!」

「何でそう思うのかって訊いても答えてくれなかったんだよな……。ただの勘なのか、それとも……」

「それとも?」

「俺たちの知らない情報を知っているかだな」


 それは明がさっき考えようとした可能性と同じだった。


「とりあえず、俺今日は屋上に行ってみるよ」

「駄目!」


 とっさに明が口にした。


「え? どうして?」

「その……私が斐羅ちゃんに詳しく訊いてみるから大丈夫! 何か分かったら和泉にちゃんと報告するし。和泉は受験勉強頑張っててよ」


 そう言って笑顔を作る。


「そうか……? じゃあ、江川に頼むよ。よろしくな」

「うん。任せて」


 直史が立ち去った後、明が呟いた。


「そう、これが一番いいやり方なんだ……」




 屋上に行くと斐羅はもうそこにいた。


「斐羅ちゃん、元気?」

「え、元気だけど……」

「嘘、吐かなくていいよ」


 明が斐羅の隣に座る。


「訊いたよ? 和泉から。それに、元気ないの見てて分かるもん」

「そっか……」


 斐羅がうつむく。


「で、どうして里恵が自分のせいで酷いことをされてるだなんて思うの?」

「……」


 斐羅は答えなかった。言ってくれるまでいつまでも待とう。明はそう思っていた。

 やがて、斐羅が躊躇いがちに口を開いた。


「……三日前、デパートで本村くんっていう小学校の同級生と偶然会ったの。そしたら……」


 本村くん、とは杉沢のことだ。自分の心臓がどくん、どくんと鼓動を打つのが聞こえる。


「そしたら、『久しぶりじゃん。お前、相変わらず不細工だな。しかも不登校なんだって? 人間のクズじゃん』って……。まあ、それはどうでもいい話だよね。でも、その後言ってたの」


 斐羅は顔を上げて明をまっすぐ見つめた。


「『里恵もお前なんかと友達じゃなかったら、あんな思いせずに済むのにな』って言ったの。楽しそうに笑って……。私の知っている本村くんじゃなかった。いつも優しい言葉をかけてくれた本村くんはもういなかった」


 悲しそうに斐羅が言った。斐羅はまだ、杉沢のことが好きなのだろうか? もしそうだったら、里恵のことを言ったら二重のショックを受けるだろう。だから、うかつには口に出せない。でも、最低限の情報は言わなければいけない。私は、もう覚悟を決めたのだから。




「里恵、杉沢と無理やり付き合ってるよ。……クラスで起きているいじめを止めるために」





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