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15歳。  作者: 月森優月
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第5章 ……落ちてるよ。


 教室にいた生徒達が驚き顔で廊下へ出てくる。ざわめきが廊下を支配し、やがて右に向かう生徒、左に向かう生徒。まるで避難訓練をしているときのようだ。明はその場から動けなかった。今の音何なのー? と甘ったるい声で紀子が話しかけてくる。明は紀子の方は見ずに首を振った。ナツキが人ごみをかき分け、無事トイレから戻ってくると、


「きっとヤバいよ!」


 と言い出した。落ち着きのない様子で、瞳をせわしなく動かしている。主観性のない言葉だが、明は何となく分かるような気がした。ただ事じゃあ、ない。




 突如、悲鳴がほとばしる。




 明の心臓が縮み上がった。悲鳴は下の階からだ。生徒達は一瞬固まり、内心いつもと違う日常にわくわくしていたであろう人達も青ざめてゆく。金切り声の余韻が止んだ頃、男子数人が見に行く、その後。恐怖を覚え、床にぺたりと座り込む女子。奇妙な静かさをもったその空気に明は息苦しさを覚えた。しゃがみ込んだ紀子が明のスカートの裾を握っていた。その手は小刻みに震えている。もしも振り払ったら、彼女はどんな顔をするだろうか? 


 見に行った男子の何人かが走ってくるのがうかがえた。意外にも、その中の一人は直史だった。みんな、彼らの言葉を待っている。一瞬、ざわめきが止んだ。一番早くこちらに着いた男子が息を切らせながら、


「ヤベえ……窓突き破って、……落ちてるよ」


 と、とぎれとぎれに言った。明の身体が熱くなった。自分は今動揺している、だってこんなにも身体が火照っているのに、乾き始めた汗で背筋は冷たい。ああ、嫌な汗だ。鳴り響いた音と悲鳴の真相を知る人達の声は、ばらばらに喋り出す生徒に紛れてもう聞こえない。


 でも、そんな、落ちているだなんて。とにかく、知っている人でなかったらいい、願うのはそればかりだ。紀子はパニックで泣き出している。先ほどまでは『頭がとっても良い』彼女が弱さを見せる度に皮肉を言いたくなる明だったが、今はさらさらない。


 落ちているだなんて。


 その内、見に行く人が多数現れた。見たいというナツキに明はついて行くことにした。何があったのか、明も知りたかったのだ。


「嫌だ、そんなの見たくないよお」


 と泣き顔でぐずる紀子は置いてゆくことにした。この頃には教師も来ていて、じっとしているように言っているが混乱したこの状況では効力をなさなかった。


 早足で階段を降り、三階。すぐそこに、その光景はあった。一年一組の教室の前に、小さな人だかりが出来ている。割れた窓ガラスの破片にこびり付く血、人と人との間から見えたのはそれだけだった。ナツキは手前の窓から下を見た。目を大きく見開いて、声にならない悲鳴を上げる。


「何が見えた?」

「見てみたら分かるよ」


 見るのが怖いから聞いているのに。そう思いながらも、唾をごくっと飲み込んで窓から下の方をのぞき込む。その光景に、明は思わず顔を歪めた。せめて、うつ伏せで着地してくれればいいものを。無駄に視力の良い自分を今だけは恨んだ。


 男子だ。大柄な体型で、ジャージの色からして三年生。左足が変な方向に折れ曲がっている。生きているのかは判断できない。緑色のジャージのズボンのウエスト部分から、鮮やかな青が見えていた。嫌な予感が明の頭をよぎった。


「ナツキ、落ちた人って誰だか分かる?」

「分からない、うち、目悪いし」


 人だかりの中から聞こえてきた声に、愕然とする一方やっぱりなという思いがあった。




「落ちたの、杉沢なんだってな」





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