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15歳。  作者: 月森優月
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第38章 助けてあげて。

 心臓がドキドキする。明は里恵のマンションの前まで来ていた。部活を休んで、誰にも見られないようにしてここまでやってきた。里恵に会ったらまず何て言おう? やっぱり、謝るのが一番だろうか。でもそれだけでは里恵が怒りそうな気もする。――どうしよう。

 迷いながらエレベーターに乗り込む。屋上に着くと、明は深呼吸をした。そして、ドアを開ける。するとそこには里恵、直史、斐羅が座っていた。


「江川……」


 一番に声を出したのは直史だった。


「里恵に呼ばれてたから」

「よっ、スマイリー」


 里恵の言葉は皮肉めいていた。


「安藤さんも来てたんだ」

「うん……。ありがとね」


 斐羅が言った。


「ううん。ごめんね、今まで来れなくて」

「安藤、心配してたぜ。江川と今井がまた喧嘩したんじゃないかって」

「喧嘩はしてないけど……」


 里恵の方をちらりと見る。彼女は頭を掻いていた。明が名前を呼ぶ。


「里恵」

「いいんだ」

「え?」

「アタシは何をされても別にいいんだ」

「……」

「里恵は強がっているわけじゃない」


 斐羅が明の考えていることを読み取ったかのように言った。


「里恵は、強いから」

「本当に? 辛くないの?」

「辛かったら何かしてくれんの?」


 里恵が言った。明は閉口する。


「ただ、やられっぱなしってわけにはいかないな」

「……やりかえすの?」

「由紀たちなんかボコボコにしてやるさ」

「駄目だよ、里恵。暴力はよくない」


 斐羅がぴしゃりと言う。


「お前また警察に補導されるぞ」


 また、ということは以前にもあったのだろう。里恵ならやりかねない。


「あいつら超ムカつく。お気に入りのシャーペンまで盗まれた」

「それって、なおくんがプレゼントしてくれた……?」

「え?」


 何だ、それ。


「アタシが前に落としたシャーペンだよ」


 杉沢が落ちたときに落としたものか。だから、直史はすぐに里恵のものだと分かったのか。


「和泉って女子にプレゼントするような奴だったんだ」

「昔の話だよ」


 直史が言った。


「そういえば……」


 杉沢と一緒に歩いていた、というのは本当だろうか。そう訊こうとした。


「そういえばで思い出したんだけどさ、淫らに乱れるって書いて何て読むんだ?」

「え」


 明はぽかりと口を開けた。


「……インラン」


 斐羅が遠慮がちに答える。


「って何?」

「……」

「お前、馬鹿だな」


 直史が言った。


「うるせえなっ。アタシだって、直史と斐羅みたいに頭良く生まれたかったよ!」

「努力の賜物ですよ、今井さん」


 里恵の言葉に直史が笑った。


「江川、さん」


 斐羅が小さな声で呼ぶ。


「何?」

「里恵のこと……助けてあげて。この問題は里恵の力だけじゃ解決出来ない」

「アタシ一人で充分だよ」

「どうやって? どうやって解決するの?」

「それは……今から考える」

「お願い、江川さん」


 明は返事に困った。里恵のことをかばったら自分だっていじめられるに決まっている。自分は、里恵ほど強くはない。


「……ごめん」


 やっとそれだけ口にした。


「いじめの傍観者ってどんな気分なわけ? 見てて楽しいか?」


 里恵が口にした言葉は棘のあるものだった。


「楽しいわけないじゃん。私、里恵のこと好きだよ。でも……。でも、助ける勇気が私にはない」


 すると里恵は立ち上がった。目線の高さが明と同じになる。


「明みたいなどっちつかずな奴みると苛々するんだよ」

「……ごめん」

「アタシは謝られたいわけじゃない」

「じゃあ、里恵はどうしてほしいの?」


 眉間に皺を寄せながら細い声で言った。


「……」


 里恵が目を伏せる。


「里恵はね、本当は自分の元に戻ってきてほしいんだよ」


 斐羅が言った。


「……私、里恵のこと裏切ったのに?」

「明はアタシのこと友達って思ってないのか?」

「友達……だよ」


 そうだ、私は里恵の友達なんだ。明は心の中で呟いた。沈みかけた夕日が四人を照らしていた。

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