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15歳。  作者: 月森優月
40/83

第40章 万引き。

「犯罪者、って……?」


 明は尋ねた。


「最低な子供だった、って前に言ったでしょ?」

「うん……」


 斐羅は赤く染まった空を見上げて言った。




「……私ね、小学生の頃万引きの常習犯だったの」




 一瞬、時間が止まったような気がした。


「嘘……」

「本当。何回も捕まったことあるの」

「だって安藤さん、真面目じゃない」

「昔は酷かった」


 そして斐羅は話し始めた。小学生の頃の自分のお話を――。




* * *




「斐羅ちゃん、また、するの……?」

「大丈夫。今日は一品だけにするから」

「斐羅ちゃん、止めようよ。やっぱり駄目だよ、そんなことしちゃ」

「しょうがないじゃない。それが私のストレス発散法なんだから」

「斐羅ちゃん……」

「今朝もお父さんに殴られた。私なんか生まれてこなければ良かったのに、って」

「酷い……」

「私には何にもないから。才能もとりえも、何にもない。だから、お父さんが私を嫌うのは当たり前のことなんだよ」

「当たり前なんかじゃないよ! 親はいつだって子供を守ってくれる存在のはずでしょ? 殴られるのが普通だなんて、そんなこと、あるわけないよ!」

「里恵ちゃんの両親は優しいもんね。愛されるのが当たり前って思ってるでしょう? でもそれって、当たり前に見えてすごく恵まれていることなんだよ」

「斐羅ちゃん……」

「このキーホルダーでいっか。誰も見てないよね? じゃあ、店出るよ」

「……」




* * *




「里恵には何度も迷惑かけたよね。そんな私の側にいてくれたのは、里恵となおくんだけだった」

「アタシは迷惑なんて思ってないよ……」

「お父さんに、虐待、されてたの?」

「虐待じゃない。お父さんが私のことを嫌っている、ただそれだけのこと」

「でも手を上げるなんて酷い……」

「お父さんはお母さんに対してもそうだから。何でこんな子供を産んだんだ、って」

「辛い?」

「もう慣れた」

「今も安藤に暴力を振るったり、酷いことを言ったりするのかよ」


 直史が眉間に皺を寄せながら訊いた。


「うん」

「お母さんはそんな奴と何で離婚しないんだよ。斐羅、可哀想だよ」


 里恵はしゃがむと斐羅の目をまっすぐ見つめた。


「金銭的に二人じゃ生活出来ないから。私さえ、私さえいなかったらお母さんが殴られることもないのにね」

「何言ってんだよ、斐羅」


 里恵が斐羅の肩に手を置く。


「斐羅がいなかったら哀しすぎるよ……」

「ありがとう、里恵」


 斐羅はそう言って微笑んだ。


「でも、私はいらない子なんだよ」

「斐羅……、そんなこと言うんじゃねえよっ」


 里恵は斐羅を抱きしめた。一羽の烏が鳴きながら明たちの頭上を通過していった。辺りは暗くなり始めている。明はそろそろ家に帰らなければと思った。でも、こんなムードのときに言い出せない。


「大丈夫だよ、里恵。私はいなくならないから」


 斐羅が言った。


「アタシと、ずっと友達だよな?」

「もちろん。……ねえ、なおくんも、江川さんも、私とずっと友達でいてくれる?」

「当たり前だろ」「うん、当たり前」


 直史と明が答える。


「ありがとう」


 そう言って斐羅は里恵から身体を離すと、立ち上がって、


「私、そろそろ帰らなきゃ。江川さん、来てくれてありがとね。また会おうね」

「うん。私も帰る! 安藤さん、一緒に帰ろ?」

「いいよ」

「二人とも、気を付けろよ」


 里恵は腰を上げて手をひらひらと振った。


「あ、じゃあ俺も帰るわ」


 直史も立ち上がる。


「またね、里恵」

「おう。明日は学校行くから」

「待ってる」


 そして明は屋上のドアを閉めた。

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