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15歳。  作者: 月森優月
35/83

第35章 隠し事。

「つまんねー。寺見て何が楽しいんだよ」

「でも、金閣寺綺麗だったじゃん」


 タクシーの隣に座る里恵に言った。一緒に乗っているナツキと紀子は無言だった。この日、明たちは専属のタクシーでお寺巡りをしていた。


「次行くところには恋の神様がいるんだって」

「寺なのに?」

「うん。里恵は……付き合っている人とかいるの?」

「ここで発表するの?」


 里恵はナツキと紀子の方を見た。二人は下を向く。明が、


「あー……」


 と声を漏らした。気まずい沈黙が流れる。


「ねえ、スマイリーは? 好きな人いるの?」


 紀子が場に合わない明るい声を出した。


「えー、私ぃ? いないよー。紀子ちゃんは?」

「私は……」


 ちらっと紀子が里恵の方を見た。そして言った。


「……今井さん、和泉って彼女いるの」

「えっ!」


 明は背もたれに寄りかかるのを止めて声を出した。里恵は一瞬目を大きくして、


「……へえ、直史ってモテるじゃん」


 と言った。


「でも何でアタシに訊くの?」

「和泉と仲いいみたいだから……」

「いたらどうすんの? 諦めるの?」

「分かんないけど……」


 里恵がふっと笑った。


「安心しな。あいつに彼女はいないよ」

「本当?」

「ああ」

「好きな人も?」

「それは知らねえな。本人に訊けば?」

「そんなこと出来ないよう……」

「それにしても恋ってすげえな。嫌いな人にまで訊けるパワーを持っているんだもんな」


 それは嫌味にしか聞こえなかった。嫌いじゃないよ、という紀子の小さな声を里恵は聞こえないかのように無視した。


 恋の神様がいるという寺に着くと、明はその周りを三回回ると恋が実るという石の周りを回った。


「私、本当は好きな人いるんだ。ナツキたちには内緒ね?」

「誰だよ」

「山本くんっ」


 同じクラスの男子だ。


「里恵は石の周り回らないの?」

「アタシはいいよ」

「やっぱり付き合ってる人いるの? ナツキたちあっちにいるから聞こえないよ」

「……言いたくない……」


 そう言った里恵の顔は、今までに見たことのない暗いものだった。明は驚いた。


「里恵、どうしたの?」

「いや」


 これ以上話したくない様子なので、明もそれ以上は訊かなかった。


「あ、和泉じゃん」


 他の寺を回っていると、直史のグループと会った。グループの男子と仲良さそうに話している。ただし、クボタを除いて。クボタはパンフレットをじっと見つめていた。と、彼が転んだ。しかしグループの男子は誰も声をかけようとはしない。直史がちらりとクボタを見たが、すぐに視線を逸らした。


「クボタって本当ドジだよねー」


 ナツキが紀子に話しかけた。


「ドジっ娘って奴?」

「全然萌えねー」


 二人は笑った。今までの明だったら一緒に悪口を言っていたことだろう。


「クボタ、ヤバいぞ」


 里恵がナツキたちに聞こえないよう小声で言った。


「ヤバいって?」

「あいつ、いつかいじめられるぞ」

「……かもね。杉沢が退院したら危ないかも」


 校舎から転落した杉沢。あの事故に、本当に里恵は関わっていないのか、未だに分からなかった。杉沢、という言葉に里恵の肩がびくりと動いた。


「里恵?」

「……何でもねえよ」


 またもや何も話したくない様子でそっぽを向いた。里恵は何か隠し事をしているのではないか? 明の頭に疑問が浮かんだ。援助交際だって、もしかして本当は隠れて――。考えたくないのに考えてしまう。


「いじめないよな?」

「え?」

「明はいじめないよな?」

「あ、当たり前じゃん」

「いじめなきゃ他の奴らにいじめられることになっても、いじめないよな?」

「……うん」


 本当は自信がなかった。

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