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15歳。  作者: 月森優月
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第51章 赤い染み。

 明は和泉に言葉の意味を訊こうとしたが、チャイムが鳴ってしまったので仕方なく席に着いた。斐羅ちゃんが悲しむ? 杉沢の姿を見て? 斐羅と杉沢は知り合いなのだろうか。でも、前に斐羅は「杉沢って誰?」と訊いていた。考えれば考えるほど分からなくなる。


「和泉、格好良かったね」


 次の休み時間、紀子が言った。


「惚れ直した?」


 とナツキ。やだぁ、と紀子が笑う。


「紀子ちゃん、そんなに和泉のこと好きなら告っちゃえばいいじゃん」


 明が言った。


「え、無理だよ! 無理無理」

「他の人にとられちゃうかもしれないよ?」

「でも……」

「うちが代わりに言ってこようか?」

「駄目!」

「冗談冗談」

「もう。あ、私ちょっとトイレ行ってくる」


 紀子が席を立った。


「紀子って面白いよね」


 ナツキが言った。以前、ナツキは紀子のことをナルシストと言っていたことがある。しかし、いつの間にか二人は以前より仲良くなっているようだった。


「ナツキ、夏休み受験勉強した?」

「したした。紀子に負けたくないからな。同じ高校に行きたいし」

「私は、多分二人と同じ高校にはいけないと思う」

「学校が離れてもうちらは友達じゃんか」


 その言葉が嬉しかった。


 放課後、明は部活を休み里恵のマンションの屋上へ行った。予想とは違い、斐羅だけの姿がなかった。


「斐羅ちゃんは?」

「朝、斐羅んち行った。屋上に行かない? って誘ったけど今の心境では行けないって」

「斐羅ちゃん、何て言ってた?」

「ネガティブモード突入してたな。やっぱり私なんか生まれて来なければ良かったんだ、って」

「ほっといて大丈夫なの?」


 明は心配になった。


「ううん。アタシだって心配だよ。でも、一人になりたいって追い返されて」

「でも、もう一回安藤の家行ってみないか?」


 直史が提案した。


「そうだな。もう一度行ってみるか」

「だね」


 三人は屋上を後にして斐羅の家へ向かうことになった。


 そこは薄汚いアパートだった。里恵がインターホンを押すと斐羅の母親と思われる人物が出てきた。


「ああ、里恵ちゃん」

「度々すみません。もう一度だけ、斐羅に会わせて頂けないでしょうか?」


 里恵があまりに丁寧な言葉を使うものだから明はびっくりした。


「いいよ。皆入って」

「ありがとうございます!」


 そして明たちは中に入った。斐羅の部屋まで行くと、斐羅の母が声をかけた。


「斐羅。里恵ちゃんたちが来たよ。ドア開けるね」

「え、ちょ、ちょっと待って!」


 斐羅の焦った声が聞こえたが、斐羅の母は構わずドアを開けた。すると、ベッドに寄りかかって座る斐羅がいた。ドアが開く瞬間に後ろに何かを隠したようにも見えた。斐羅の母はその場を離れ、里恵が、


「入っていい?」


 と訊いた。


「ごめん……入れられない」


 斐羅はまっすぐ明たちを見つめながら言った。まるで、他のものから目を逸らさせるかのように。

 しかし、明は気付いてしまった。斐羅の座るすぐ側の床に、赤い染みがぽたぽたとあることを。


「少しでいいから」

 里恵が中に入ろうとする。


「駄目……!」


 斐羅は手のひらで赤い染みを隠そうとするが、それより先に直史が言った。 


「それ、血か?」


 まだ、このときなら否定のしようもあったかもしれない。しかし、皆の視線が赤い染みに集まった今、血が手首を伝ってぽとりと床に新たな染みを作ってしまった。里恵と直史が驚愕の表情を浮かべる。


「……」


 斐羅は何も言わなかった。


「斐羅、まさか……」


 里恵が言った。そして斐羅に近付き血が垂れている方の袖をめくり上げた。すると、傷口がぱっくりと開いて血を流していた。斐羅は俯いたまま無言だった。


「斐羅……」


 里恵が呟く。明はベッドの上にあるティッシュを取って斐羅に渡した。


「……ありがとう」


 斐羅は傷口をティッシュで拭く。


「どうして……」


 里恵が絞り出すかのような声で言った。


「どうして言ってくれなかったんだよ!」


 明は驚いた。というのも、里恵が涙を流していたからだ。

 直史は入り口に立ったまま、


「俺たちに言ってくれてもよかったじゃないか」


 と言った。


「ごめんなさい……」


 斐羅が消え入りそうな声で謝る。


「明は知ってたのか? 驚いてないけど」


 里恵の問いに明はためらいがちに頷いた。


「明には言ったのに、アタシには言おうと思わなかったの? どうして? どうしてよ……」


 里恵は今も泣いている。


「だって、里恵こんなこと私がしてるって知ったら止めるでしょ? なおくんも」


 斐羅は里恵と直史を交互に見つめた。


「当たり前だろ」

「ああ」


 と里恵と直史。


「そんなに死にたいのなら、アタシに相談してくれたって良かったじゃないか」


「違う。違うの」


 斐羅は首を振る。


「私、死にたいんじゃない。死にたくて切ってるわけじゃない。生きたいんだよ。生きたいから切ってるんだよ!」


 斐羅の語尾が強くなる。


「辛さを痛みで紛らわすの。だから、私は生きていられる。そうでもしなきゃ、私、生きられないの……」


 斐羅は涙を零した。

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