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15歳。  作者: 月森優月
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第37章 いじめ。

 修学旅行が終わって四日後、里恵は学校に登校してきた。明は逃げるように席を立ってナツキたちのところへ行った。


「あれっ……」


 里恵が机の中を何やらごそごそ探しながら呟いた。そして、大きなため息を一つ。ちらりと由紀たちの方を見る。由紀たちは里恵の視線に気付いているのかいないのか、大声で笑っていた。

 続いて、明たちの方にも視線を向けた。


「やだー、今井さんこっち見てるよ」


 紀子が言った。里恵がこちらに向かって歩いてくる。明は身体を強ばらせた。


「やったのはあんたたち? それとも由紀たち?」

「ねえねえ、知ってる? 今度この街で一青窈がライブするんだってさ!」

「マジ? あー、でも私ファンじゃないからなあ」


 里恵の問いを無視してナツキと紀子は話す。


「スマイリーは好きだったよね? 一青窈」

「え、あ、うん……」


 急に話を振られて戸惑う。


「やったのかやってないのかくらい答えろよ!」


 里恵が苛ついた態度をあらわにした。


「何の話?」


 ナツキがめんどくさそうに訊く。


「教科書。隠したの、お前ら?」

「そんなことしてないよ。ねえ?」


 紀子がうなずく。すると里恵はふっと笑った。


「だよな。あんたたちは所詮他人に流されて生きているんだもんな」


 流されて生きている。それは昔の自分。みんなと一緒に行動して、みんなと一緒に悪口を言って。そんなのが嫌で、だから、一人でいる里恵を尊敬して、友達になって。なのに、自分は里恵を裏切った。また、昔のスマイリーと同じ。人の顔色をうかがってしか行動出来ないんだ。里恵の言葉が明の胸にちくりと刺さった。

 ナツキは何か言いたげだったが、結局何も言わず、里恵を無視してお喋りを再開した。


「ねー。何かゴミ箱臭いんだけど」


 由紀が教室のみんなに聞こえるような声で言った。


「何か臭いものでも捨ててあるんじゃない? 教科書とか」


 と由紀の友達。里恵はゴミ箱の中を見た。すると、そこには教科書が捨てられていた。里恵はそれを拾い出すと、由紀たちの方を睨んだ。


「お前ら、随分姑息な手使うじゃん」

「ねえ、何か聞こえた?」

「なーんにも」

「そうだよねー」


 由紀たちがぎゃははと笑う。


「絶対……許さないから」


 里恵は怒りの目でそう言うと教科書を持って席に戻った。予鈴が鳴り、明も席に着く。すると、前の席に座る里恵の広げた教科書が目に入った。そのページには、


『死ね! 淫乱女』


 と赤いマジックで書いてあった。これはシカトなんかじゃない。


 いじめだ。


 でも、今里恵をかばったら自分がいじめられる。それが怖かった。なら、どうしたらいい? この学校で里恵のことを相談出来る人といったら、あの人しかいなかった。




「え、今井が?」


 いじめのことを告げると直史は驚いた顔をした。


「そう。でも、私には止められないし……」

「女同士で起きていることなんだから俺にも止められねえよ」

「そこをどうにかしてよ」

「無理だよ」

「そんなー……」


 明は落胆した。


「先生にチクるっていうのは?」

「そんなんでいじめが収まるとは思えないよ。それに、もし私がチクったってバレたら……」


 そうやって直史と明が廊下で話しているときだった。


「あ」


 先に声を出したのは里恵だった。


「お前ら……」

「今井……」


 明は罪悪感から目を逸らす。


「二人きりで、何のお話?」

「お前のことだよ」

「アタシの?」

「いじめに遭ってるんだって?」


 言わないでよ、と明は直史に目で訴えたが、通じなかった。


「あー。クラスの女子ね。で、それがどうしたって? かばってくれでもするの?」

「……」


 明は返事が出来なかった。


「お前なら、どうにか打開出来るだろ? 負けんなよ」

「当たり前。アタシは別に人の助けなんていらない」


 それは、強がりなのか、本当なのか。


 いじめはその後も執拗に続いていた。無視、物隠し、悪口……。

 明は一回も口をきいていなかったし、里恵のマンションの屋上にも行っていなかった。斐羅だって待っているというのに。里恵と言葉を交わすのを避けていた。怖かった。里恵には嫌われているに違いない。そんなの分かっている。だけど、それを直接言われるのが怖かった。そんなとき、里恵が自分から話しかけてきたのだった。


「今日の放課後、屋上に来いよ」


 と。

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