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15歳。  作者: 月森優月
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第53章 嫌な予感。

「スマイリー、大丈夫?」

「ん……大丈夫」


 ナツキが心配そうな顔で声をかけてくる。直史も、


「大丈夫か」


 と言ってきた。しかし里恵は微動だにせず、無言で下を向いていた。明も様子がおかしいことに気付き、立ち上がって言った。


「里恵?」


 返事はない。明は里恵に近付いて、顔を覗き込んだ。


「そうだよね」

「え?」

「明と直史は正しいよ。間違っているのは、アタシ」

「……」

「アタシだって、皆のことが好きだよ。だから、アタシも正しいこと、しようと思う」


 明の目を見つめ、そう言った。どういう意味かいまいち分からずに聞き返したが、里恵はそれ以上何も語ろうとはしなかった。しかし最後に、


「ごめんね」


 と言った。何に対して謝っているのか、それも結局分からなかった。


 クボタの件は、担任に言いつけるという案もあるが、明は出来ればそうしたくはなかった。注意したらエスカレートするかもしれない。言いつけたとバレたら何をされるか分からない。里恵がいじめられていたときよりも遥かに怖かった。次の休み時間が来ると、杉沢は黒板を消しているクボタの背中に黒板消しを押し付けた。


「悪ぃ、黒板消すの手伝ってやろうかと思ったら間違えちった。あれ? でも消えないな。消したんだから消えろよ、クボタ」


 クボタは無言で教室から出て行った。これだけのことをされても言い返さないなんて、余程杉沢が怖いのだろうか。


「杉沢」


 呼んだのは里恵だった。ついに里恵が動き出した。


「ちょっと来て」


 そう言うと廊下に姿を消した。杉沢も教室を出た。


「今井さん、杉沢を止めようとしているのかなあ」

「でもあいつは注意して止めるような奴じゃないよ」

「でも、今井さん強そうだし……」


 ナツキと紀子が話す。今、里恵と杉沢はどんな会話をしているのだろう。二人が教室に戻ってきたところでチャイムが鳴った。


 それから杉沢は、なんと六時間目が終わるまでクボタに全く手を出さなかった。


「あれ、里恵いないの?」


 明はマンションの屋上に着くと素っ頓狂な声を出した。直史と斐羅しかいない。


「何か用事があるんだってよ」

「用事ねえー……」


 どんな言葉で杉沢を止めたのか訊きたかったのに。


「そういえば今日出た宿題、絶対出来ないから和泉やったら写させてよ」

「やだね」

「えー、ケチ」

「なおくん、受験勉強大変?」

「そりゃあな。あ、皆に言っておきたいことがあってさ。俺、受験が終わるまでここに来るの止める」

「えー」

「たまには来てもいいけどな。やっぱり勉強頑張らないといけないから」

「……どうしてそこまで頑張らないといけないのかな」


 斐羅が呟いた。


「偏差値の高い学校に入るためだろ」

「良い仕事に就く為に?」

「前言っただろ? 俺、政治家になりたいんだ」

「そうだよね……なおくんは目指すものがあるんだもんね。でも、あまり無理しないでね」

「ああ。さんきゅ」

「私も受験勉強しないとなあ……」


 やらなければいけないのは分かっている。このままじゃいけない。私立に通えるほど家は裕福じゃない。きっと、一年後はナツキとも紀子とも直史とも里恵とも斐羅とも別々の道を歩んでいるんだろうな。大切なものを手放すのが少し寂しかった。


「……何か」

「え?」


 斐羅の呟きを明は聞き逃さなかった。


「何か、嫌な予感がする」

「嫌な予感?」

「うん。里恵、今どうしてるのかなって」

「心配なら電話してみれば?」


 直史が提案した。明は嫌な予感など全くしておらず、しかし、タロット占いが出来るような神秘的な力を持っている斐羅が言っているのだから少し不安になった。


「してみるね」


 斐羅が携帯電話を耳に当てた。しばらくすると表情を曇らせて、


「出ない。留守電になっちゃった」


 と言った。


「里恵、何の用事か全然言ってなかったの?」

「言ってない」

「これまでにも里恵に用事が出来て来なかったことって結構あるの?」

「いや、めったにないよ、な?」

「うん」


 里恵、今どこで何しているんだろう。不安が拡大してゆく。


「私、もう一回電話してみる」


 斐羅が再び電話をかけた。また出ないのかな……と思ったとき、


「あ、もしもし?」


 どうやら里恵が電話に出たらしい。


「今、どこにいるの。……あ、そうなんだ。いや、ちょっと何となく嫌な予感がして。そう、なら良いんだけど。……うん、分かった」


 話が終わりかけたとき、斐羅が、


「……本当だよね」


 と無機質な声で言ったので、明は思わず彼女の顔を見た。


「……そう。じゃ、またね」


 斐羅は電話を切り、


「里恵はスーパーでお母さんに頼まれたもの買ってるって」

「斐羅ちゃんは……その、疑っているの?」

「どうして?」

「里恵に本当か確かめてた」

「別に深い意味はないよ」


 そう言いながらも、夕方になって帰るまで斐羅の表情が強張っていたことを明は見逃さなかった。

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