表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15歳。  作者: 月森優月
52/83

第52章 両想い。

 すると里恵は斐羅を抱きしめて、


「ごめん……アタシ、斐羅のこと何も分かっていなかった。気付いてあげられなくてごめん。打ち明けることの出来ないような人間でごめん。斐羅がそんなに苦しんでいるなんて知らなかったよ」

「里恵……」


 斐羅はゆっくりと里恵から身体を離して、


「私が悪いの。ごめんね、弱い人間で」

「そんなことねえよ」


 直史が言った。そして続ける。


「辛い状況に耐えている安藤は、誰よりも強いよ」

「なおくん……」

「直史の言うとおりだよ。斐羅は充分強い。だから、もっと力抜いて生きていいんだよ」


 里恵は目を擦りながら言った。斐羅は背後に手をやって、隠したカッターを持つと、


「いつかは、このカッターを使わなくなる日が来ると思う。それまで、里恵たちにはゆっくり待っててほしい」


 ああ、と里恵たちは頷いた。


「あ、そういえばジェシカちゃんって里恵たちの学校にいる?」

「ジェシカって、野崎ジェシカ?」


 明と同じクラスの学級委員だ。和泉が里恵のことを好きだったとバラした女子。


「そう。ジェシカちゃん、うちの中学でいじめられていた子なの。私が学校休んでいる間に転校したらしくて。ジェシカちゃん、元気にやってる?」

「野崎さんなら元気にやってるよ。な、明?」

「うん。友達も沢山いるよ」

「そうなんだ。良かった」


 斐羅が今日初めて笑顔を見せた。


 そしてたわいない話をしているうちに、日が暮れたので明たちは帰ることにした。


「またな、斐羅」

「うん。今日は皆、本当にありがとう」


 何か問題が解決したわけじゃない。斐羅は登校出来なかったし、リストカットも止めていない。しかし、明はすがすがしい気持ちだった。


「じゃ、またね、里恵、和泉」

「またな」

「おう」


 明は里恵たちと別れ家へ向かった。




 次の日。杉沢の姿を見て明は思い出した。昨日、直史が杉沢に対して意味深な発言をしていたことを。


「和泉、ちょっと来て」


 直史を廊下まで引っ張ると明は尋ねた。


「昨日、杉沢に『こんな姿見たら、安藤が哀しむだろうな』って言ってたよね? それってどういう意味?」




「あー……。実は、杉沢って安藤と両想いだったんだよ」




「……え!?」


 あの杉沢が、斐羅と?


「だって斐羅ちゃん、前に私が里恵と杉沢って付き合ってるの? って訊いたとき、杉沢って誰? って言ってたじゃん」

「前は『本村』だったんだけど、親が再婚して名字が変わったんだよ」

「でも和泉、ただの不良だよって言ってた」

「杉沢も昔はいい奴だったんだ。そのイメージを壊したくなくて」

「いい奴だったの?」

「ああ。いつも四人で一緒だった」


 数年前までは自分のポジションには杉沢がいたというのか。不思議な気持ちだった。そして、ある案が浮かんだ。


「……斐羅ちゃんが協力してくれれば、杉沢、変わるかな」

「え?」

「杉沢って、もしかしたら根っからのワルじゃないのかもしれない。そしたら、変わることだって出来るかも」

「……今井がお前に惚れたの、分かる気がするよ」

「え?」

「そうやって他人のことを考えられる奴、なかなかいねえよ」


 直史にそう言われて明の顔が赤くなる。不覚だった。


「とりあえず里恵に相談してみるっ。それじゃ」


 そう言って足早にその場を後にした。


「……っていうわけなんだけど、里恵、どう思う?」

「うーん……」


 登校してきた里恵に相談すると、里恵は困った表情を浮かべた。


「多分、その作戦は成功しないと思うんだよね」


 それが悩んだ挙げ句に出てきた里恵の言葉だった。


「そうかなあ……」


 その時、ガタンと大きな音が聞こえた。明と里恵は振り返った。すると、クボタが床に転がっていた。クボタの椅子がひっくり返っている。近くには、杉沢。


「お前、キモいから死んでくれない?」

「……」


 杉沢の言葉にクボタは何も言わない。皆が彼らに注目していた。でも、助けようとする人は誰もいない。明はその光景を見ているのが辛かった。


「杉沢、止めろよ」


 そう言ったのはまたしても直史だった。


「安藤に言ってもいいのか? 今のお前の姿」


 すると杉沢はふっと笑って、


「勝手に言えよ。俺があんな女のこといつまでも好きなわけないじゃんか」

「あんな女って、そんな言い方……」

「暗いし、つまんねえし。あんな不細工、今でも好きなわけないじゃんか」

「お前……!」


 直史は杉沢につかみかかろうとした。それを止めたのは、明だった。


「和泉、こんな奴殴ったって手が痛くなるだけだよ」

「幼なじみをけなされて黙っていられるかよ!」

「それは私も同じ気持ち」


 大丈夫、怖くない、怖くない……。そう自分に言い聞かせながら明は杉沢の目をまっすぐ見て言った。


「杉沢、いじめは止めな」

「何でお前に命令されなくちゃいけねえんだよ」

「あと、斐羅ちゃんのことそんな風に言わないで」

「何、お前、不細工の友達なの?」

「不細工って言うんじゃねえよ!」


 ついに明は我慢出来なくなった。直史を止めておきながらも、明は倒れていた椅子を杉沢に向かって投げた。杉沢は「痛え!」と声をあげると、殺気のこもった瞳で明を睨み、誰かが止めるのも間に合わないほどの速さで腹部を殴った。


「うっ……」


 明はお腹を押さえてうずくまる。すぐにナツキと紀子が近寄ってきた。里恵は立ちすくんだままだった。直史が殴りかかろうとするのを、他の男子が止めた。


「死ね、江川」


 杉沢はそう呟くと教室を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ