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15歳。  作者: 月森優月
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第49章 行こうかな。

「斐羅ちゃん、お願いっ!」


 明は斐羅に向かって手を合わせた。


「私が川田総合高校に受かるか占って!」

「いいけど……」

「明、止めとけー。どうせ無理なんだから」

「里恵だけには言われたくないー」


 斐羅はタロットカードを混ぜ始めた。そして、一つにまとめた後、三枚のカードを並べる。ゆっくりと、カードが裏返された。


「吊るされた男と、月のカードか……」


 斐羅の表情が曇った。


「それってどういうカード?」

「吊るされた男は、困難とか、試練に耐えるって意味。月は、不安とか、障害が多くなるって意味」

「えー、最悪じゃん……」

「つまり明は受からない、と」

「そんなに断言は出来ないけど……」


 明はあからさまに落胆した。里恵が明の背中を強く叩く。斐羅は困ったように微笑んで、


「今から努力すれば簡単に未来なんて変えられるよ」


 と言った。ありがとう~、斐羅ちゃん、と明が言う。

 こうやって、いつも通りに斐羅と接している自分がいる。あの日の告白など聞かなかったかのように。斐羅ちゃんも前と同じように接してくれることを望んでいるだろうし、と明は思っていた。


「結局今年はプール行けなかったな」


 里恵がぼそりと言うと、斐羅は身体を小さく丸めた。


「でもでも、お祭りに行けたからいいじゃん! 楽しかったよ、今年の夏休みは」


 明が明るく言った。斐羅が明の方を見る。ありがとう。心の中でそういっている気がした。


「里恵ー、なおくんが来たわよー」


 里恵の母親の声がした。


「よっ、皆さんお揃いで」


 直史が手を上げて里恵の部屋に入ってきた。


「そうだ、直史も斐羅に占ってもらえよ。浦高受かるか」

「俺は、占いとかやらない質なんだ。だって、未来は分からない方が楽しいだろ? 今井、お前こそ占ってもらえよ。将来のこと」

「えー、アタシ? 別に不安なんて全然ないけど……斐羅、占ってみてよ」

「分かった」


 そして斐羅は二枚のカードをめくった。


「運命の輪の逆位置と、塔、か……。塔が出ちゃったかー……」

「塔のカードって、確か悪いんじゃなかったっけ?」


 里恵が眉間に皺を寄せた。


「うん、最悪。災難とか、恋の終わりとか、病気とか」

「マジかよー。アタシの人生お先真っ暗かよぉ」


 里恵にしては珍しく落ち込んだようだった。


「でも、たかが占いだし。当たるも八卦、当たらぬも八卦」


 斐羅がそう言って励ましたが、


「でも斐羅の占いは百発百中じゃん……」


 と言って頭をうなだれた。斐羅は頭を掻いた後、里恵の頬を手で挟む。


「そんなの、里恵らしくないっ!」


 すると里恵は少し笑って、


「そうだよなあ……。占いごときで落ち込むなんてアタシらしくないよなあ」


 と言った。


「明も斐羅も直史も高校かー。アタシも行こうかな、高校」


 その言葉に皆はぎょっとした。


「何だよ皆してそんな顔して」

「だって里恵、あれだけ高校には行かないって言っていたのに」


 明の言葉に、里恵が笑った。


「定時制とか、ちょっとは全日制よりマシかなあって思っててさ。アタシの学力でも入れるし」

「里恵は、学校の何が嫌なの?」

「ねちねちした人間関係。定時制なら年齢もばらばらだからグループとかなさそうじゃん」


 そういうことか。


「私は、里恵の好きな道を選んだらいいと思うよ」


 と、斐羅。


「お前、将来何になりたいの?」


 直史が訊いた。


「そんなの、わかんねえよ。まだ十五歳だぜ? 直史はもう決まってんの?」

「政治家。この世の中を変えてやるんだ」


 直史の大きな夢に明たちは目を丸くした。明だって里恵と同じく将来の夢なんて決まっていない。堂々と自分の夢を語れる直史がうらやましかった。


「明日で夏休みも終わりだね」


 斐羅が言った。明日、本当に斐羅は学校へ行くのだろうか。行けるのだろうか。二学期には杉沢も退院してくるだろう。あやふやなままで終わったあの事件の真相が分かるときが来るなんて、このときの明は思いもしなかった。

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