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15歳。  作者: 月森優月
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第39章 犯罪者。

 でも、友達だからって自分をも犠牲にすることが出来るのだろうか。明は迷っていた。


「私、友達がいじめに遭ったのを止めることが出来なかった。今でもすごく後悔してる。もう少しの勇気があれば、私だって、こんなことにはならなかったんじゃないかって。なったとしても、これほどの罪悪感に苦しめられることはなかったと思う。だから、江川さんには後悔してほしくないの」


 斐羅にしては長い台詞だった。彼女はまっすぐ明を見つめていた。


「じゃあ、もし私が安藤さんだったら止められる?」

「今度こそは止めたい」


 斐羅ははっきりと口にした。


「いくら強いっていっても今井だってもうヘトヘトなんだよ。ここは一肌脱いでやってくれないか」

「和泉……」


 明はしゃがんで「うーん」とうなった。二人にここまで言われたら断れないじゃないか。里恵が追い討ちをかける。


「明。アタシももう、限界なんだ」


 里恵がこんなことを言うなんて思っていなかった。明の心が揺れる。


「私なんかに、里恵のことを救えるの?」

「明は証言してくれるだけでいい。由紀たちがアタシの持ち物を隠したりしてるって」


 明は決心した。


「……分かった」

「ホントか? ありがとな、明!」


 里恵は表情を明るくすると明の背中を叩いた。


「まだお礼言うのは早いよ……。それに、痛い」

「ごめんごめん。じゃあ、楽しい夏休みの計画でも立てようぜ。もうすぐじゃん」

「俺、夏期講習があるんだけど……」

「じゃ、直史抜きで」

「ちょっと、なおくん可哀想だよ」


 一気に明るい話へと変わった。里恵がこんな風に笑うのを知っているのは、自分と家族、直史、斐羅ぐらいなんだろうな。ころころ変わる里恵の表情に明は惹かれていた。


「アタシ、花火したい」

「いいね」


 斐羅が笑う。


「じゃあ私、プール!」


 明が手を上げて発案した。すると、


「私、プールは……」


 と斐羅の顔が曇った。


「もしかして、泳げないとか?」

「いや、斐羅は水泳得意だったよな? どうしてだ?」

「うん……ちょっと、ね」


 言葉を濁す斐羅。そして話を逸らした。


「あ、私お祭り行きたいな」

「あー、お祭りいいな。アタシ、お化け屋敷大好きなんだ」

「私も」

「俺も好きだな」

「え、みんなちょっと待ってよ。私、超苦手なんだけど……」


 明が泣きそうな顔をする。


「決定。じゃあみんなでお化け屋敷行こうな」

「里恵酷ーい……」


 里恵は白い歯を見せた。


「夏休み、楽しいかなあ」


 斐羅が呟く。


「楽しいよ。絶対」

「アタシが楽しくしてやるよ」


 里恵がにっと笑った。


「今井も夏休みはちょっとは勉強しろよ」

「えー、ヤだよ」

「お前、本当にどこの高校にも行けなくなるぞ」

「だから高校は行かないって」

「安藤はどうするんだ? 高校」

「私は……」


 斐羅は言いよどんだ。


「おい、そういうこと訊くの止めろよ」


 里恵が直史を突っついた。


「大丈夫だよ、里恵。私は……まだ分からない。迷ってる」

「本当は行きたいんじゃないのか?」


 と直史。


「行きたいけど……私には自信ない。三年間も通えるのか。それに、今の内申じゃあ行けたとしてもすごく偏差値の低いところになると思う」

「試験でいい点取れば大丈夫だろ。斐羅は頭良いんだから」

「ううん」


 斐羅は首を横に振った。


「頭が良かったのは昔の話。もう今は全然。勉強、する気が起きなくて」

「へえ、安藤にしては珍しい言葉だな。努力の塊みたいな性格してるのに」

「だって、勉強して何になるの? 将来のため? 将来って何?」


 斐羅が直史に畳み掛けるかのように質問した。直史は困った様子で、


「良い人生を送る為じゃないのか?」


 と答えた。


「良い人生って何?」

「良い仕事に就いて……」

「良い仕事って?」

「……」

「私には、未来なんて見えないよ……」


 斐羅の顔を見ると、泣きそうだった。斐羅は今を生きるので精一杯なんだと里恵が言っていた。確かに、斐羅には未来を考えるほどの余裕がないように見えた。


「じゃあ、安藤さん、昔は何で勉強してたの?」


 明が訊いた。


「何か、とりえが欲しかったから。勉強しか能がなかった私は、今は誇れるもの、何もない」


 そう答えて哀しそうに笑った。生ぬるい風が斐羅の髪をなびかせていた。


「斐羅には良いところいっぱいあるじゃんか。真面目だし、優しいし」


 里恵の言葉に斐羅はううんと首を振った。


「私は、お母さんの言うとおり、犯罪者なんだよ」

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