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15歳。  作者: 月森優月
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第55章 もう……嫌……。

 昼休みが終わってから、明は里恵に一言も話しかけられなかった。里恵も話しかけてこようとはしなかった。放課後、明は田宮神社へと向かった。本当はもうあんな声聞きたくないけど、会話を盗み聞きして事の真相を知ろう。里恵は、杉沢と付き合っているのか。里恵のおかげでいじめが収まったのか。


 田宮神社に着くと、明は木の陰に身を潜めた。しばらくして、里恵と杉沢がやってきた。明は息を殺す。


「杉沢……今日でもう外でやるのは止めにしてくれない?」

「ヤだよ。ホテル高ぇし」

「誰かに見つかったらどうするの?」

「別にいいじゃんか」


 杉沢はそう言って賽銭箱の前で里恵を押し倒した。そして濃厚なキスをすると、里恵のYシャツのボタンを外し、下着も取り去って乳房を舐め始める。明の心臓がドキドキする。見たくない。でも、現実から目を逸らしたら真実が分からなくなってしまう。里恵が声を出し始める。

 事が進むに連れて、明の目から涙が出始めた。悲しいのか何なのか自分でも分からない。しゃがみ込んで、必死に嗚咽を漏らすまいと唇を噛み締める。男の子の性器を見るのも、勿論他人の性行為を目の前で見るのも初めてだった。


 事が終わると、里恵は身体を起こした。頬が紅潮している。Yシャツのボタンを閉め、こう言った。


「もう、そろそろいいだろ?」

「まだだ。お前から言ったんじゃねえか。自分がセックスを毎日してあげるから、クボタをいじめないでくれと」

「でも、アタシもう嫌なんだよ」

「何言ってんだよ、俺のことが好きな癖に」

「あっ……」


 里恵の首元に舌を這わせる杉沢。もう止めてほしい。これ以上見たくない。でも、今自分が出て行ったら里恵を酷く傷付けることになるだろう。


「……止めて。確かに杉沢のことは好きだけど、エッチは好きじゃねえんだよ……」

「俺と付き合ってるんだもん、セックスするの当たり前じゃねえか」


 やっぱり里恵は杉沢と付き合っていたのか。今更ながら、ショックだった。


「そうだけど……杉沢はアタシの身体だけが目的じゃないの……?」

「里恵のことは愛してるよ」


 本当だろうか? 里恵が言っていた好きな人とは、杉沢のことだったんだな。杉沢のどこがいいんだろう。


「斐羅のことも、もう悪く言わないよね? 約束したよね」

「ああ、言わねえよ」


 里恵は杉沢と一緒にいると、いつもより女らしく感じる。好きな人の前では彼女も女の子になるということか。クボタと斐羅のために身を売った里恵。これが、里恵の言った『正しいこと』なのか。でも、こんなの間違っている。こんなことをして守られたって、クボタはともかく斐羅が喜ぶはずかない。


「じゃあ、また明日な」

「うん……」


 杉沢は里恵を置いて神社を後にした。里恵はぼーっとしていたかと思えば、突然涙をこぼし始めた。


「……っく……もう……嫌……」


 と呟く里恵。めったに見ない彼女の涙に、明は動揺した。そんなに嫌なことをしてまで、二人を守るなんて。里恵が泣くのを止め、神社を去るまで、明は一歩も動けなかった。


 明は家に帰ってから、このことを誰かに言った方がいいのか考えた。直史や斐羅に言った方がいいのか。この秘密は大きすぎて一人では抱えきれない。でも、口に出すのはすごくはばかれることだし、里恵は誰にも知られたくないだろう。


「なのに私は、知ってしまった……」


 知りたくなかった。杉沢が憎い。あいつさえいなければ、誰も傷付くことはなかったのに。


「明、夕飯だよー」

「はーい」


 明は考えるのをひとまず止めてリビングへ行った。




「スマイリー、眠そうだねー」


 翌日。あくびを連発する明に紀子が言った。昨日はほとんど眠れなかった。ナツキや紀子にも相談なんて出来ない。話のネタにされるのがオチだろう。異性である直史にも話しにくい。里恵がかばっている当の本人の斐羅に話すのも気が引ける。だから、


「ちょっと悩み事あって」


 とだけ言った。


「え、スマイリーに悩み事なんてあるの?」

「失礼な」

「スマイリー、何かあったらいつでも私たちに相談しなよ」


 思わぬ紀子の温かい言葉に明の心が少しほぐれた。だから、つい口に出してしまった。


「……里恵、やっぱり杉沢と付き合ってた……」

「えっ!?」

「そうなの?」

「でも、何か嫌々みたいで……。クボタをいじめないのを約束に付き合ってるみたいな……。あと、友達の斐羅ちゃんのことを悪く言わない約束」


 ナツキと紀子が顔を見合わせる。


「里恵のあんな姿、見たくなかった……間違ってるよ、あんなの」


 うっかり本音が出てしまった。


「スマイリー……何か色々あったみたいだね」


 ナツキが明の肩に手を置く。


「今井さんはスマイリーがその事実を知ってるって分かってるの?」


 紀子が尋ねる。


「ううん。分かってない」

「じゃあ本人に言った方がいいよ。そして、こんなの間違ってるって言いなよ」

「言えないよ」

「どうして?」


 ナツキが訊く。


「里恵は、私が知っているって分かったらすごくショックを受けると思うもん」

「そっか……。じゃあ、今井さんがスマイリーにそのことを告白するまで知らないふりしてた方がいいんじゃない?」

「でも、里恵すごく辛そうで……」

「今井さんが杉沢と付き合っていることの辛さと、スマイリーに知られたことの辛さ、どっちの方が辛いかよく考えた方がいいと思う」


 でも、里恵は杉沢のことが好きだ。しかし性行為は嫌らしい。毎日性行為を求められることと私が知っていると分かったときのこと、どっちの方が辛いんだろう? 考えているうちに里恵が登校してきた。

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