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15歳。  作者: 月森優月
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第44章 好きなの?

 明は直史のとった行動に驚いていた。俺には無理だと言っていたのに、里恵を助けてくれた。そのことが嬉しくて、明は里恵に手を差し伸べながら直史に「ありがとね」と言った。


「俺に出来る最大限のことはしてやろうと思ってさ。幼なじみだもんな」


 直史はちょっと照れくさそうに頬を掻いた。


「ねえ」


 ナツキが口を開いた。


「和泉って、今井さんのこと好きなの?」

「そんなわけねーだろ」


 直史より先に里恵がお尻をはたきながら言った。明の頭に浮かんだのは紀子のことだった。紀子はどうやら直史が好きらしい。そのことは、きっとナツキも知っている。もしも直史が里恵のことを好きだとしたら、絶対に里恵と紀子が仲良くなることなんて出来ない。紀子の方を見ると、彼女は口を真一文字に結んで直史のことを見ていた。


「和泉、どうなの」

「好きなわけないじゃんか」


 直史はそう言って苦笑いを浮かべた。


「じゃあどうして今井さんのことを助けたの?」

「それは幼なじみだからだって……」

「嘘じゃん!」


 そう叫んだのは学級委員の野崎さんだった。みんなが彼女の方を向く。野崎さんはタオルを握り締めながら目を見開いて言った。


「和泉くん、小学生の頃今井さんのこと好きだったじゃん」


 ざわめきが起きる。――マジかよ。和泉が今井を? 嘘ぉ。


「和泉、そうなの?」


 紀子がハンカチを口にあてながら尋ねた。


「そ、そんなわけねえだろ」

「和泉くん、私と友達だったの。小四の頃、今井さんのことが好きって、そう言ってた」


 と、野崎さん。窓から強い風が入ってきて白いカーテンを揺らした。里恵は神妙な面もちをしている。まるで、そんなことは知っていたかのような面もち。ずっと本を読んでいたクボタも、顔を上げて直史のことを見ていた。


「……そんなの、子供の頃の話だろ」

「今も好きなんでしょ?」


 野崎さんが尋ねる。ナツキが紀子の肩を押さえた。紀子の目は潤んでいた。


「好きじゃない」


 そう直史が答えたとき、チャイムが鳴った。明はもっと話を聞きたかったが、会話はそこで終了となった。里恵は最後まで、何も語ろうとはしなかった。




「スマイリー、やっぱり今井さんはグループに入れられないよ」


 次の休み時間、ナツキが言った。


「そんな……」

「紀子の気持ちも考えてあげなよ」


 紀子は明らかに落ち込んでいる様子だった。さっきの野崎さんの話を気にしているのだろう。


「今井さんも和泉のこと好きなのかなあ……」


 紀子がつぶやいた。里恵に視線を向けると、彼女はヤスリで爪を研いでいた。


「分かったよ、里恵のこと連れてくるから」

「ちょ、待てよスマイリー!」


 明は里恵に近付くと「来て」と言って腕を引っ張った。


「何だよ」

「いいから」


 そしてナツキたちのところに連れてきた。ナツキと紀子はうつむいて里恵から視線を逸らす。


「何なんだよ」

「本当に、和泉は里恵のことは好きじゃないの?」


 明が訊くと、里恵は眉をひそめながら言った。


「当たり前だろ」

「でも、小学生の頃……」


 紀子が言った。


「小さい頃の話じゃんかよ。言っただろ? 今、直史に好きな人はいない」

「今井さんは?」

「え?」

「今井さんは、和泉のこと好きなんじゃないの?」


 紀子は顔を上げてまっすぐ里恵を見つめていた。


「……アタシには他に好きな人がいるよ」

「誰?」


 それは明も知りたかった。もしかして、杉沢か? しかし杉沢は不良だ。里恵が好きになるタイプではないような気がする。


「そんなの、言えるわけねえだろ」


 そう言って里恵は自分の席に戻ろうとした。


「待って、里恵!」


 里恵が振り向く。


「里恵もうちらのグループに入らない……?」

「スマイリー!」


 里恵は鼻で笑って、


「そんなこと、出来るわけないって明も分かっているだろ」


 里恵が明の手をすり抜けていった。手に入らない、存在。掴んでも泡のように消えてしまう。私はどうしたらいいの? ナツキと紀子ちゃんから離れることしか、里恵と一緒にいる道はないの? 明は迷っていた。


 そうだ、斐羅に相談してみよう。明はそう思いついたのだった。

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